第55話 遊佐紀リンはツナマヨの出処を気に掛ける

 半日遅れて、私のおにぎりリベンジが始まった。

 焼き鱒のおにぎりはそこそこ好評、イクラのおにぎりは賛否が分かれた。

 プチっとした食感が好きだっていう意見と、生っぽい味がイヤだという意見だ。

 日本人からしたら高級食材だというイメージが強いのと、欧米の人ってキャビアとか好きだろうからこっちの世界の人も好きだろうって思っていたので意外だった。

 あと、少し気に食わないのが――


「聖女様、このおにぎりとても美味しいです!」

「俺、これなら毎日でも食べられるぞ!」


 私たちが苦労して釣った魚のおにぎりじゃなくて、ツバスチャンが作った――


「焼きおにぎり、最高です!」


 醤油と味噌で作った焼きおにぎりの評判がよかった。

 おにぎりが嫌われる要員のひとつに、手がベタベタするというのがあった。

 焼きおにぎりだと、それがだいぶマシになるからだそうだ。

 それに、しっかり味がついているからおかずも必要ないという。

 それなら私がわざわざ釣ってきた意味がなかったじゃない。


「そんなことはありません。こちらをどうぞ。これも大人気ですよ」

「え?」


 ツバスチャンが握ったおにぎりを食べる。

 え? これ?

 ツナマヨ?

 ううん、ツナじゃない。鶏肉?

 もしかして、庭にいる鶏を殺しちゃったっ!?

 庭を見る。

 あ、生きてた。

 ていうか、あれってヒヨコ?

 ヒヨコの一団が鶏についていってる。

 いつの間に繁殖したの?

 一羽でどうやって繁殖してるの?

 ていうか、じゃあ、この鶏肉はなに?


「これ、うまいな! 何の肉だ?」

「白いソースと合ってて美味しい」

「おにぎりに入れてもうまいが、パンに載せても美味そうだな」


 ツナマヨもどきが大好評だ。

 もう、おにぎりの試食会じゃなくて、ツナマヨもどきの試食会みたいになってる。

 本当に、これってなんの鳥の肉なんだろう?

 鶏肉よりもおいしいけれど――


「ツバスチャン、これはアレの肉か?」

「さすがエミリ様。よくおわかりで」

「ああ、皮の部分を取り除けば安全で、王都では高級食材として売買されているからな」


 へぇ、高級食材なんだ。

 どうりで美味しいはず……ん? 安全?

 それって、逆にいえば皮の部分が危険ってことじゃない?


「ね、ねぇ、エミリさん。これ、なんのお肉なんですか?」

「これはレッドポイズントードの肉だよ。昨日、リンと最後に釣っただろ?」


 レッドポイズントード!?

 カエル肉っ!?

 え、カエルなの!?


「ツバスチャン、なんてものを食べさせてくれたのよ!」

「しかし、お嬢様。これはエミリ様の仰る通り高級食材で大変美味です。それともお嬢様は嫌いな味でしたか?」

「嫌い……じゃないけど」


 むしろ好きな味だと思う。

 マヨネーズと和えているのもいいけれど、カラアゲにしてほしいくらいだ。


「……ねぇ、ツバスチャン」

「カラアゲも用意しておりますよ」


 さすが万能コンシェルジュ!

 もしかして、未来予知能力に読心術でも持ってるんじゃないの?

 ツバスチャンだったらあり得る。


 夜は村で宴会になった。


「「「「聖女様にかんぱーいっ!」」」」


 何度目かの乾杯の合図で飲まれているのはビール。

 そして、日本酒だった。

 今日は日本酒のお披露目会を兼ねた宴会をしている。

 どうやら、カラアゲを用意していたのは私がカラアゲを望む未来を見たのではなくて、カラアゲのおつまみのためだったらしい。

 私は未成年なので(この世界では成人らしいけれど)、ビールも日本酒も飲まない。でも、ツバスチャンがお米と麦芽を発酵させて作るジュースを用意してくれた。

 甘酒よりもさっぱりしていて、ジュースっぽいかな?

 好き嫌い分かれる味かもしれないけれど、私は嫌いよりの好きかな?

 確か、韓国発祥のジュースで、韓流好きのクラスメートが話していた気がする。

 こんなものまで作れるんだ。

 ツバスチャンも凄いけれど、いろんな発酵食品を作れる樽も凄いね。

 さすがアイリス様の力だ。 


「ぷはぁっ! 日本酒とやらは効くのぉっ! こんな酒飲んだことないわ」


 ナタリアちゃんが御猪口おちょこで日本酒を飲んで言う。

 彼女が飲むと、御猪口が巨大な盃のように見える。

 御猪口いっぱいで十分なお酒なんだから、妖精族って低燃費で羨ましいね。

 食べ放題のバイキングにいったら絶対に損した気分になるだろうけれど。

 この世界に食べ放題があったら、妖精割引とかあるのかな?

 

「ところで、リンよ。例のオリハルコンはどうするのじゃ?」

「うーん、お金には困ってない……っていうか、こっちの世界に来て使ったことがないからね。やっぱり加工して防具とか武器にするのかな? でもあれだと小さすぎるよね」

「何を言っておる? あれだけあれば武器防具一式揃えることは可能じゃぞ?」

「え?」

「何を驚いておる。まさか、全てオリハルコンの装備でも作るつもりか? オリハルコンは何者にも砕けぬ金属じゃ。通常は薄く延ばして武器や防具に張り付けるものじゃ」

「あ、そっか」


 金箔を貼り付けるみたいなものなのかな?

 だったら、あの量でも十分だ。


「あれ? でもオリハルコンってかなり丈夫なんだよね? ハンマーで叩いて伸ばしたり、加工したりってできるの?」

「まぁ、普通は無理じゃの」


 普通は無理なんだ。

 だったら――


「いや、だから普通は無理だけど、おぬしなら、あれがあるじゃろ?」

「あれ?」


 ……あれ……あれ?


「あ、ツバスチャンか! 確かに神鳥のツバスチャンならオリハルコンの加工も――」

「違うわ! 開発じゃ、開発! おぬしの能力じゃろ!」


 開発?

 あ、そっか!

 開発で、オリハルコンを使って何ができるか見ればいいんだ。

 自分の能力なのにすっかり忘れてたよ。

 何ができるのかな?


「え……!?」


 そこにあったのは、思いもよらぬ物だった。

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