お米騒動
第47話 遊佐紀リンはお米の味を広める
その日、私が拠点にしている村で収穫が行われていた。
収穫しているのはもちろんお米である。
苗の数は三十株ほどだったはずなのに、何故か東京ドーム一個分くらいある大きな田んぼができあがっていて、そこに黄金色の稲が頭を垂れていた。
「リン、嬉しそうだな」
「もちろんです。なんと言ってもお米ですからね」
お米は日本人のソウルフードだ。
食べたい。
「しかし、米か。私はあまり食べたことがないな」
「え? この世界にお米ってあるんですか?」
「ああ。別の大陸で育てられていると聞いたことがある。ただ、小麦の代替品としか思っていなかった」
小麦の代替品って……それって、米をわざわざ潰して米粉にしてパンを作ったのだろうか?
お米の食べ方はそんなものではないというのに。
いいよ、うん、それでいい。
エミリさんに初めて美味しいお米を食べさせることができる権利を貰ったっていうことなんだから。
米の収穫は村人総出で行われ、三時間ほどでだいたいの収穫が終わった。
序盤はほとんどツバスチャンが収穫してくれた。
っていうか、いつの間にか
さすがツバスチャン……コンシェルジュの鏡だ。
「では、脱穀していきましょうか」
「え? 天日干しは?」
「既に魔法で乾燥させました」
「はやっ!?」
だったら、わざわざ吊るす必要はなかったんじゃないかと思うけれど、そこは様式美らしい。
その後脱穀、
本来、米が食べられるようになるまで種まきから六カ月近く、収穫してからも二十日間くらいは必要なんだけど、そういう細かい行程のほとんどを無視している。
ツバスチャンは巨大な窯がいくつも並べて、米を炊き始めた。
凄い、ツバスチャンが残像でいくつにも分裂しているように見える。
私も自分で米を炊いてみたいけれど、炊飯器を使わない米炊きは学校の飯盒炊爨と土鍋でしかしたことがない。
「はじめチョロチョロなかぱっぱ~」
「なんじゃ、その歌は?」
「お米を上手に炊くための歌だよ」
「チョロチョロというからネズミの歌かと思ったのじゃ」
「あはは、なんでネズミなの?」
「ん? そこにおるからのぉ」
え?
そこを見ると……いた。
本当に大きな茶色いネズミが、まだ刈り終わっていない稲を食べている。
「…………か」
私は思わず声を出した。
エミリさんが剣を構えるが――
「かわいいっ!」
私の言葉にこけた。
「カワイイだと!?」
「はい! カワイイです!」
「巨大ネズミだぞ! どこがカワイイんだ」
「え? だって、あれ、カピバラさんみたいじゃないですか」
可愛いよ。
伊豆に旅行に行ったとき、カピバラと触れ合えるコーナ―があって、私があげた草を食べてくれる小さなカピバラの赤ちゃんを見たときから、カピバラは大好きだった。
冬に行ったときは温泉に入ってて、それでもやっぱりカワイイ。
あの動物園、よくわからないけれどカピバラを見れる場所が四カ所くらいあるんだよね。
「危ない魔物なんですか?」
「いや、人を襲ったという話はあまり聞かないな。ただ、作物を食べるから害獣とされている。肉もあまりうまくない……リン、そんな目で見ないでくれ」
「カピバラさんを食べるなんてとんでもないです」
「う、うむ。まぁ、一匹くらいなら大した問題にはならないだろう」
エミリさんが剣を納めてくれた。
撫でてあげたいけれど、さすがに野生のオオネズミは変な病気を持っているかもしれないから、遠くから眺めるだけにしておこう。
「お嬢様、お米が炊けました」
「え? 本当に!? じゃあ、さっそく――」
私はツバスチャンと一緒に、正しいご飯の食べ方を実行することにした。
正しいご飯の食べ方――炊き立ての新米の一番の食べ方は、もちろん塩にぎりだ!
幸い、家の中に入れば塩は使い放題!
手に塩をつけて、三角形に握る。
私は手が小さいので、自然とおにぎりの大きさも小さくなるけれど、ツバスチャンもそれに合わせて小さなおにぎりをいくつも作ってくれた。
本当は海苔があったらいいんだけど、そこまでは用意できない。
とりあえず、握ったおにぎりのうち一つを食べてみる。
(うーん、美味しい! やっぱり新米で作るおにぎりは最高!)
このお米、コシヒカリに似てるかも。
お米ソムリエの資格を持っていないので、あくまで勘だけど。
もしかしたら、日本のゲームだからそのゲームシステムで手に入るお米も日本のお米なのかもしれない。
「お待たせしました!」
私はおにぎりを持って皆のところに戻った。
「私が知っている米とは随分と違うな」
「これがお米の美味しい食べ方です」
そう言って皆に振舞った。
もちろん、全員大満足するかと思ったが、あれ?
何故か、みんな、何とも言えない顔をしている。
どういうこと?
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