第45話 遊佐紀リンはマウンテンスライムを薬で治療する
私たちは送還チケットを使って元いた村に戻った。
そこで私が見たのは、巨大化したスライムと崩壊したスライム舎だった。
ビッグスライムがインド象くらいのスライムだとするのなら、こちらはスライム舎よりも大きい。
よく見ると、ビッグスライムの中に崩れたスライム舎の瓦礫が呑み込まれている。餌にしているのだろう。
良くもあそこまで大きくなったものだと感心させられる。
スライムの花だけであそこまで大きくなるとか、質量保存の法則を絶対に無視してるよね?
あ、ヨハンさんが茫然としている。
「ヨハンさん!」
「嬢ちゃん――スライムが、俺のスライムが突然巨大化して」
「さっき調べたんですけど、スライム花って食べ過ぎると数百匹に一匹の確率でものすごく大きくなってしまうそうなんです」
「そんな……」
ヨハンさんは落ち込んでいる。
そりゃそうだよね。
大切にしていたスライムがあんなことになっちゃったら――
「厳選した餌しか与えてこなかったのに、瓦礫なんて食べてしまったら折角の栄養配分が台無しだ」
「そっちですかっ!? スライムが巨大化しちゃったことやスライム舎が倒壊したことはいいんですか!?」
「ああ、それは問題ない。ここまで巨大化したら品評会で表彰は確実だし、スライム舎も建て直せばいいだけのことだ」
凄いな、ヨハンさん。
これがスライムブリーダーなのか。
「ヨハン殿、一ついいだろうか? スライムの品評会はハイドロトスの町で行われると聞いたが、その町にあのスライムを連れていくのか?」
「もちろんだ。品評会の間はスライムの持ち込みは許可されている」
「あれは普通のスライムではなく、マウンテンスライムという種類の別のスライムに進化しているのだが、品評会はそれでもいいのか?」
エミリさんが尋ねると、ヨハンさんは一瞬言葉を失い、そして言った。
「スライムの品評会に通常のスライム以外は出場が認められていないじゃないか! このままだと規定違反で失格だっ!」
今頃気付いたらしい。
猫の自慢大会でライオンを出場させるようなものだ。
「どうすれば!?」
「うーん、あの花を吐き出させればいいのではないかのう?」
ナタリアちゃんが指さした方向にはスライムの花が入っていた。
まだ完全に消化していないようだ。
「もう巨大化しちゃってるけど間に合うの?」
「うむ、あのスライムは魔力により巨大化しているが、その魔力はあの花から提供されているもの。いま吐き出させれば元の大きさに戻る……可能性があるのじゃ」
可能性って、一体何パーセントなんだろう?
でも吐き出させる……か。
前にフェアリーイーター相手に使った催吐薬が使えるかな?
一応、何本かストックはあるので一本取り出す。
「これを飲ませればいいね。エミリさん」
「ああ、私が適任だな」
エミリさんに催吐薬を渡そうとしたが、それを奪うように手に取る人がいた。
ヨハンさんだ。
「俺がいく。あれは俺のスライムだ」
「危ないですよ。また押しつぶされたら」
「あれは野生のビッグスライムだったからだ。しかし、あいつを育ててきたのは俺だ。きっと心を開いてくれる」
「でも――」
やっぱり危ない。
そう言おうとしたのだが、エミリさんが待ったをかけた。
彼女は催吐薬の瓶の蓋を開けてヨハンさんに渡す。
「よろしく頼めるか?」
「ああ、任せてくれ」
ヨハンさんは覚悟を決めた目でそう言った。
そして、薬瓶を手に取ると、まっすぐマウンテンスライムに向かう。
その覚悟を決めたヨハンさんの背中は、マウンテンスライムよりも大きく見えた。
……あ、呑み込まれた。
「エミリさん、呑み込まれちゃいましたよ!」
「大丈夫だ。薬瓶の蓋は開けておいたからな。押しつぶされるよりは安全だろう」
「あ、そうか。瓦礫に押しつぶされないといいですね」
直後、マウンテンスライムは身体の中にあった全てを吐き出して、元の大きさに戻った。
ヨハンさんは無事だった。
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