第65話 遊佐紀リンは薬草採取の依頼をこなす

 私たちは石切場へと向かった。

 エミリさんが周辺の魔物を退治しに行ったので、薬草の採取をする。

 採取ポイントは地図でわかるので、そこに向かった。

 いろんな草が生えている。

 今回採取しないといけないのは、「ダイジョブ草」って草だけど、どれだろ?

 とりあえず、似たような特徴の草を次々に抜いては道具欄に入れる。

 道具欄に草の名前が出た。


『ラジオタイ草』『インガイトウ草』『カゲキシ草』『コダイモウ草』

 似ている形の草でも全然違うな。

 依頼書のイラストもカラーにしてくれたらわかりやすいのに。


「リン、これはどうじゃ?」


 ナタリアちゃんも草を持ってきた。

『ニチロセン草』『サントウグン草』『ギャクテンノハッ草』

 うーん、全部違う。

『ダイジョブ草』

 あった、これだ!

 道具欄から出してみる。


 黄色い小さな花が咲いている草なんだ。

 うん、特徴はわかった。

 あとはこれをいっぱい……あれ?


 んー、ざっと見たところ同じ草はない。


「おぉ、この草がダイジョブ草か。儂はヒーリング草と呼んでいたな。薬効成分に優れておる……ただ、滅多に見つからない」

「みんなに採取されたのかな?」

「いや、ヒーリング草は本来は人の手の入っていない森の奥に群生地を持つ薬草でな。それ以外の場所では数本生えている程度じゃからこんなものじゃろう」

「んー、じゃあ畑に植えて増やした方がよさそうだね」

「ヒーリング草は魔力の濃い場所でしか育たないから、ダンジョンの奥底や森の中でしか育たんぞ?」

「そうなんだ。でも、ほら、拠点に帰れば――」

「あぁ、そうじゃったな」


 私は帰還チケットを使って拠点に帰り、


「ツバスチャン、これ増やせる?」

「はい、畑で増やしましょう。夕方までに500株用意いたします」

「ありがとう」


 と万能コンシェルジュのツバスチャンにお礼を言って、送還チケットで薬草畑に戻った。

 これで薬草採取の依頼はほぼ達成確定と。

 さて、帰ってもっと採取しよう。


「それにしても、ここって本当にいろんな草が生えてるね。なんでだろ?」

「それは、あやつらのせいじゃ」


 ナタリアちゃんが上を見る。

 そこには胸の部分だけが青色の白い小鳥がいっぱい飛んでいた。


「ブルーハートバードじゃ。あやつらが植物の種を運んでくるのじゃろう」


 あぁ、だから森の奥に生えているダイジョブ草もここに生えてるのか。

 とりあえずもっと採取しよう。

 他に採取ポイントはないかなって地図を見たら白いマークが三つ、こっちに近付いてきた。


「リン、誰かきおったぞ」


 ナタリアちゃんが私の肩に座り言った。


「うん、地図で確認したよ。敵じゃないみたいだけど」


 腰を上げて白いマークが来る方向を見る。

 やってきたのは三人の子どもたちだった。

 中学生か高校一年生くらいの年齢の男の子二人と女の子一人。

 私と同じように薬草採取に来た冒険者だろうか?

 それっぽい装備をしている。

 彼らも私に気付いたようで、男の子が口を開いた。


「なんで子どもがこんなところにいるんだ?」


 ピクっ!

 年下にすら子ども扱いされるのぉ?


「ね、ねぇ、君たち、何歳?」

「俺たちは十五歳だ」

「ああ、冒険者になれるのは十五歳になってからだからな」

「私が十五歳になるまで待たせちゃってごめんね」


 うん、やっぱりそうだよね?

 

「私、十七歳だよ。あなたたちよりお姉さんだからね」

「「「うそっ!?」」」


 もう、何回このやり取りをしないといけないの。

 でも、いまはこの方法がある。


「はい、これ冒険者カード。ちゃんと十七歳って書いてあるでしょ?」


 身分証明書を見せれば三人とも納得した。

 日本にいた頃も学生証は常に手放せなかったよ。


「なんだ、俺たちと同じGランクか」

「あんたは薬草採取に来たのか? ダイジョブ草は滅多に見つからないからやめたほうがいいぞ」

「私たちも依頼を受けたことあるけれど、結局三本しか見つからなかったもんね。」

「忠告ありがとう。でもそっちはもう大丈夫よ。君達は別の依頼を受けたの?」

「ああ、ゴブリン退治だ。石切場で目撃情報があるらしい」


 石切場か。

 でも、ゴブリンなら私でも倒せそうだし、この子たちでも平気かな?

 と思っていたら、私の肩に座っていたナタリアちゃんが


「小童どもよ、ゴブリン退治の経験はあるのか?」

「うわ、なんだこれ!? 人形じゃなかったのか?」

「そういえば町の人が話してたぞ。昨日、この町に妖精族フェアリーが来たって」

「うそ、初めて見た! カワイイ!」

「儂の質問に答えんか、小童が」


 ナタリアちゃんがそう言うと、三人は顔を見合わせて言う。


「初めてだ」

「でも、ゴブリンは雑魚だし、俺たちでも余裕だぞ」

「私はちょっと怖いけど……」

「そうか。ゴブリンは確かに弱い。じゃが、決してバカというわけではない。油断していい敵ではないぞ。もしよければ儂等の仲間がもうすぐくるから一緒に――」

「へん、ゴブリンごときに助っ人を頼むなんてしてられるか。他の冒険者に笑われる」

「そうだな。先輩は冒険者になる前からゴブリン退治して遊んでたって言ってたし」


 男の子二人はそう言ってナタリアちゃんの言葉を聞こうとせずに、「行くぞ」と女の子と一緒に去ってしまった。

 大丈夫かな?

 一緒に行った方がいいかもしれないけれど、でもエミリさんを待たないと。

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