第48話 遊佐紀リンはお米の伝道師を目指す
おにぎりを食べた皆が、何故か微妙な顔をしている。
「あの、美味しくなかったですか?」
「いや、美味しくないことはないぞ……」
「うむ、美味しくないことはない……が」
「「「普通?」」」
エミリさん、ナタリアちゃん、村の人たちがそれぞれ感想を言う。
えぇ、普通って……?
「手がベタベタするからパンの方がいいな」
ガーン。
パンに負けた。
いや、パンは美味しいよ、うん。私も朝ご飯はパンだもん。
でも、ご飯は日本人のソウルフードだからこのおいしさを是非わかってほしい。
「ぐぬぬ……やはり単純な塩にぎりでは力不足か。具材を――おにぎりに合う具材さえあればパンごときに負けはしないというのに」
「リンよ、闇落ちした英雄みたいになっておるぞ。深呼吸せい」
言われて私は深呼吸をする。
そうだ、おにぎりに合う具材を考えよう。
梅干し? 梅がない。
鮭? 昆布? ツナマヨ? タラコ? 明太子? 鰹節? いや、そもそも近くに海がない。
「ツバスチャン! このまま負けてられないよ! 同じお米好きとして協力して」
「私はツバメですからお米は食べませんよ? だからこそ益鳥と呼ばれています」
しまった、お米が好きなのはツバメじゃなくてスズメだったっ!
こうなったら一人で戦ってやる!
ということで考える。
お米を最大限に美味しく食べるには?
おにぎりにこだわっていたけれど、ご飯としてはどうだろう?
炒飯とかピラフ、それこそこっちの世界の味覚に合わせてリゾットとかパエリアとかにするのは?
いや、それってご飯の美味しさがしっかり伝わらないイメージがある。
だったら、最高のご飯の食べ方
庭に鶏が毎日新鮮な卵を産んでくれているし、醤油も使い放題……ってダメだ。
こっちの世界の人、卵を生で食べる習慣がないんだった!
私はお茶碗にご飯をよそって、冷蔵庫の中の新鮮な卵を割ってかき混ぜ、醤油を垂らして食べる。
一気に食べる。
うん、美味しい。
新米最強だ。
でも、このおいしさの半分も伝わらない。伝える力が私にはない。
助けてお兄ちゃん!
助けてアイリス様!
この世界のどこかにいる兄と、私をこの世界に送り出してくれた女神様に助けを求めるも、その願いは二人に届くことはなかった。
私がこんなに困っているというのに。
あぁ、もう。
マグロがれば外国人人気ナンバーワンおにぎりのツナマヨができるのに。
ツナマヨ? そうだよ、ツナって、シーチキンだよね? 海の鶏……ってことは、鶏を代用したらツナマヨもどきを作れないかな?
私はふらふらと庭に出て、餌をついばんでいる鶏を見つけて手を伸ばし――
「って鶏さんを殺したら卵かけご飯が食べられなくなるじゃん」
私はその場に頽れた。
もうダメだ……私にはお米の伝道師にはなれない。
「お嬢様、お米の美味しさを伝えたいのですね」
「……うん」
「だったらひとつ、お米を最高に引き立たせる食材があります」
「本当に?」
「はい。近くの川にエンペラートラウトという魚がいます。その魚の身はもちろん、中にあるいくらも最高のおにぎりの具になります」
ツバスチャンが釣竿を持って私に行った。
エンペラートラウト?
マス?
そうか、マスって味が鮭に似ているよね?
それなら鮭おにぎりっぽいものやイクラおにぎりっぽいものも作れる。
「ツバスチャン、ありがとう! 私、行ってくるよ! 最高のおにぎりのために」
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