第63話 遊佐紀リンは初めての買い物をする

「レッツショッピング!」


 買い物の予算は当初の4万イリスから6万イリスに増えた。

 本来なら、宿代や食事代などを考えて節約しないといけないんだけど、私たちは拠点に帰れば食事もベッドもお風呂までも用意されている。

 なので、町に入る時に支払う税金や細かい経費を除いて多めに使うことができる。

 最初に行ったのは町に入ったときに気になっていた小物や雑貨が売っている店だ。

 なにしろ、こっちは6万イリスある。たぶん200万円くらいの価値がある。金貨60枚だし。

 金貨だよ金貨!

 なんとなく大金持ちになった気分だ。


「へぇ、いろんなものがあるな。あ、このぬいぐるみカワイイ! ドラゴンのぬいぐるみだ…………えっ!? 1万イリスっ!?」


 値段を見てびっくりした。

 どうりでガラスのケースに入っているわけだ。

 というか、この世界の基準だとこのガラスのケースですらものすごい貴重なんじゃないかな?


「お客様、お目が高い。そちらは別大陸のダンジョンの中で見つかった一点もののドラゴンのぬいぐるみです。さわりごこちは最高! 枕にして寝れば素敵な夢が見られること間違いなしの逸品です! ミスラ商会が保証します」


 ウサ耳の生えた店員さんがやってきて説明してくれた。

 中途半端なバニーガールさんみたいだ。

 店長さん、そういう趣味なのかな?

 それにしても、ダンジョンの中ってこんなものも見つかるんだ。

 恐るべき、異世界。

 いくらダンジョン品だからってボッタクリな気がするけれど。


「特別な効果はないのか?」

「さわり心地が最高ということ以外は特にありませんね」


 ウサ耳店員さんが言う。

 素敵な夢が見られるって言ってたけど、そういう魔道具でもないんだ。


「そうか……まぁ、ミスラ商会の質は確かだからな。リン、買うのか?」

「よければ触ってみますか?」

「ごめんなさい、金貨10枚のぬいぐるみを触るのはちょっと怖いです」


 他のものを見る。

 魔物避けのポプリとミスラ薬っていうのが売れ線みたいだ。

 魔物避けのポプリは弱い魔物を遠ざける効果があって、ミスラ薬は不死生物アンデッドにダメージを与える効果があるって書いてあった。

 ……不死生物アンデッドってなに?

 どっちも一個1000イリスと、やっぱり高い。

 でも魔物避けのポプリは買っておこうかな? 可愛いし。

 ポーションも結構売っている。

 値段は安い者で100イリス、高い者だと5000イリスほど。

 本当にいろんなものが売られている。

 私が作ったポーションだとどのくらいで売れるだろう?

 買い取りもしていると書いてあるので、一本取り出して尋ねてみる。


「あの、このハイポーションって買い取りできますか?」

「買い取りですか? ハイポーションですね。こちらは7000イリスで買い取らせていただきます」

「7000イリス!? え? ここで一番高いのは5000イリスなのに?」

「こちらは全部ポーションですから。同じポーションでも質によって値段が変わります。ですが、こちらはハイポーションですからその分お高くなっております。当店に在庫がないので割高での買い取りですね。二本目以降でしたら3000イリスで買い取らせてもらいます」


 えぇ、そんなに高く売れるの?

 だったら――


「ハイポーション2本でドラゴンのぬいぐるみと交換ってできますか?」

「はい、こちらとしてもありがたい取引です」


 やった!

 1万イリスも使ってドラゴンのぬいぐるみを買うのはためらわれたけれど、緊急時に備えて何十本も作っているハイポーションのうち2本と交換だったらお得な気分だ。

 私はハイポーション二本を店員さんに渡して、代わりにドラゴンのぬいぐるみを購入した。

 店員さんからぬいぐるみを受け取る。

 うわぁ、本当にふわふわだ。

 

 あとは、シル用の首輪と……このランプもかわいい。二つで850イリスとぬいぐるみに比べたら遥かに安い。

 って、2万円オーバーと思ったら十分高いよね?

 金銭感覚がマヒしてきそうだよ。

 エミリさんも実用的なものをいろいろ買っている。


「ナタリアちゃんは何も買わないの?」

「いや、儂はお金を持っていないからのぉ」

「大丈夫だよ。安いものなら私が出すから(ナタリアちゃんに寄生したからこれからお金を稼いでもらえるわけだし)」


 小声でそう言うと、ナタリアちゃんは頷き、「だったら、店のワインを何本か欲しいの」と言った。

 そうだ、一本50イリスのワインと1万イリスのワインを買って、異世界格付けチェックとか……ってこれ以上の無駄遣いはダメだよね?

 それにしても、本当に面白い商品がいっぱいある。

 ミスラ商会、恐るべしだよ。


―――――――――――――――

 とある町にて。

「社長、例のドラゴンのぬいぐるみ。支店で1万イリスで売れました。ぴょん」

「マジか……ウサピーが絶対に売れるって言ってたけど、本当に物好きがいるんだな」

 

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