第53話 遊佐紀リンは巨大ネズミと出会う
「え? なにあれ?」
普通のオオネズミより遥かに大きいネズミがそこにいた。
お腹を見せて座って、他のオオネズミから貰ったお米を前足でつまんで食べている。
「ナタリアちゃん、あれなに?」
「あれはネズミ親分じゃな。非常に珍しいの」
いまさらだけど、カエルはトード、猪はボア、トカゲはリザードって横文字ばっかりだったのになんでねずみだけ和名なんだろ?
普通なら、ビッグラットとかボスラットとかじゃないの?
わかりやすいからいいんだけどさ。
「悪い魔物なの?」
「いいや、あれはもはや霊獣に近い存在じゃ。悪いことはせんじゃろう」
「米を盗ませただけで十分大罪だけど」
でも、地図でもオオネズミは赤色のマークなのに、あのネズミ親分だけは白色のマークになっている。
近付いたからといって襲って来ることはないのかもしれない。
「あのねずみ親分のためにお米を集めてたのかな?」
「そうじゃろうな。リン、米は持っておるか?」
「お米は持ってきてないよ。昨日作ったおにぎりならいっぱいあるけど」
塩にぎりをみんな気に入ると思っていっぱい作ったんだけど、結局みんな二、三個しか食べなかった。
「それをもらえるかの?」
「なんだ、ナタリアちゃん。私のおにぎり気に入ったんだ。だったら欲しいって言ってよ」
私はそう言っておにぎりを取り出してナタリアちゃんに渡した。
すると、ナタリアちゃんはそのおにぎりを持ってネズミ親分のところに行く。
ナタリアちゃんは何かを言っておにぎりをネズミ親分に渡した。
ネズミ親分はそれを前足で持つと、そのままムシャムシャと食べた。
って、えぇぇぇぇえっ!?
ネズミ親分にあげちゃうの!?
またナタリアちゃんが何か話している。
そして、私を手招きした。
「ナタリアちゃん、どうしたの?」
「うむ、ネズミ親分がかなりおにぎりを気に入ったからもう少し分けて欲しいと言っておる」
「お米なら、オオネズミが盗んだのいっぱいあるじゃん」
「おにぎりが好きなんじゃと。ほどよい塩味がたまらないそうじゃ。この森では塩が貴重らしい」
なんだ、私のおにぎりが気に入っちゃったのかぁ。
この世界で私以外でおにぎりを好きになったのがネズミかぁ。
なんで泥棒の親分におにぎりを分けないといけないんだろうって思ったけれど、おにぎりを気に入ってくれたというのは少し嬉しかった。
「その代わり、お米を盗んだりしないでね」
「『米はそのままだとあまり美味しくないからいらない』と言っておる。それと、『手下が米を盗んで悪かった、ごめん』とも」
どうやら、ねずみ親分は私の言葉がわかるらしく、ナタリアちゃんが通訳して教えてくれる。
うーん、謝罪してくれるのなら許そうかな。
ごめんで済むなら警察はいらないっていうけど、110番に通報しても異世界まで来てくれないだろうし。
「もういいよ。おにぎりだね。はい、どうぞ」
私はそう言ってネズミ親分におにぎりをさらに追加で五個提供した。
ネズミ親分は五個全部食べた。
と思ったら、頬袋の中に貯めているようだ。
「『感謝する。礼をしよう』と言っておる」
ネズミ親分がそう言うと、大きな箱と小さな箱を目の前に置いた。
ダンジョンの宝箱と違って簡素な箱だ。
「『好きな箱を持って行け』って言っておる」
えぇぇぇぇえつ!?
これって、もしかして舌切り雀?
ネズミ親分がちゅん?
ううん、それより、おむすびころりんの方が近いか。
確か、小さなツヅラには財宝が、大きなツヅラにはお化けが入ってるんだっけ?
あれ? それは舌切り雀だったっけ?
うーん、でも優しいお爺さんは小さいツヅラを貰ったよね?
おむすびころりんで大きな箱を選んでいたらどうなっていたんだろう?
「じゃあ、小さい箱を貰います」
「『持っていけ。小さい妖精には残った大きな箱をあげよう』と言っておる。儂は大きな箱じゃな」
なんだ、どっちもくれるんだ。
「『ここは本来は人の入れぬ聖域だ。出口まで案内しよう』と言っておる」
「え? でも私、普通に入って来れたよ?」
「『異世界の力のせいだ。我の結界も異世界の神には通じない』と言っておる……なるほど、リンは異世界人だから、その力で入ってこれたというわけか」
地図はゲームシステム、アイリス様から貰った力だから、それで入れるってことなんだ。
ともあれ、私たちはオオネズミに案内されて森の外に出たのだった。
この箱、中身何が入ってるんだろ?
お化けが出たらエミリさんかツバスチャンに退治してもらわないといけないから、家に帰るまでは開けられないね。
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