第58話 遊佐紀リンは冒険者ギルドに登録する

 冒険者ギルドに入ったと思ったら、ヤ〇ザ事務所だった件について。

 右を向いても左を向いても食べられそうだ。

 なんでこんなところにガキが? という目でこちらを見ている。

 十五歳以上成人しているように見えない自分が恨めしい。

 エミリさんみたいにカッコいい女性だったらそんな目で見られないのだろうな。

 気付けばナタリアちゃんの姿が消えていた。

 さては逃げたな。


「リン、こっちだ。来てくれ」

「は、はい」


 私はエミリさんについていく。

 簡素なカウンターの向こうでは、無精ひげを生やした男の人がなにやら書類に書き込んでいた。

 無精ひげの彼はあんまり強そうじゃないけれど、ここの職員なのだろうか?


「すまない。彼女の冒険者登録をしたいのだが」

「ああ?」


 無精ひげの男は私を見て、


「冒険者ギルドの登録は15歳以上が原則だ。身分証の発行だけが希望なら教会に行きな」

「私17歳です!」

「嘘だろ? もしかして、ハーフエルフ族か? ハーフエルフの中には耳に特徴の出ない奴もいるって聞いたことがあるが……」

「正真正銘人間の17歳です」


 私がそう言うと、無精ひげの男の人は「マジか?」という顔で見た。


「ああ、言っておくが、年齢の詐称は二歳以上だと罪に問われる。これは冒険者ギルドの規則ではなく、国の法律で決まっている。本当に17歳なんだな?」

「はい」

「そうか……いや、疑って悪かった。だが、冒険者ギルドに登録するには、戦えるか冒険者の役に立つ能力が必要だ。嬢ちゃんが戦えるようには見えないし、何か能力を持ってるか?」

「それは――」

「この子は収納能力を持っている。私の荷物も彼女に運んでもらっている」


 私が銃を取り出そうとしたら、エミリさんが収納能力のことを周囲には聞こえない小さな声で言った。

 正確には収納じゃなくて道具欄なんだけど。


「収納か。それは珍しいな。女神アイリス様に感謝するんだぞ。わかった、そういうことなら登録を許可しよう。この紙に名前と年齢と能力を書いてくれ。本来、能力の欄は隠したいところは隠せるんだが、嬢ちゃんの場合、能力を隠すと登録許可を出した俺の査定に響くから、ちゃんと書いてくれよ。もちろん、この紙はギルド職員以外の目には触れないからな。それと登録料として500イリス必要だから用意してくれ」


 よかった、なんとか登録できそうだ。

 紙に名前を書く。

 女神アイリス様からの加護のお陰で、こっちの世界の文字はしっかり読み書きできるようになっている。

 ありがとう、女神アイリス様。

 もしも日本に戻ることができるなら、その時は英語の読み書きもできるようにしてください。

 

 アイリス様に感謝して書類を書く。

 うん、これでいいかな?

 私は500イリスを取り出して、書き終えた紙と一緒にカウンターに置く。


「あ、それと魔物の買い取りも――」

「いや、いい。すまないがカードの発行まで少し外を歩かせてもらう。リン、少し外で歩こう。買い物をしたいって言ったただろ?」

「はい!」

「予算はどのくらいある?」


 道具欄を見る。

 最初は1万イリスあったけれど、エミリさんが魔物を倒したり、イチボさんと一緒に魔物を倒したときに得たお金が増えている


「4万イリスですね」

「4万イリスか。それだけあれば何着も服が買えるぞ!」

「え? 本当ですか? あ、でも家に飾る家具も欲しいんで全部は使えませんよ」


 私はそう言ってエミリさんについて冒険者ギルドを出た。


「あ、買い物を行く前にナタリアちゃんを探さないと」

「リン、地図を開くことができるか?」


 あ、そうだ。地図を見ればナタリアちゃんの場所がわかる。

 仲間は青いマークで表示されるんだよね。

 ってあれ?


「エミリさん、これ――」

「しっ、静かに。あと、絶対に振り返るなよ。私には見えていないが、赤いマークはいくつだ?」

「……四つです」


 後ろから敵がついてきている。

 町の中に魔物? ううん、そうじゃない。

 さっきの冒険者だと思う。


「エミリさん、衛兵の詰め所に」

「いや、誘い出そう。あの路地に入るぞ。リンは銃の準備をしておけ」

「わ、わかりました」


 私は聖銃を取り出す。

 もっとも、威嚇射撃でもしない限り、こっちの世界の人には銃での脅しは効果がないだろう。

 ううん、実際に当てないとダメなこともある。

 魔物相手ならまだしも人間相手に使う勇気はないな。

 結局、またエミリさんに全部任せることになりそうだ。

 そう思いながら、私たちは細い路地に入る。

 地図に表示されている敵もちゃんとついてきた……ってあれ? 一人別の方向に行った?

 狙ってたのは私じゃなかったのかな?

 不思議に思っていると、エミリさんが止まった。


「どうやら道を間違えたようだな。引き返そう」


 とわざとらしく言って後ろを向くと、さっき冒険者ギルドにいた三人が笑って待ち構えていた。

 狙いは、私たちが持っているお金、4万イリスだろうか?

 エミリさんって美人で実はお嬢様だから彼女を狙っているのかもしれない。

 それともナタリアちゃんと一緒にいるところを見ていて捕まえようとしているのかも。

 妖精族は高く売れるって言ってたし。


「すまないが、道を通してくれないか?」

「ああ、いいぜ? 有り金と、そっちの嬢ちゃんを置いていってくれるっていうのならな」

「ひひっ、特殊能力持ちは高く売れるからな」


 えぇぇえっ!? 狙いってお金じゃなくて私っ!?

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