第39話 遊佐紀リンはスライムを捜索をする
ナタリアちゃんに村の人たちを呼んできてもらった。
全員で岩のハリボテを囲む。
エミリさんがいてくれたら心強いんだけど、無いものねだりはできない。
私とナタリアちゃんは少し離れたところで様子を見させてもらった。
村人たちは岩の中の人に気付かれないように視線だけやり取りしている。
中の人がこっちを見えているかどうかはわからない。
『開けるぞ』
『ああ、気を付けろよ』
って感じだと思う。
村人たちが岩を持ち上げた。
やっぱりハリボテだったらしく、すんなり持ちあがる。
そして、その中で二十歳くらいのお兄さんが寝ていた。
「こいつ、隣村のラスクだぞ」
「スライム泥棒は隣村の連中だったのか」
美味しそうな名前だと思った。
どうやら隣村との交流があるらしく、お兄さんとは顔見知りだったようだ。
武器のようなものは持っていない。
岩のハリボテを見る。
外からはわからないけれど、覗き穴があって中から外を見ることができるようになっている。
もしも彼が起きていたら、村人たちが集まってくる前に逃げ出せたんだろうけれど。
あ、笑ってる。
きっといい夢を見てるんだろうな。
彼は幸せな夢から直ぐに現実に引き戻された。
農具を持った村人数人に囲まれて尋問されたら、そりゃ顔も引きつるだろう。
「まさかお前がスライム泥棒だったとはな」
「ちがう! 俺はこの村のスライムダンジョンを捜しにきたんだ!」
村のスライムダンジョン?
「村のダンジョン? 何言ってるんだ?」
「しらばっくれるな! 知ってるんだぞ! お前ら、ダンジョンを隠してるだろ! 国の法律ではダンジョンを独占するのは禁止のはずだ! なのにお前らが自分の利益を確保するため、ダンジョンを隠しているんだろ!」
私たちは村の人たちを見る。
彼らは首を横に振る。
知らないらしい。
「嘘だ! この村にダンジョンがあるって俺の爺ちゃんが言ってた! 俺の爺ちゃんが爺ちゃんから聞いたって」
「確かにそういう噂はあったが、本当にダンジョンなんて知らないぞ?」
「スライム泥棒を隠すための嘘じゃないか?」
「嘘じゃない! 俺の爺ちゃんがそのまた爺ちゃんから聞いたんだ!」
うーん、心を読むことなんてできないから、彼が言っているのが事実かどうかわからない。
実際にダンジョンがあればわかりやすいんだよね。
たしか、地図にダンジョンの入り口は表示されるけれど、見たところ村の中にダンジョンの入り口はない。
だとしたら、村の外――ってあれ?
「あの、品評会用のスライムが檻の中から脱走してるみたいなんですけど――」
「「「え?」」」
「いない! どこに行った!」
私の言った通り、檻の中にいたはずの品評会用のスライムはいなかった。
地図で見て脱走したのに気付いた。
「あっちの方に移動して反応が消えました」
床に穴が開いている。
たぶん、この中に入ったのだろう。
「床をこじ開けろ!」
「でも、どうやって逃げたんだ?」
「誰かが檻を開けたんだろ。きっと、ラスクに気を取られている間に隣村の連中が――」
地図を見る限り、逃げ出したとき他の人がいなかったんだけどなぁ。
村人がバールのようなものを持ってきて、床板を外す。
そこにあったのは、地下に続く梯子だった。
「このスライム舎、地下があったんですか?」
「ああ、昔倉庫に使っていたんだ。ただ、爺様が年を取って梯子の上り降りが難しくなってな。怪我をしないようにって、婆様が塞いだんだ」
「へぇ……」
ナタリアちゃんが身体を光らせて飛んで中に入っていく。
村人たちも入って行った。
梯子は思ったより丈夫らしい。
スカートで梯子を下るほど女性を捨てていないので、アバター衣装に着替える。
でも、なんでかな? この衣装、スカートや着物が多い。
ケモっ娘衣装は下がホットパンツのような感じだったので、それに着替えて梯子を下りる。
「スライムいました?」
みんなに尋ねながら地図を見る。
スライムの反応はない。
その代わり――
「いや、いない。くそ、どこだ!」
「あの、その本棚の裏」
「そこにいるのか?」
「いえ、そうじゃないんですけど――そこにダンジョンの入り口があるみたいです」
地図にはしっかりダンジョンの入り口が表示されていた。
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