第42話 遊佐紀リンはスライムの園を発見する
「この先にもスライムが――あ、魔物がいます」
「いや、もうスライムでいいよ」
「うん、スライムでいいな」
これまで何度も魔物の反応があったので行ってみたのだが、いたのは全部スライムだった。
ここにいる魔物はスライムしかいないのだとみんな思っていた。
どうやら、ここはスライムダンジョンらしい。
道具欄にスライムの核とスライムゼリーがいっぱいたまってる。あと、知らない間に、オークの肉っていうのが増えてる。
たぶん、エミリさんが頑張っているんだと思うけれど、オーク?
オークって、たしか樫の木だったよね?
樫の木のお肉?
ベジタリアン向きの植物ミート?
ちょっと気になるな。
と思いながら進むと、そこにいたのは薄い青色のスライムだった。
「普通のスラーー」
「「ブルースライムだな」」
ヨハンさんとラスクさんが同時に言った。
「え? 普通のスライムですよね?」
「どこがだ? 色が全然違うだろ」
「え? 普通のスライムも青色ですよね?」
「違う! ブルースライムの方が少し濃い青だ」
わからないよ。
双子芸人のどっちがお兄ちゃんでどっちが弟かくらいわからないよ。
でも、少し濃いってことは――
「ブルースライムには何か特徴があるんですか? レッドスライムみたいに臭いとかじゃないですよね?」
ブルーチーズを思い出して私は身構える。
ようやくレッドスライムの臭い取れてきたのに。
「いや、能力的な違いだな」
「能力的? やっぱり強いんですか? 冷たいとか水の中でも平気とか?」
「普通のスライムでも水の中は平気だぞ」
え? 水の中でも平気なんだ。
ちょっと驚いた。
「じゃあ、ブルースライムはどんな能力なんですか?」
「ブルースライムは夜型だ」
あ、全然動かないと思ったら、あれ寝てるんだ。
「寝ているのを起こして倒すのはスライムブリーダー失格だな」
「ああ、その通りだな。次に行こう」
ラスクさんの提案をヨハンさんが受け入れる。
この二人、実はとっても仲良しなんじゃないかな?
「緊張感のないダンジョン探索じゃのう」
ナタリアちゃんが言う。
次の部屋にいたのは紫色のスライムだ。
そのスライムはゆっくりと一緒に来ていた村人に近付いていく。
「パープルスライムだな」
色の名前ばっかりだ。
そのうち、ホワイトスライムが出てきて、さらにはその中でも、ピュアホワイトスライムやクリームホワイトスライム、アイボリーホワイトスライムって細分化されて、
「ホワイトスライムって200種類以上ある」
とか言い出すスライムブリーダーがいるんじゃないかな?
どうせ大した違いはないんだろうけれど。
「それで、パープルスライムはなんですか? ブドウの味がするんですか? 性格が陰キャとか花の香がするとかですか?」
「パープルスライムは猛毒の毒液を飛ばすから危ないんだ」
「え?」
いつの間にか一緒に来ていた村人たちが逃げていなくなっていた。
そして、パープルスライムはこちらに向かって毒液を――
「キャァァァァァアっ!」
飛ばしてくる前に私が銃を連射していた。
オーバーキル達成したよ。
「リンよ、それほど怖がらなくてもよいじゃろ? 毒をくらっても解毒ポーションが使えるのじゃから」
「治るからって毒を怖がらない女の子はいないよ!」
「そんなことじゃ一人前のスライムブリーダーにはなれないぞ? たとえ野生のスライムだろうと、毒を持っていようと心を開けばスライムは答えてくれる」
「ああ、ラスクは隣村の連中にしては見所があるな。よし、次の部屋にいるスライムは俺たちに任せろ。絶対に懐かせてみせる」
次のスライムか。
でも、この先ってあの扉の向こうなんだよね?
つまり、ボス部屋ってことだ。
まぁ、ここまでの敵は強くなかったし、ナタリアちゃんもいるから大丈夫かな?
ということでボス部屋に入って私たちは言葉を失った。
そこにいたのは、インド象くらいの大きさの青色のスライムだったから。
「「ビッグスライムだな」」
ヨハンさんとラスクさんが言う。
「ここは色じゃないんですね。ところで、ヨハンさん、ラスクさん。あれはさすがに無理ですよね?」
「魔法で倒すかの?」
近付いたら危ないのは私でもわかる。
私は銃を構え、ナタリアちゃんが魔法の準備をする。
だが――
「「スライムブリーダーに手懐けられないスライムはいねぇ!」」
二人はそう言って武器も何も持たずにビッグスライムに近付いていく。
その背中は、一流の職人の大人の背中だった。
少しだけ、ほんの少しだけカッコイイと思ったほどに。
二人が下から手を差し出す。
ビッグスライムはその手を見た(目がないから本当に見ているかはわからないけど)。
そして、ゆっくりと近付いていき、その手を包み込む。
心を開いたっていうことなのかな?
これがスライムブリーダー。
てっきり、懐いたと思ったら潰されて終わりかと思ったんだけど、とっても平和な光景だ。
「ああ、感動しているところ悪いが、ここはボス部屋じゃから、そのボスを倒さないと外に出られないぞ」
「あ、そうなんだ。じゃあ倒さないといけませんね」
ナタリアちゃんと私がそう言うと、その言葉を理解したのかビッグスライムがヨハンさんとラスクさんを呑み込もうとした。
二人が完全に呑み込まれる前にナタリアちゃんの魔法がビッグスライムを倒した。
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