第67話 遊佐紀リンは新人冒険者の救助をする

 新人冒険者たちが向かった先にゴブリンのシャーマンがいるらしい。

 Gランク冒険者には荷が重い敵だという。


「急いで追いかけないと」

「待て、リン。まずは私たちの準備をしてからだ。無鉄砲に突っ込めば私たちが痛い目に遭うかもしれない


 ……確かに、ミイラ取りがミイラになるって言うもんね。

 私は少し冷静になる。


「ゴブリンのシャーマンってどんな攻撃してくるんですか?」

「ゴブリンシャーマンは呪術を使う。声が出なくなったり、動きが鈍くなる程度の呪いだが、しかしいつも通りの動きができないと、ゴブリン相手でも苦戦は必至だ」

「エミリさんも経験があるのですか?」

「いや、私は勇者体質のせいでゴブリンの呪いは効かないんだ。もっと大きな呪いにかかっていたからな」


 エミリさんは勇者体質のせいで、人に恨まれたらそれが呪いとなって自分の身を蝕む。

 それこそ命を奪うような呪いだったらしい。

 私の薬でエミリさんに溜まっていた呪いは一応解消したけれど、勇者体質が無くなったわけではないので、数年に一回は薬を飲む必要があるらしい。


「儂は呪術は専門外じゃからな。リン、解呪ポーションはどれだけある?」

「えっと、10本ほど」

「結構あるのぉ。そういうポーションは短い時間じゃが予防効果もある。予め飲んでおいた方がよかろう」


 ナタリアちゃんのアドバイスを受けて、解呪ポーションを取り出して全員で飲む。

 呪いに掛からないって言っていたエミリさんにも念のために飲んでもらった。

 これでゴブリンのシャーマンの呪いを予防できる。


「まぁ、儂やリンは動きが鈍くなったところで銃を撃ったり魔法を撃ったりする分には問題ないんじゃがな」


 そうだった。


「おおい、中は複雑だ。これを持っていってくれ。たぶんガキ共はこの辺りに向かったはずだ」


 管理人のおじさんが石切場の地図を持ってきた。

 私の地図だと限られた範囲しかわからないから助かる。

 私たちは地図を頼りに、石切場を下っていく。


 おじさんから貰った地図だけだとわかりにくいところがあるけれど、私の能力で見られる地図と合わせたら移動しやすい。

 それに、ナタリアちゃんが魔法で光っていてくれるので暗い坑道でも楽々進める。


「エミリさん、あっちの袋小路に敵がいます。四匹ですね。あの子たちの反応はないです」

「挟み撃ちになるのは避けたいな。先に倒しておこう。ナタリアはここで待っていてくれ」

「儂がいないと灯りがないじゃろ?」

「大丈夫だ、私はゴブリンより夜目が利く。せっかく敵の居場所がわかってるんだ。奇襲させてもらおう」


 そう言うと、エミリさんが脇道に入っていった。

 暫くすると、動物の断末魔の叫びが聞こえてきた。

 そして、エミリさんが帰ってきた。

 エミリさんなら楽勝だと思ったけれど、返り血も浴びていないってどういうこと? ゴブリン全員貧血だったの?


「数がわかっているから戦いも楽だった。リンの手柄だな」

「絶対に違うと思います」


 いまの戦いの手柄を割合で言ったら、10:0でエミリさんの手柄だよ。

 最初に出会ったのがエミリさんでよかったよ。

 さらに坑道の奥に行き――


「見つけました! さっきの冒険者と思います! 敵に囲まれています! あっちです! でも――」


 おじさんから聞いた冒険者たちが向かった場所と違う。

 もしかしたら道に迷ったのかもしれない。

 それはいい、それはいいんだけど――ううん、考えるのはあとだ。

 急いで行かないと。

 かなり危ない状況にあるのは確かだ。


 聖銃を取り出す。

 狭い坑道だ。

 撃つ時は慎重に、跳弾に気を付けないと。


 戦っている音が聞こえてきた。

 そして、見つけた。

 男の子が女の子を庇って戦っている。

 そして、ゴブリンが剣を持っていまにも男の子に斬りかかろうとしている。

 エミリさんが走っても、ナタリアちゃんの魔法も間に合わない。

 判断は一瞬だった。

 銃口から出た吸血の弾丸が一直線にゴブリンに飛んでいき――


「……当たったっ!?」


 自分でも驚くくらい綺麗にゴブリンの身体に命中した。

 と同時に、私の身体が疲れが消えた気がした。これが吸血の弾丸の効果か。

 ゴブリンは銃弾を食らった衝撃で剣を落とす。


「よくやった、リン!」


 エミリさんがそう言ってゴブリンの群れに飛び込んでいった。

 私たちも向かった。


「助けにきたよ。これ、回復薬だから飲んで」


 私は男の子と女の子にポーションを渡すが、二人が何かを訴えかけるような目でこちらを見てくる。

 声が出ていない?


「リン、こやつら呪われておる。先に解呪ポーションを飲ますんじゃ」


 ナタリアちゃんに言われて私はポーションじゃなくて、解呪ポーションに持ち替えて、二人に渡した。


「これ、呪いを解くポーションだから先に飲んで」

「安心せい、タダじゃ。金を要求したりせん」


 ナタリアちゃんがそう言うと、二人はお互いの顔を見て、頷き、薬を飲む。


「喋れる……それに身体も動く」


 よかった、無事に呪いが解けたようだ。


「ありがとうございます。あの、さっきのポーションをください!」

「あ、解呪ポーションを飲んだ直後だから少し待って。えっと、30秒くらい間を開けないとポーションの効果が出ないの」


 ゲームシステムらしく、回復アイテムは連続して使えないってアイリス様に教えてもらった。

 不便なシステムだ。


「私が使うんじゃありません。カイトが! カイトが私を庇って怪我して! 早く治療しないと」


 女の子が泣きそうな声で言って、洞窟の奥にいる少年を指差す。

 血だまりの中に倒れている。

 私は彼女の手を握った。


「あのね……落ち着いて聞いて」

「お願いです! お金なら払いますから!」

「お金は要らないの……その……あの男の子は――」


 私も言葉が詰まった。


「無駄じゃ。あやつはもう死んでおる。リンの回復薬でも死人は蘇らん」


 ナタリアちゃんが言った。

 その通りだ。

 ここに来る前から気付いていた。

 私が地図で彼らを見つけたときから、白いマークが二つしかなかったことに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る