第44話 遊佐紀リンは虹の花に金の臭いを感じる
スライム泥棒騒動も、単純なスライムの脱走ということでひと段落ついた。
わかっていないことがあるとすれば、いったいスライムがどうやって牢屋を逃げ出したのか? ダンジョンは何で封印されたのか? の二点だ。
スライム騒動が終わり、エミリさんと合流した私たちはとりあえず一息つくために家に帰った。
そこで、お風呂から上がったエミリさんに彼女が周囲の魔物退治をしている間にあった出来事を話す。
「スライムしかいないダンジョンか。そのような場所があるとはな」
「時間があったらエミリさんも誘ったんですが。今度一緒に行きます?」
「いや、スライムは弱いが剣の手入れが面倒だからあまり戦いたくないんだ」
スライムを斬ったときにつく粘液の拭き残しがあると、剣が錆びやすくなるらしい。
私たちは魔法と銃弾で倒したからそういう心配をしなかったけれど、剣で戦うのって大変なんだな。
「それで、宝箱からいろんなのが出たんでよ。見てください、これ大当たりですよね!」
私はそう言って、砂金の入った袋を見せた。
「おお、砂金か。結構な量だな。1000イリスにはなるんじゃないか?」
「え? その程度なんですか?」
「ああ、この世界の最高額の貨幣は金貨だからな。金貨の価値を保つため、金の買い取りは教会が定めた額と決まっているんだ」
そうなんだ。
まぁ、ただで貰ったものだから文句を言うのは残念だな。
「宝箱は五つあるんだろ? 他には何があったんだ?」
「一つはドッグフードでした。さっきまでシルちゃんが食べてたんですけど、食べ終わっていまは帰っちゃいました。シルちゃん、大活躍だったんですから!」
スライムをダンジョンの外に連れていくとき、シルちゃんの牧羊犬ならぬ牧スラ狼としての力が役だった。
もしもシルちゃんがいなかったら、スライムを一匹一匹抱えて、何往復もしないといけないところだった。下手したら、穴の中に逃げられちゃうかもしれないしね。
「なるほどな。私も明日会ったら褒めてやろう」
「はい、そうしてあげてください。それと銀色宝箱から出たのは稲の苗ですね。いまツバスチャンが庭に田んぼを作って植えてくれています」
ご飯が食べられるっていいよね!
楽しみだな。
この前手に入れた、一日でなんでも発酵食品ができる樽を使えば、日本酒も作れるみたいだし、完成したら村人たちにも振舞おう。
私は飲めないけれど。
「あとはこの二つですね。使い道、ツバスチャンに聞くの忘れてました」
お地蔵様――名前は、福寄せ地蔵って言う名前の小さな人形サイズのお地蔵様だ。
それと、虹色のチューリップ。とっても綺麗。
そういえば、お兄ちゃんに昔のヨーロッパでチューリップがあり得ないくらい高値で取引されるチューリップバブルっていうのが起こったって聞いたことがある。
チューリップバブルが起こったら、この虹色のチューリップはものすごい高値で取引されるかもしれない。
1000イリスよりももっと高く。
「君、もしかしたら金のなる木なのかな?」
「どう見ても木ではなく花じゃろ」
私はチューリップに声をかけると、ナタリアちゃんは冷静にツッコミを入れた。
「お嬢様、田植えが終わりました。明後日にはご飯が食べられますよ」
「え? 本当? ありがとう、ツバスチャン。大変だったんじゃない?」
「ははは、見ての通り私は泥の中を歩くのは得意ですよ」
ペンギンだから水の中を歩くのが得意なのかなって思ったけれど、そうじゃなくて、ツバメは泥を使って巣を作るんだって思い直した。
ツバスチャンはツバメ、ツバスチャンはツバメ、ツバスチャンはツバメ……ちゃんと自分に暗示をしよう。
「おや、それは虹の花ですか。とても貴重な物を手に入れましたね」
「ツバスチャン、知ってるの?」
「はい。虹色宝箱から出る貴重な花ですね。花壇に植えると、今後虹色宝箱が一個出るたびに数が一つずつ増えていきます。花の数が一定数になるたびに特別なアイテムが貰えます」
「へぇ、花が増えるんだ。楽しみだね」
一面虹色のチューリップ畑っていうのも見てみたい。
そうだ、花といえば――
「ツバスチャン、花壇があるのならこの花も植えてよ」
ダンジョン奥に生えていた花を差し出す。
綺麗だから何本か貰って来た。
根っこから採取したので、ツバスチャンなら綺麗に植えてくれるだろう。
「おや、この花はスライムの花ですか。うーん、あまりお勧めしませんね」
「え? どうして?」
「この花はスライムがとても好む花でして、周辺のスライムを引き寄せる効果があるのです」
「あぁ、確かに――」
ダンジョンの中に生えているのに、ダンジョンの外からスライムがおびき寄せられていたもんね。
うーん、じゃあ村で育てたら迷惑になるかな?
いくらスライムが弱いって言っても魔物だもんね。
「……それに、スライムが食べ続けると巨大化してビッグスライムを超えるマウンテンスライムに進化してしまうのですよ。とはいえ、マウンテンスライムを超える巨大なスライム、マウンテンスライムに進化できるようなスライムは数百匹に一匹程度ですが――」
「へぇ、それは注意しないと………………ねぇ、ツバスチャン。たとえば品評会に出品するような選びに選ばれたスライムって、その数百匹に一匹に選ばれている可能性高いと思う?」
「「――――っ!?」」
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