第59話 遊佐紀リンは引き金を引く


 えぇぇえっ!? 狙いってお金じゃなくて私っ!?

 私なんて、どこにでもいる普通の女子高生なのに?

 もしかして、おじさんたちロリコン?

 ミコから「リンはロリコンおじさんに需要ありそうだから、暗い路地に一人で入ったらダメだよ」って言われたことがある。

 ごめん、ミコ。暗い路地には行っちゃったよ。


「武器も何も持ってない嬢ちゃんが冒険者ギルドに登録許可された。それってつまり、特殊能力持ちってことだろう? そういう奴は高く売れるんだ」

「その身長、エルフの血が混じってるんだろ? ひひっ、やっぱり魔術師か?」


 どうやら、私の身体目当てじゃなかったみたい。ううん、厳密に言えば私の身体目当てなんだけど……ナタリアちゃんと同じように人身売買目的か。

 ここでもエルフって、エルフってそんな小さい人揃いなの?

 友達になれそうって思ったけれど、単純に成長が遅いだけで、大人になったらモデル体型の美形少女になるらしいので、私とは違うみたい。

 とにかく、この冒険者たちは私のことを拉致しやすい獲物と見たらしい。


「リン、下がってろ。こいつらは私が潰す」

「は、はい」


 エミリさんが剣を構える。


「一人で戦うつもりか?」

「今逃げるのなら好きにしていいぞ」


 男がそう言って通りぬけるように言う。

 たぶん、あの三人はエミリさんが怖いんだな。

 だから、エミリさんにどっか行って欲しいんだ。

 でも、エミリさんは最初から尾行されていることに気付いて路地に入った。

 そんな言葉に乗るはずがない。


「見え透いた嘘だな。私を逃がすつもりならそんな風に素顔を見せたりしない。どうせすれ違いざまに後ろから斬りかかるつもりだろう」

「気付いてやがったか」

「気付かない方がどうかしている」


 ……ごめんなさい、気付いてませんでした。

 そういえば、私たちの学校の教室に乗り込んできた宝石強盗も素顔を出したままだったけれど、あの人たちどうするつもりだったんだろ?

 そのまま海外に高跳びするつもりだったのかな?

 あの時の宝石強盗と比べると、目の前の人はあんまり怖くないかな?

 エミリさんが守ってくれているからだろう。


「おい、あっちの嬢ちゃんも笑ってるぞ。兄貴、舐められてるんじゃねぇか」

「いいさ、後で痛い目に合わせてやればいいんだ」

「おいおい、売り物に傷をつけるんじゃねぇっぞ」

 

 と言うと同時に、一人がエミリさんに向かって斬りかかるけれど、エミリさんはそれを難なく受け止める。

 と同時に勝負が始まった。

 三対一だというのに、エミリさんが楽々敵と渡り合っている。

 これなら心配ない。

 そう思ったとき、開きっぱなしにしていた地図に違和感が。

 さっき突然いなくなった敵の一人が路地の反対側から現れた。

 しまった、最初から挟み撃ちをするつもりだったんだ。

 私はエミリさんに注意を促そうとし、やめた。

 エミリさんはいま三人を相手にしている。

 一人くらいなら私が!

 銃を構える。

 薄暗い路地の角を曲がって男の人が現れた。

 ガタイのいい男の人だ。

 私たちが全力で逃げたときに待ち構えて時間を稼ぐ役目があるのなら、弱い相手じゃないのはわかっている。

 でも、ひとりなら――


 引き金に触れる指が震える。

 私はいま、ミコを殺そうとした銃を自分の手で

 男が迫って来る。

 剣を持っている。

 私が引き金を引かなければ殺される。

 なのに、引き金が引けない。

 もう……


「リンっ!」


 エミリさんの声が聞こえた。

 直後、私は引き金を引いていた。

 気付いた。

 ここで私が引き金を引かなければエミリさんが挟み撃ちで戦うことになる。

 私はずっとエミリさんに守られていた。

 今度は私が守る番だ。


「ぐあっ!」


 狙ったのはお腹。

 威嚇射撃じゃない。

 止めるためじゃない。

 ただ、ダメージを与えて動けなくするために打った。


「エミリさん、こっちは大丈夫です! 私も手伝いま――ってあれ?」


 エミリさんは既に三人のうち二人を倒していた。

 あとは一番後ろにいた背の低い人だけだ。

 だが、その人も仲間が全員やられたことで逃げ出し――


妖精の葉刃フェアリーリーフカッター


 空の上から葉っぱの刃が飛んできて逃げた男の人に降り注いだ。

 ナタリアちゃんだ。


「ナタリアちゃん、どこに行ってたの?」

「中に人売りっぽい雰囲気の奴がおったから念のために避難しておったのじゃ。まさかリンが狙われるとは思っておらなんだが」


 ナタリアちゃんは冒険者ギルドの中の人が人攫いだって気付いていたんだ。

 妖精族フェアリーにとって自分たちを誘拐しようとする人たちは天敵だから。

 でも、それならそうって教えてくれたら――ううん、教えてくれたところでどうにもならないか。


「リン、ポーションを頼む」

「はい」

 

 私が銃で撃った相手が血を流していた。

 手加減能力を使ったので致死性のダメージにはならないはずだけど、後遺症とか残ったら後味が悪い。

 ポーションで応急処置を施し、魔物に対して使っている縄で縛りあげる。

 

「何事だっ!」


 やってきたのはこの町の衛兵たちだ。

 よかった、これで終わった。

 事情聴取とかあるだろうけれど、これでようやく終われるよね?






「エミーリア、リン、ナタリア、貴様たちを暴行、傷害、殺人未遂、及び拉致監禁未遂の罪で捕縛する」


 えぇぇぇぇぇえっ!?

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