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第56話 遊佐紀リンは寄生の恩返しをする

 休みも明けて、一日歩き、 丘の上から見下ろす形でハイドロトスの町が見えてきた。

 規模は小さいけれど、町全体が壁に囲まれている、所謂城郭都市という感じの町だ。

 その町の周囲は全部小麦畑みたい。あ、ライ麦とかオーツ麦とか大麦かもしれないけれど。私はその違いがわからない。もしかしたら蕎麦かもしれない。稲ではないのは確かだ。

 まだ収穫時期じゃないので、畑は緑色だ。

 それにしても、凄い広さ。

 町の何倍も畑がある。

 私がお世話になっている村の周囲にも畑はあるけれど、その比じゃない。

 穀倉地帯というやつだろうか?

 もしかしたら、ここで採れた穀物が都市に運ばれているのかもしれない。


 丘を下りて、畑の真ん中の道を歩く。

 畑では多くの人が水を運んで撒いていた。

 桶に入れた水をひしゃくのようなもので撒いている。

 水魔法でドバーとかそういうのはない。

 もしかしたら、魔法を使える人って少ないのかも。 


【寄生Ⅰが寄生Ⅱにランクアップしました。対象5人まで寄生可能です】


「はい?」


 突然、寄生のランクが上がった。

 ランクが上がったトリガーがわからない。

 時間経過かな?

 5人まで寄生可能か。


「どうしたんだ、リン」


 私が突然素っ頓狂な声を上げたので、エミリさんが不思議そうに尋ねた。

 あのメッセージは私にしか聞こえていないから、傍から見たら妙な人だよね。


「あ、私の寄生能力のランクが上がったんです。五人まで寄生できるようになったみたいです」

「ほぉ、寄生というと例のアレか。なら、儂にも寄生するか?」

「いいの?」

「うむ。実害があるわけではないのじゃろ? かまわぬよ」

「じゃあお願い!」


 ナタリアちゃんに手を差し出して、握手する――というより、私の手がナタリアちゃんの手を包み込む感じかな?


【ナタリアを寄生対象に設定しました。以後、メニュー画面より変更が可能です】


 うん、寄生できた。

 寄生って本当に響きが悪いよね。


「終わったよ」

「そうか。特に変わりはないようじゃの。寄生をやめることはできるのか?」

「うん。メニュー画面から変更できるみたい」


 そういえば、メニュー画面から寄生関係の画面って見ていなかったな。


―――――――――――――――――――――

▶エミーリア:21

▶ナタリア:0

―――――――――――――――――――――

 ん? なにこれ?

 変な数字があるけれど。

 エミーリアさんを選んでみる。


―――――――――――――――――――――

・エミーリア

能力強化

寄生割合変更

寄生解除

―――――――――――――――――――――

 寄生割合変更は、寄生対象から何割の経験値を貰うか選択できるみたい。

 それより気になるのは能力強化かな?


―――――――――――――――――――――

恩返しポイント使用

盾術取得:5

動体視力強化:10

魔力纏剣てんけん取得:20

―――――――――――――――――――――


「うぅむ」


 私は考え込む。


「どうしたのじゃ? まさか寄生に思わぬ欠陥があったのかっ!?」

「あ、いえ、恩返しポイントってのがあるらしくてですね。たぶん、エミリさんの能力を強化できるみたいなんですよ」

「能力強化?」

「はい。具体的に言いますとですね――」


 私はエミリさんに説明した。

 現在のポイントと、覚えられる能力、そして必要なポイントを言う。


「なるほど、恩返しポイントか。さすが女神アイリス様の能力だな」

「はい。一方的に搾取するだけじゃなかったんですね」


 これで、寄生しているときの後ろめたさが少しはマシになる。


「ふぅむ、21ポイントあって、20ポイントまでの能力しか表示されないということは、取得できる能力しか表示されないのじゃな。これは結構厄介じゃな。どこまでポイントを貯めればいいかわかりにくい」

「そうですね。今日は使わずにポイントを貯めておきますか?」

「いや、使おう。魔力纏剣を頼む。実はこの能力は少し欲しいと思っていたんだ」

「どんな能力なんですか?」

「魔力を剣に纏わすことによって、剣の強度を増やす能力だ」


 へぇ、エミリさん向けの能力だね。

 じゃあ、早速使ってみよう。

 エミリさんのポイントが1になった。


「取得できましたか?」

「…………」


 エミリさんは無言で剣を抜くと、じっと剣を見る。


「おぉ、剣に魔力が纏わりついているのぉ」

「ナタリアちゃん、わかるの?」

「うむ。妖精族には魔力視の力――魔力の流れを見る力がある。しかし、魔力の流れは少々硬いな」

「意外と難しい。魔力の流れを感じるなど生まれて初めてだからな。しかしリンの言う通り新たな能力に目覚めた。感謝する」


 エミリさんが姿勢を正してお辞儀をする。


「やめてくださいよ、エミリさん。普段お世話になってるのは私の方なんですから」

「そうは言うが――」

「それより、早く行きましょ! 今日は町で買い物とかしたいですから!」


 私はそう言って、エミリさんを引っ張って、ハイドロトスの町に向かった。

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