第40話 遊佐紀リンはダンジョンに入る

「いえ、そうじゃないんですけど――そこにダンジョンの入り口があるみたいです」


 地図にはしっかりダンジョンの入り口が表示されていた。

 それを聞いた村人たちが不思議そうな顔で尋ねる。


「なんでわかるんだ?」

「そういう能力です」


 と返事をした。

 ちなみに、本棚って咄嗟に言ったけれど中身は空っぽで本は入っていない。もしかしたら、ただの棚かもしれない。

 その棚の一番下の部分に穴が開いていた。


「腐食してる?」

「これ、うちのスライムの粘液だ」


 穴の端についた粘液を指でぬぐいとって、ヨハンさんが言った。

 粘液を触っただけでわかるんだ。

 色と香りだけでワインの種類がわかるソムリエかな?

 ヨハンさんのことをスライムソムリエと呼ぼう。

 村人たちが棚を前にずらすと、そこの床板も穴が開いている。中からは光が漏れている。

 さっきまで使ったバールのようなもので、もう一度床板を外すと、今度は階段があった。

 この雰囲気、見覚えがある。

 ダンジョンの入り口だ。


「かなり古いな。ヨハン、知ってるか?」

「いや、ここはスライム舎ができる前はこの部屋は災害時用の貯蔵庫に使われていたそうだが――」

「ほら見ろ! やっぱりダンジョンがあっただろ!」


 ラスクさんがドヤ顔で言う。

 それに、村人たちは何とも言えない表情を浮かべた。


「ラスクさんを嘘吐き呼ばわりしたのは悪いですけれど、この棚の埃を見たらわかるように、何年も使われていなかったのは確かなんですし、利用するために独占していたわけじゃないんですから、最初から疑って怪しい変装(?)をしていたラスクさんも同じですよ」


 私がそう言うと、ラスクさんもバツが悪い表情を浮かべる。

 うん、とりあえず騒ぎはこれで解決かな?


「いや、まだスライムが見つかっていないじゃろ?」

「あ、そうだった! スライムさん、この中に入っちゃったのかな?」


 ダンジョンの中を見る。

 まぁ、棚に粘液がついていたんだからきっと入ったのだろう。

 中は危ないだろうからエミリさんが帰って来るまで待ったほうがいいよね。


「待ってろ、俺のスライム」


 って、ヨハンさんが入っちゃった。


「俺も行くぞ!」


 ダンジョン目的のラスクさんも続いた。


「リンよ、一緒に――」

「エミリさんが帰ってくるまで待とうよ、ナタリアちゃん」

「きゃん!」


 私が待ったをかけると、シルちゃんが割って入った。


「ほら、シルも自分がいるから大丈夫だって言っておる」

「え? ナタリアちゃん、シルちゃんの言ってることわかるの?」

「それは雰囲気じゃ」


 雰囲気か。

 でも、確かにそう言われてみると、そう言っているように見えてくる。


「安心せい、リンよ。わしも強いぞ? 無傷でダンジョンの最奥に辿り着いた実績がある」

「その一番奥にいるフェアリーイーターに食べられちゃったけど」

「あれはわしの天敵だから仕方ないじゃろ」


 まぁ、そうだよね?

 フェアリーイーターっていうくらいだし仕方ない……のか?

 

 うーん、先にヨハンさんとラスクさんも入ってるし、本当に危ないときは逃げればいいか。

 前にリフェルさんから鉄のフクロウ制作用にストックしてあった鉄塊を貰って、それを元に銃弾も作ってストックも十分ある。

 ナタリアちゃんもこう言ってるし、少しくらいならいいかな?


 これも観光……だよね?



――――――――――――――――――

作者体調不良につき短めですみません。

明日も短いかもです。

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