第66話 遊佐紀リンは収納自慢をする
エミリさんが帰ってきた。
自分の身体よりも遥かに大きなオークを引きずっている。
「リン、ナタリア、待たせたな。薬草は見つかったのか?」
「はい……あの、そのオークは?」
「ああ、途中で見かけてな。本来なら全部持って帰るのは無理なんだが、今日はリンが一緒だから持ってきた」
持ってきたんだぁ。
だったら仕方ないなぁ。
道具欄に収納して、解体もしながら、さっき出会った冒険者のことを言う。
「なるほど、新人冒険者のゴブリン退治か……まぁ、心配は無いと思うが」
「やっぱり大丈夫なんですか?」
「滅多なことがない限りはな。所詮はゴブリンだ。ナタリアは何故気になったんだ?」
「ううむ、これは妖精の勘という奴じゃが、どうも嫌な風が吹いておる」
嫌な風?
虫の知らせってやつかな?
とナタリアちゃんの羽を見てそんな言葉が思い浮かんだ。
「どのみち石切場には行くんだ。様子を見に行こう」
「そうですね」
本当はここで休憩してから石切場に行く予定だったんだけど、予定を前倒しして先に石切場に向かった。
石切場っていうと崖とかを切り開いているイメ―ジだったけれど、私たちが向かった先の石切場は地下に掘っている感じの石切場だった。
石切場の隣には小屋があって、そこが石材の管理所になっている。
まずはそこに向かった。
小屋の中は誰もいなかったけれど、隣で石切場から運んできた石を整理している屈強そうなおじさんを見つけた。
「すみません、冒険者ギルドから来ました」
「今日はやけに子どもが来るな……さっきの奴らの友達か?」
「違います。私たちは石材の搬送の方です」
「搬送って嬢ちゃんたちが? おいおい、大丈夫かよ」
「はい。私、収納能力があるので」
わかるように、近くにあった私の身体と同じくらいの大きさの石材を道具欄に入れて見せる。
「おぉ、消えたっ! それが収納能力か。初めて見たな。重くないのか?」
「はい、一度収納してしまえば重くありません。取り出すときも――この場所に出てきてって念じたら――とちゃんと出てきます」
「そりゃ見事だな。どれだけ収納できるんだ?」
「だいたいこの石材なら1000個くらいなら運べると思います」
正確には同じ種類のものが999個まで入るらしいけれど、ほぼ1000個ってことで。
「ははは、そんなに用意してないな。でも助かる。さっきはバカにして悪かった」
おじさんはそう言って笑いながら謝罪した。
「石材を運ぶ前に質問だが、この石切場にゴブリンが出たんだな?」
「ああ、ここの石切場は昔は鉱山でな。なんでもアダマタイト? アマンタイト? 忘れちまったがそんな貴重な石が見つかるらしくて結構複雑に掘られてるんだ。それこそ天然のダンジョンのようにな。それで昔からゴブリンがよく来ては勝手に棲みついてな。そのたびに駆除依頼を出してるんだ。新人冒険者の度胸試しみたいなもんだよ」
「危なくないんですか?」
「怪我をしたって話は何度か聞いたが、それでも死んだ奴は一人もいない。依頼を受ける冒険者が来ないときは俺が倒すこともあるしな」
とおじさんは力こぶを作ってみせた。
うん、さっきの子どもたちより強そうだ。
でも、この話を聞くと問題なさそうだな。
「しかし、ここ一年は平和だったのにな。ポプリも買い替えたばかりなのに」
「ポプリ?」
「魔物避けのポプリだよ。ほら、ミスラ商会で売られてただろ?」
あぁ、あれか。
弱い魔物を遠ざけるってやつ。
そうか、あれを置けばゴブリンも近付かなくなるんだ。
「待て、魔物避けのポプリを置いたのにゴブリンが出たのか?」
「ああ、出たぞ。今朝も一匹倒した」
「これは厄介だな」
エミリさんは石切場の方を見て言う。
「どうしたんだ?」
「ミスラ商会の魔物避けのポプリが欠陥品だったというのならそれでいい。だが、もしも欠陥品じゃなかったとしたら厄介だ。ゴブリンの中にシャーマンが混ざっている可能性が高い」
「シャーマン?」
「呪術を使うゴブリンだ。魔物避けのポプリの効果を無効化できる。そしてシャーマンが率いるゴブリンの群れは、Gランクの冒険者が手を出すレベルじゃない」
ナタリアちゃんのイヤな予感が当たったみたいだ。
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