第57話 遊佐紀リンはハイドロトスの町に入る
ハイドロトスの町の入り口の門が開いていて、衛兵が二人で待っていた。
槍で武装している。
あんな槍で一突きされたら死んじゃう。
剣を持っている人はエミリさんを含めて何人も会っているけれど、普段は鞘に納めているから怖いとは思わなかった。
でも、あれは衛兵さんだもんね。
警察官が持っている警棒みたいなもの……だよね。
(あれは警棒、あれは警棒、あれは警棒)
自分に言い聞かせる。
うん、大丈夫、怖くない。
「身分証を出してください」
「ご苦労様です」
エミリさんがそう言ってカードを出す。
あれが身分証みたい。
マイナンバーカードみたいなものだろうか?
「Bランク冒険者様でしたか。あなたは?」
衛兵さんが敬礼する。
エミリさんが偉い人ってことなのかな?
「え? わ、私は――」
「彼女は身分証を持っていません。これから冒険者ギルドに連れて行って身分証を発行する予定です」
「そうですか。では規則として罪状の確認をさせていただきます。手数料として500イリスいただきます」
罪状の確認?
エミリさんがお金を出そうとしたけれど、私は慌てて道具欄からお金を取り出す。
500イリスは銀色の貨幣が五枚みたいだ。
「どうぞ」
「はい、確認しました。運がよかったですね。明日だったら鑑定官は近くの村に出張予定でしたので、町に入れないところでしたよ」
え、そうなんだ。
危なかった。
帰還チケットで野宿の心配はないけれど、せっかく町に来て時間ロスは嫌だ。
少し待つと、眼鏡をかけたおばちゃんが来た。
この世界にも眼鏡ってあるんだ。
「あら、若い子ね。では、称号鑑定をさせてもらいますね」
「称号鑑定?」
「あら、称号を知らない? この世界の人は特定の行動をすると神様から加護を授かるんです。称号によっては特別な力を貰ったりするのよ。いい称号がほとんどだけど、悪いことをしても称号が手に入るの。たとえば、指名手配を受けたら指名手配犯っていう称号が手に入ったりね。私は他人の称号を見る能力があるから、あなたが指名手配犯じゃないかどうか? 危ない称号を持っていないかさせてもらうの」
「はぁ、なるほど……」
称号システムはゲーム関係なくこの世界にあるものなのか。
おばちゃんが私を見る。
うん、私は犯罪者じゃないから、変な称号とか持ってないし大丈夫なはず。
「あら?」
「どうしまさいたか?」
「いえ、変わった称号があったからついね。ふふふ、問題ないわ」
おばちゃんが笑っている。
変わった称号?
って、そうだった――っ!
コンシェルジュの加護ってのがあるんだった。
なにこれって感じで笑ってるみたい。
でも、ツバメの加護とかペンギンの加護じゃなくてよかった。
さらに町に入るための税金を一人50イリス支払って町の中に。
「ってあれ? ナタリアちゃんは身分証なくても入れるの? お金も払ってないし」
「うむ。儂は妖精族じゃからな」
「多くの町では、身長50センチ未満は洗礼式前の子どもとして町に入る時、同行者がいれば身分証も通行税も必要ないという規則があるんだ。妖精族はその規則により、名前を申請するだけで町に入れる」
電車の子供料金みたいなものかな?
私も誤魔化そうと思えば、いまでも子ども料金で電車に乗れそうだし(そんな犯罪行為はしないけれど)。
「そもそも、妖精族は空を飛べるから門を通らずとも町の中に入れる。それならば、せめて税金を免除してでも出入りを確認したい。ということで、税金が免除になっているんだ。妖精族は数が少ないから、税収にもさして影響はないし」
「なるほど……ちょっと羨ましいかも」
ある種の特権階級なのかな?
顔パスって言ったらVIP待遇みたいだ。
「そもそも、人の町に入りたい妖精なんぞ珍しいからな。長い間人の町に住んでおったら誘拐されるのが目に見えておる」
「あ……」
そうだった。
妖精族は何度も危ない目にあってきたんだった。
羨ましいって思った自分が愚かだった。
「ごめん、ナタリアちゃん。私羨ましいって思っちゃって」
「リンが悪いわけではない。それに、リンから貰った帰還チケットのお陰で万が一誘拐されて瓶詰めにされてもすぐに逃げれるから安心じゃ」
とナタリアちゃんは背中の中に畳んで入れてあった帰還チケットを取り出して言う。
そう言ってもらえると嬉しいな。
気を取り直して大通りを歩けるよ。
って、あ! 服屋さんがある! あっちは小物屋さん。
どこから入ろうかな。
「リン、寄り道せずにまずは冒険者ギルドに行くぞ。素材の買い取りや身分証の発行に時間がかかるから、買い物はその間にしよう」
「はい、わかりました」
冒険者ギルドか。
それもどんなところだろう?
この世界のことあんまり知らないけれど、エミリさんみたいな素敵なお姉さんがいっぱいいるのかな?
私はウキウキ気分で冒険者ギルドに向かった。
そこは二階建ての大き目の建物で、中に入ると――
『………‥(ギロリ)』
いろんな強面のおじさんたちがこちらを睨みつけてきた。
エミリさん、ヤ〇ザの事務所と間違えてませんよね?
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