第70話 遊佐紀リンは薬草を納品する
ワルツさんにはトイレに行ってくると嘘を言って、一度拠点に帰り、ツバスチャンが育ててくれたダイジョブ草を受け取った。
その数、500株――有言実行してくれた。さすが優秀なコンシェルジュ。
そのうち、400株は納品する。
今回の依頼はダイジョブ草の納品10株以上であり、上限は無し。
もちろん、報酬は歩合。1株につき120イリス。3600円といえば私がいつも勝ってるキャベツ20玉分だ。
結構貴重な薬草らしい。
全部受け取って帰った。
ツバスチャンにお礼に何か買って帰ろうかと言って、虫を頼まれたらどうしようかと思ったけれど、頼まれたのは布や糸、綿などの再訪道具だった。
なんでも暇な時間に裁縫をしたいらしい。
ツバスチャン、裁縫が趣味なんだとか。
鶴の恩返しならぬ燕の恩返しとか言って、美少年に化けて「機織りをしているところは見ないで下さい」とか言ってくれるのだろうか?
それはちょっといいかも。
「どうかなさいました?」
「ツバスチャンって人間に化けることってできるのかな? って思って」
「変身できますよ」
「できるのっ!?」
「ですが、私はこの姿に誇りを持っていますので、無闇に変身したりは致しません」
そうなんだ。
うーん、ちょっと見たいけれど、でもペンギン……じゃなくてゆるキャラツバメの姿でいることがツバスチャンのアイデンティティっていうのなら、無理に変身させるのはダメだね。
ちょっと期待しちゃったけれど、忘れることにする。
冒険者ギルドに戻る。
「ワルツさん! ダイジョブ草を持ってきました」
「おお、そういえばそっちの依頼があったな。何本持ってきた? 時間がなかったから数は揃えられなかっただろ? 運ぶのはともかく、集めるのに収納能力は関係ないからな」
「はい、四百本持ってきました」
私は指を四本立てて言った。
すると、ワルツさんは満足そうに頷く。
「そうか、四本か。この短時間で四本も集まったら上出来だな。新人冒険者の中でも一日で四本集められる奴は滅多にいないぞ」
「いえ、四百本です」
「よ、四本だろ?」
「いえ、四百本です」
「四十本だと言ってくれ」
「四百本です」
私はダイジョブ草を四百本を取り出して並べた。
ワルツさんが言葉を失う。
石材については、私が収納能力を持っていることである程度覚悟はしていたのだろうけれど、こっちは寝耳に水の状態のようだ。
と思ったら、今度は水をぶっかけられたように意識を切り替えた。
「……おい、ダイジョブ草の常時依頼を撤廃しろ。十年分の薬草が集まった。薬師ギルドの連中にも伝えてくれ。戦いの前だ。ここで恩を売っておくのも悪くない。商業ギルドの連中には知られるなよ! 薬瓶や傷薬の他の素材の値上げをしてくる可能性がある!」
「「はい!」」
ワルツさんの指示に従い、冒険者ギルドの人たちが動き始めた。
凄い、ワルツさんが有能に見えてきた。
私は年下よりは年上の方が好きだけど、おじさんフェチじゃない。
それにしても、私が集めた薬草、十年分だったんだ。
ダイジョブ草を納品している間もエミリさんの話し合いは進んでいるらしく、まだ戻ってこない。
地図を見ると、みんな会議室に残っているのがわかる。
「ワルツさんは話し合いに参加しなくてもいいんですか?」
「ああ、いいんだ。いま会議室で進行役を纏めているのは俺の部下の中でも最も優秀な奴だ。ギルドマスターの仕事なんて、部下が決めた作戦に判を押して、いざというときは責任を取る。あぁ、それにしても今度始まるスライムの品評会の準備もあるっていうのに、忙しいったらありゃしねぇ」
「スライムの品評会も冒険者ギルドの仕事なんですね」
「そりゃ、スライムって言っても魔物だからな」
その後、会議室での話し合いは深夜まで続いた。
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