第50話 遊佐紀リンは釣りで苦戦する
釣れた魚の怪物は槍を持っていて、いきなり襲い掛かってきた。
そりゃ、川の底でのんびりしているところで釣り上げられたら怒るよね! ごめんなさい!
って思ったら、エミリさんが剣で槍を弾き飛ばしていた。
なおも魚の怪物は爪――魚なのに手と爪がある――で切り裂こうとしてきたが、エミリさんの剣が魚の怪物の首を切り裂いた。
「こんなところにサハギンが出るとはな」
「……サ……サハギン?」
私は少し涙目になりつつ尋ねた。
「ああ、魚人の魔物だ。海辺には良く出る魔物なのだが、こんな海から離れた川に出るとはな」
「たぶん、私の能力のせいです。じゃないと長靴とか空き缶とか釣れないですし」
深呼吸して息を整えて説明する。
「そうか。リン、念のために武器は手元に置いていた方がいいぞ」
「そうします。釣りがこんな命がけとは思いもしませんでした」
「サハギンが出なくても、水辺には魔物が集まりやすいからな」
そうか……水辺に野生動物が集まりやすいのと同じだ。
とりあえず、一息をついて。
「次、行きます」
「ああ、安心して釣ってくれ」
エンペラートラウトを私は釣る!
「えいっ! アメリカザリガニ! アメリカ大陸がこの世界にあるかは知らないけど!」
ザリガニだけど、ようやく釣りやすいものが釣れた気がする。
「これは食べれないかな」
食べれないことはないと思うけれど、日本人の感覚からして、ザリガニは食べるものではない。
「食べないなら私が貰ってもいいか?」
「いいですけど、エミリさんが食べるんですか?」
「いや、大物狙いをしようと思ってな」
そう言うと、エミリさんはザリガニを掴み、生きたまま二つに引き裂いた。
まぁ、ザリガニだからそれほど残酷な感じはしないけれど、まだ少し動いている。
エミリさんはそれを自分の釣り針につけて放り投げた。
私も負けていられない。
練り餌はまだいっぱいある。
来たっ!
相変わらず、釣竿を入れてからHITまでの時間は短い。
長くても十五秒くらいだ。
「これは大きいよ! 大きい……ぐぬぬぬぬぬ、やぁぁっ! でかいっ! これはピラルクだ! って食べ方わからないよっ!」
ツバスチャンなら知ってるかもしれないけれど、水族館でしか見たことがない魚が釣れるのはやめてほしい。
もっと日本で釣れるメジャーな魚が来てほしい。
「釣れた! ブラックバス――メジャーだけどさ! メジャーだけどさ! 外来魚の猛威が異世界にまで……で、エミリさん、それはなんですか?」
「ん? フレッシュリザードだな。焼いて食べるとうまいぞ」
エミリさんが大きなトカゲを捕まえて捌いていた。
トカゲ肉はまだまだ道具欄に残ってるんだからトカゲを捕まえる必要がないと思うんだけど。
うーん、次だ。
もっと普通に日本にいる魚来てほしい。
普通に日本にいる――
「メダカ……いまは普通にいないよ。絶滅危惧種だよ」
針より小さいものは引っかからないで欲しい。
キャッチ&リリースしたいけれど、このメダカが普通に異世界の川にいるとは思わない。
生態系を乱す恐れが僅かにでもある以上、リリースするのはやめておこう。
次――
「長靴っ! わーい、一足揃った……って、揃っても履かないよ!」
釣れた長靴を投げ捨てた。
ゴミになるから回収したけれど。
「ぐぬぬ……私は運がいいはずなのに」
「さっきのピラルクとか大きくて運がいいと思うが」
「私が欲しいのはエンペラートラウト一択です! それ以外はハズレです!」
「そうか……済まないが、このフレッシュリザードを収納してくれるか?」
解体されたフレッシュリザードを収納。
次だ。
「ブルーギル!」
「丸い石!」
「金魚!」
「宝石箱!」
「デメキン!」
「割れた壺!」
「タイヤキくん!」
タイヤキくんってなんだよ……中まで餡がぎっしりだよ。
「なぁ、リン……この箱、宝石が大量に入っているのだが――」
「宝石箱ですから、そりゃ宝石が入ってますよ。それよりエンペラートラウトです」
「これだけで数千万、いや、数億イリスになるのだが」
「宝石でご飯は美味しくなりません!」
「ご飯はそこまでして食べるものなのか」
そこまでして食べるものです。
この後も釣りを続けた。
結構食べられる魚も増えてきた。
鯉やフナ、雷魚、ウナギってのもあった。
ウナギは通常時なら嬉しい……もういっそのこと、うな重にして提供したほうがいいんじゃないかって思えて来るけれど、初志貫徹でエンペラートラウトだ。
「リン。そろそろ太陽も沈みかけてきた。夜になるとさすがに危ないからな」
「……わかりました」
さすがに我儘は言えない。
サハギンに襲われただけでなく、さっきエミリさんが釣り上げていたフレッシュリザードという大きなトカゲも魔物の一種だ。暗い中、あんな大きなトカゲに襲われたらまともに対処できるとは思わない。
ここが引き際だ。
「では帰りましょう」
私がそう言ったとき、また竿が引いた。
さっきまでより遥かに強い引き。
これはもしかして――
あ、身体が持っていかれる。
このままだと危ない、釣竿を手放した方が――
「リンっ!」
エミリさんが私の身体を支えてくれた。
「諦めるな! 一緒に引くぞ!」
「はい!」
今度こそ釣るんだ。
おいしいご飯を食べてもらうためだけじゃない。
一緒に支えてくれるエミリさんのためにも、エンペラートラウトサーモンを釣る。
それで私の戦いは終わりだ!
釣り竿に力を込めた。
巨大な赤いカエルが釣れた。
「レッドポイズントードっ!? まだ生き残っていたのかっ!」
戦いが始まった。
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