第60話 遊佐紀リンは冤罪をかけられる

「エミーリア、リン、ナタリア、貴様たちを暴行、傷害、殺人未遂、及び拉致監禁未遂の罪で捕縛する」


 衛兵の詰め所に連れていかれて、これで後は軽い事情聴取だけで終わると思ったのに、何故か私たち三人は四人の衛兵に囲まれて罪状を言い渡された。

 暴行、傷害、殺人未遂はわかる。ちょっと過剰防衛だったのかもしれない。狙うとしたら足にすればよかった。むしろ銃刀法違反っていう罪がなかっただけマシだ。

 でも、拉致監禁未遂ってなに?

 むしろ、拉致監禁されそうになったのは私なんだけど?


「どういうことだ?」

「しらを切るつもりか? この町では最近、拉致監禁事件が横行していてな。その犯人が貴様らということだ」

「私たちは今日町に入ったばかりだぞ? そんなことできるわけないだろう。町の記録を見ればわかるはずだ」

「ふん、それは貴様らを逮捕してからじっくり調べさせてもらうさ。さっきの男たちが目を覚ましてな。証言してくれたよ。あいつらは我々衛兵にもとても協力的な冒険者でな。いろいろと便宜を図ってくれている。今回も囮捜査として路地に入って待ち構えていたところ、貴様らに襲われたという証言を得ている。まったく、我々が間に合わなければどうなっていたことか」

「言っていることが滅茶苦茶です! 狙われたのは私ですよ! なんで私たちが狙われていることになっているんですかっ!」


 冤罪にも程がある。

 どうなっているの?


「無駄じゃ、リン。こいつらはあの男たちとグルなのじゃろう。協力的な冒険者――なるほど、その通りじゃな」


 衛兵と人攫いがグル?

 そんなのってあり!?

 衛兵たちは下品な笑みを浮かべて否定も肯定もしない。

 それが何よりの証拠だ。

 こうなったら全員倒して――


「おっと動くなよ。衛兵に対してたてついたら重罪だからな」


 公務執行妨害罪とかだろうか?

 ううん、ファンタジーの世界だったら、もう死刑ってのもありえる。

 迂闊に動けない。

 私は聖銃をいつでも取り出せるけれど、エミリさんは武器を預けてしまっている。

 こんな状態で逃げ出すことなんて――


「なるほど、よくわかった」

「ああ、そうだ。わかればいいんだ」

「お前達がクズだってことがなっ!」


 エミリさんが動いたと思ったら、次の瞬間、衛兵の一人を殴り飛ばすと同時に剣を奪い、隣にいた衛兵の首を斬った。

 首から血が噴き出て男が倒れる。


「ひっ!? お前、衛兵殺しは死刑だぞ!」

「今の声ですぐに人が集まる! お前らはおしまいだ!」

「そうか。じゃあ全員道連れにしてやる」


 エミリさんがそう言って残りの二人の首の血管を切り裂いた。

 一瞬のことだ。

 返り血が部屋に飛び散り、私の顔にも少し当たった。

 まだ温かかった。


 エミリさん……やり過ぎだよ。

 こんなことしたら――


「どうした! なにがあった!」

「なんだ、この状況は……お前らがやったのか!?」

「大人しく投降しろ!」


 もうダメだ。

 さっきまでは冤罪事件の被害者だったけれど、こんなことしたらもう大犯罪人だよ。

 そうだ、帰還チケットを使えば逃げれる。

 私は帰還チケットを取り出そうとしたけれど――


「リン、安心しろ」


 血に塗れたエミリさんが笑顔で言った。

 いつものエミリさんだ。

 何故だろう、こんな状態なのに少し安心した。

 そして、エミリさんは駆け付けた衛兵に言った。


「貴様らの責任者を呼べ。そうすれば大人しく投降しよう」


 彼女のその言葉に応えるように、一人の男が前に出た。


「この町の守備隊長を務めているガルエフだ。とんでもないことをやってくれたな」

「私はエミーリアだ。こいつらは人売りの連中とグルになって、人売りを撃退した私たちに冤罪を吹っ掛けようとした。だから斬った」

「こいつらが人売りとグルだというのなら由々しき事態だが、罪が明らかになっていない衛兵殺しは死刑だ。まずは大人しく武器を捨てて投降しろ」


 ガルエフさんがそう言うと、エミリさんは武器を捨てた。

 そして、懐から取り出した一枚のカードをガルエフに投げる。

 冒険者ギルドの登録カードだ。


 ガルエフさんは警戒しながらもそのカードを受け取り、そして目を見開いた。


「あなたは――」

「私の言ってることを信じていただけただろうか?」

「……ええ」

「そうか。なら、リン。ここに倒れている奴らの治療を頼む」

「え? 生きてるんですか?」

「お前に貰った手加減という能力を使わせてもらった。魔物相手にも試したが、このくらいなら死にはしない」


 えぇぇえっ!?

 首を斬られたのに、こんなに血が出てるのに生きてるの?

 ハイポーションの蓋を開けて、中身を衛兵にかけた。

 あ、傷が塞がって回復してる。

 ハイポーションは死んだ人には効果がないので、本当に生きているようだ。

 他の二人にもハイポーションを掛ける。

 殴られただけの人は……うん、使わなくても大丈夫だよね?


「あの傷が一瞬で――なんて威力の魔法薬だ」

「貴様ら、ぼさっとするな! こいつらを縛り上げてつれていけ! 人売りの連中にも尋問して真実を語らせろ! 一人くらい殺しても構わん! 衛兵の中に他の協力者もいるかもしれん。洗いざらい聞き出せ!」


 こ、怖い。

 一人くらい殺しても構わないって……それってもう尋問じゃなくて拷問じゃん。

 でも、なんで急に私たちのことを信じてくれることになったのだろう?


 エミリさんの冒険者カードを見て気が変わったようだけど、一体何が書かれているのかな?


「すまない、ガルエフ殿。ちょっと着替えをしたいので、個室に案内してくれないだろうか? 内側から鍵がかかる部屋だとありがたい。さすがに血がついたままだと気持ち悪いのでな」

「ああ、湯も用意させよう」

「いや、必要ない。自前のものがあるからな」


 周囲の衛兵が訝しむ目でこちらを見る中、私たち三人は個室に案内された。

 そして、内側から鍵をかけると、お風呂に入って着替えるために帰還チケットを使って拠点に帰ったのだった。

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