第62話 遊佐紀リンは魔物を買い取ってもらう

「それでは、魔物の買い取りを頼みたい。結構な量があるからここでは出せない」

「ん? あぁ、そっちの嬢ちゃんは収納能力を持ってるんだったな。そっちの妖精族フェアリーの嬢ちゃんは?」


 エミリさんの申し出に、無精ひげのおじさんは私たちを裏口に案内した。

 そして、外に出ると、すぐ隣の建物の中に入る。

 魔物の引き取り所と解体場らしい。

 建物の中では、大柄の男の人が大きなイノシシを解体しているところだった。


「なんだ、ワルツ。また解体か?」

「魔物の引き取りらしい。ああ、解体はしてるのか?」

「はい、解体しています」


 最初はエミリさんがイノシシを解体していたけれど、その後は開発欄で解体した。


「そうか、じゃあここに出してくれ」

「はい」


 ワイルドボアやレッドポイズントード、ダンジョンの中で倒した魔物やボスのフェアリーイーター、バジリスク、デスベルクリケット、各種スライム等々。

 全部解体している。


「凄い量だな。って、このバジリスク、変異種かっ!?」

「はい。死体を見つけました。肉の部分は腐ってましたけれど、鱗は使えるそうなので持ってきました」

「そうか……デスベルクリケットも凄い量だな。これは解体が厄介なんだが、かなり綺麗に解体しているな。フェアリーイーターは……ん? 蜜はどうした?」

「あの蜜は彼女が食べるので」


 ナタリアちゃんを見て言う。

 フェアリーイーターの蜜は瓶に入れてナタリアちゃんにプレゼントした。

 大事に食べているけれど、もう半分以上食べてしまったらしい。


「ああ、妖精族フェアリーにとってはフェアリーイーターの蜜は大好物だからな。買い取りたかったが仕方な……妖精族フェアリーっ! 初めて見たな」

「まぁ、人売りが怖いから町の中に入ることは滅多にないからのぉ」


 私も攫われそうになったばかりだからナタリアちゃんの気持ちはわかる。

 暫くは一人で町を歩きたくない。


「しかし、見事に解体しているな。これは嬢ちゃんが解体したのか?」


 解体場のおじさんがエミリさんを見て言うけれど、


「いや、解体したのはこの子だ」

「なんと……小さいのに大したものだ。どうだ? うちで働かないか?」

「お気持ちだけいただいておきます」

「気が変わったらいつでもこい」


 認められているのは嬉しいけれど、開発による解体はあんまり知られない方がいいよね?

 収納能力だけでも命を狙われているのに、開発能力なんて知られたら、街中の人売りに狙われそう。


「これだけ綺麗に解体してくれてたら査定も楽だな。ほら、ワルツ。これが査定額だ。嬢ちゃんに金を渡してやってくれ。このオークの睾丸は常時依頼の品だったはずだからそっちで計算してやりな」


 オークの睾丸……あぁ、うん。

 買い取ってくれてよかった。性欲剤の材料になるって開発欄にあったけれど結局そのままにしていた。

 私たちがスライムのダンジョンに行ってるときにエミリさんが狩ったオークのドロップ品だ。

 オークって木の魔物かと思ったら、実は豚人間の魔物だったときは驚いたな。

 でも、お肉はとても美味しかった。


 受付に戻り、買い取り額を教えてもらう。


「全部で14万5250イリスだな」


 日本円で……4000万円くらいっ!?

 凄い大金だ。

 内訳を見ると、変異種のバジリスクの鱗が3万イリス、デスベルクリケットが全部で5万イリスとかなりの額になっている。デスベルクリケットの鈴は工芸品に使われるそうで、その肉も食用に、さらに殻は錬金術の素材になるらしい。

 あと、依頼品だというオークの睾丸が2万イリスだった。


「どっちの口座に入金する?」

「では、私の方に4万イリス。残りをリンの口座に頼む」

「え!? でも、魔物を倒したのはほとんどエミリさんですよね!? 私、貰い過ぎですよ」

「気にするな。リンがいなければほとんど運べなかった魔物だ。それに、生活の方ではかなり世話になっているからな」


 お金はあって困るものじゃない。

 エミリさんの言葉に甘えて貰っておこう。

 無精ひげのワルツさんに冒険者カードを渡してお金を入金してもらう。


「あの、入金処理してもらってなんですけど、全額出金できますか?」


 私だったら、道具欄に入金しておけば盗まれる心配もない。


「いや、悪いが口座から出金できる額には限度がある。Gランク冒険者だと月に2万イリスまでだ。Bランクなら4万イリス出金可能だな」


 理由を聞いて納得した。

 ここは辺境の町。冒険者ギルドに大金を置いていない。

 王都からも遠いので、現金の輸送にも時間がかかるし、リスクも高い。

 大金を引き出されたら冒険者ギルドとしても困ったことになる。

 なので、一度に引き出せる額に制限を付けているそうだ。

 尚、お金の出金はこの町の冒険者ギルドでしかできないけれど、口座情報を別の冒険者ギルドに送ることで、送った先の冒険者ギルドで出金できるようになる。

 ただし、そうしたらこの町で出金できなくなってしまうらしい。

 電話やインターネットみたいに即時情報を伝える方法がないから仕方ない。


 なので、ここで6万イリス出金して、口座情報を王都の冒険者ギルドに送ってもらう。

 王都の冒険者ギルドなら全額出金できるそうだ。

 さて、冒険者ギルドの用事も終わったし、ようやく買い物ができるよ。

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