第52話 遊佐紀リンはネズミを追いかける
その日、私はリベンジのためにおにぎりを作る準備を始める。
「今日こそ勝つよ! 最高のおにぎりを作ってみせる!」
そう言って、食糧庫にあるお米を取りに行く。
鮭――じゃなくて鱒も手に入れた。
イクラの醤油漬けもある。
絶対に美味しいおにぎりを作ってみせる。
「……あれ?」
貯蔵庫の中に入ると大きな影がいくつも――
目を凝らして見て――
「キャァァァァァァァっ!?」
私は大声を上げた。
「どうしたのじゃ!」
ナタリアちゃんが飛んで駆け付けた。
と同時に、貯蔵庫から飛び出ていくいくつもの影。
飛び出して言ったのは昨日田んぼに来ていたカピバラさんによく似たネズミだった。
貯蔵庫の中で米の入った袋だけが荒らされていて、米が散乱している。
お米が半文以上無くなっている。
かなりの量を食べられてしまったようだ。
逃げ出したのに、まだ遠巻きにこっちを見ている。
隙を見て米を盗み食いするつもりなのだろう。
「昨日も村に来ておったが、仲間を連れて訪れておったのか。よっぽど米の味が気に入ったと見える。よかったの、リン。米のファンができて……リン?」
「ナタリアちゃん……舌切りスズメって童話知ってる?」
「い、いや、知らぬが」
「私は思ったんだよ。確かにチュンの舌をちょん切るお婆さんはやりすぎだよ? でも、洗濯ノリを勝手に全部食べちゃうチュンも悪かったよね?」
「全くわからんのじゃが。チュンなのかチョンなのか」
「人間と動物の境界線っていうのは必要なんだよ。」
私は銃を持って飛び出した。
「覚悟っ!」
「待て、リン! 銃はやりすぎじゃろ!」
「大丈夫、手加減するから!」
「手加減するなら銃を使うな!」
私が走り出すとオオネズミは逃げ出した。
カピバラさんみたいな外見をしているのに速い。
そして、真っすぐ村の端に向かって、壊れた柵を潜って村の外に出た。
「柵が壊れておる。オオネズミが歯で削ったようじゃ。オオネズミはここから入ってきているのじゃろうな。修理をせねばまた入って来るぞ。リン、開発の能力でなんとかならぬのか?」
そうだ、私には開発がある。
開発欄を見る。
そこで、目的のものを探した。
「ネズミ捕り、殺鼠団子――」
「待て、ネズミ捕りはともかく、殺鼠団子は――殺すのか? リン、昨日可愛がっておったじゃろ?」
「可愛さ余って憎さ百倍だよ」
そうだ! 地図!
地図を広げたら――いた!
オオネズミの反応がいくつも集まっている。
どうやら、オオネズミは群れで集まっているらしい。
オオネズミは強い魔物じゃない。
こっちには魔法が得意なナタリアちゃんもいる。
負けることはない。
「行くよ、ナタリアちゃん! 今夜はネズミのから揚げだよ」
「あんまり食べたくないのぉ」
私も食べたくない。
地図を頼りにオオネズミを追いかけて森の中に入った。
あれ? こんなところに森とかあったっけ?
村の近くに森なんてなかったはずだけど。
もしかして、不思議な世界に迷い込んだ?
アリスは時計を持ったウサギを追いかけて不思議な世界に迷い込んだけれど、米を盗んだネズミを追いかけたらどうなるんだろう?
あ、でも地図があるからちゃんと村には帰ることができる。
最悪、帰還チケットを使えば家には帰れる。
「のぉ、リン。こういうのは言いたくないのじゃが、儂の知っている物語じゃと、大抵オオネズミが行った先には小さなネズミがおって、子どもに餌を与えているところを見ることになるのじゃが……リンはその場合でもオオネズミを殺すのかの?」
「うっ」
小さなオオネズミは果たしてオオネズミなのかという疑問を置いても、それを言われたら辛い。
伊豆の動物園で子どものカピバラに餌をあげたときの記憶が蘇る。
「そ……」
「そ?」
「その時はその時考えるよ!」
私はそう言ってオオネズミの巣に向かった。
オオネズミが集まっている。
オオネズミは頬袋の中に貯めていた米を吐き出す。
そこにいたのは――
「え? なにあれ?」
普通のオオネズミより遥かに大きいネズミがそこにいた。
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