第49話 遊佐紀リンは川釣りに挑戦する
「釣りじゃと? 今日は午後から休憩して明日からの旅に備えるのではなかったのか?」
「釣りって休憩じゃん! ほとんど待ってるだけだし」
「確かにそう言われたらそうなのじゃが……ううむ、釣りはあまり好きではないからのぉ」
ナタリアちゃんが乗り気じゃない。
いったいなんで?
「妖精用の釣り竿なんぞ売っておらぬじゃろう?」
「あっ」
そう言われたら、ツバスチャンが用意した釣り竿は人間用だった。
妖精用の釣り竿はない。
それに、仮にあったとしても、魚が釣れそうなとき、空を飛んでる小さな身体の彼女が魚を釣り上げられるだろうか?
空を飛んでるから踏ん張りがきかないし、身体が軽すぎて逆に魚に連れていかれちゃいそうだ。
「川魚が食べたいのであれば、火魔法を川や池に打ち込んで、浮き上がってきた魚を根こそぎ奪うのはどうじゃ?」
「自然破壊だよ! さすがにダメだよ! 魚が傷んじゃいそうだし」
「だったら、氷魔法を撃ちこんで、仮死状態になった魚を根こそぎ回収するのは? むしろ鮮度が保てるぞ?」
「それもダメだって。ガチンコ漁とかダイナマイト漁とかも禁止だから!」
ダイナマイトって言っても通じないだろうけれど。
広範囲にダメージを与える漁は目的の魚だけでなく、稚魚にまでダメージを与えてしまう。
ましてや、異世界の魔法なんてどれだけの被害が出るかわかったものじゃない。
「だったら儂は留守番じゃな。せっかくだし客間のベッドでのんびり寝かせてもらおう」
「わかったよ。エミリさんは一緒に行きますよね?」
「ああ。さすがにリンを一人にさせられないからな」
わぁい、まだ子ども扱いだ。
銃のお陰で戦えるようになったんだけど、大型の魔物とか出たら危ないもんね。熊とかイノシシとか。
エミリさんと二人で釣りができる川に向かう。
「そういえば、ここの川って、前にカエル……レッドポイズントードっていうのを倒した川でしたっけ?」
「ああ、この先の池だな。元々貯水池として整備されていたようだが、レッドポイズントードにとって住みやすい環境になっていたらしい」
人間が手を加えた環境のせいで本来あるべき生態系を崩れるっていうのは日本でも異世界でも同じなんだ。
でも、変な魔物がいないっていうのなら、安心して釣りができるね。
地図を見ると、川に魚のマークがあった。
どうもここが釣りポイントらしい。
他の場所との違いはわからないけれど、地図が示した場所で釣りをすることにする。
目的の川は流れが穏やかだけど、結構深いように見える。
泳いでいる魚は今のところ見つからない。
ツバスチャンが用意した『コンシェルジュの釣り竿』はリールもなにもついていない簡素なものだけれど、ロッドは黒塗りで高級感がある。
餌は練り餌だった。
針に餌をつける。
エミリさんは――
「あれ? エミリさん、なんですか、それ」
「なにって簡易釣り竿だ」
「釣り竿って、それ、剣ですよね?」
剣の鞘に糸を結び付けて釣り竿にしていた。
「私はいつもこれだな」
そう言って、エミリさんはいつの間に用意したのか、ミミズを半分に切って川に放り投げた。
次の瞬間、イワナのような魚が釣れた。
器用だ――本当にこの人は万能勇者だな。
私も負けてられない。
餌を放り投げる。
待つこと10秒、直ぐに反応があった。
「かかりました! えいっ!」
急いで竿をあげると――長靴がかかっていた。
なんで異世界にゴム製の長靴があるの? ていうか、針のどこに引っかかってるの?
「妙な形のブーツだな……防水性には優れていそうだが、何だこの材質は? スライムに似ているが……」
「ええい、気を取り直して次!」
何故か長靴が引っかかっていただけのに練り餌もなくなっていた。
練り餌を付け直して糸を垂らす。
またまたヒット!
釣れたのは……
「空き缶……なんで異世界に空き缶があるの」
しかもアルミ缶だ。
この世界にアルミの加工技術があるのだろうか?
「金属の円柱型の容器……これも見たことのない金属だが――もしや池のさらに上流には未知の文明の遺跡があるのでは?」
「いいえ、たぶんアイリス様のいたずらです」
これ、絶対ゲームシステムでしょ。
普通の釣りでこんなの釣れるはずないもん。
だとしたら、次はヤカンでも釣れるんじゃないかな?
私はそう思って竿を振る。
また釣れた。
今度は引きが強い。
今度こそ魚――
「…………」
「…………」
二足歩行であるく魚の怪物が現れた。
なんでぇぇぇぇぇえっ!?
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