スライム牧場体験
第36話 遊佐紀リンはスライム牧場に来る
私たちは砂利の敷かれた街道を歩いていた。
草が生えていないってだけでこんなに歩きやすいなんて、日本にいた頃は考えたことがなかった。
アスファルトがあればもっと歩きやすいんだろうけれど、さすがにそこまで要求はできない。
「しかし、リンは本当に異世界の人間なのじゃな。その年でスライムを見たことがないのか」
「スライムは雨季になればどこにでも出てくるからな」
ナタリアちゃんとエミリさんが驚いている。
事の始まりは、草原を歩いていると半透明のおまんじゅうのような形の魔物を見て、私が「なんですか、あれ?」と言ったときだった。
まさか、あれがスライムだったなんて。
二人からしてみれば、スライムを知らないというのは異常なようだ。
日本で言うと、散歩している犬を見て、「あれってなんって動物ですか?」って尋ねるのと同じような感覚らしい。
「仕方ないさ。リンの世界にはスライムはいないのだろう?」
「それにしては、スライムの存在は知っておるのじゃな?」
「はい。と言っても名前くらいですけどね。スライムに転生したアニ……物語とか聞いたことがありますし」
それを聞いた二人が「「いったいどんな罪を犯したら来世がスライムに」」って表情をした。
日本で言うのなら、ミジンコに生まれ変わるような感覚なのかもしれない。
これは余計なことを言ったらいろいろとツッコミを受けそうだ。
聞くに徹しよう。
「スライムってどんな魔物なんですか?」
「そうだな。基本のスライムは無害な魔物だ。近付いたら体当たりしてくるが、それでも成人女性でも倒せ……あぁ、リンはあまり近付かない方がいいな」
「どうせ私は
久しぶりに外見年齢を指摘された。
それを言うならナタリアちゃんだって15歳以上に見えないんだけれど、フェアリーは元々年齢不詳なんだよね。
「スライムといえば、結構都市部でも活用されておる。水を浄化する力があるから、下水処理に使われるな」
「うむ、じゃが下水で大増殖して、たびたび災害を引き起こしているとも聞くな」
「夏に食べると美味しいぞ。これはこの大陸だけの風習らしいが」
「ああ、確かに、あれは夏の風物詩じゃな」
え? 下水処理して、なのにそれを食べるの?
お腹壊す気がする。
そんなの食べたくないよ。
「そういえば、スライム核は地方によっては薬の素材に使われることがあるとも言う。まとまった数を手に入れたいな」
「なら、ちょうどいい。この先にスライム牧場がある。そこでスライムの核を譲ってもらおう」
スライム牧場? へぇ、そんなのがあるんだ。
牧場といったら、乳しぼり体験だったり、ソフトクリームが売っていたりするけれどさすがにスライム牧場だとそれは期待できないよね。
「なにもいない?」
スライムがいるはずの牧場には何もいない。
スライムだけじゃなくて他の動物も。
えぇ、どういうこと?
地図を見て確認する。
あ、あの建物の中に赤いマークがある。
スライムがいるとすると、あそこが牛舎――じゃなくて、スライム舎なのかなぁ?
「様子を見に行ってみます?」
「そうだな。何かあったのかもしれない」
私たちはスライム舎に向かった。
扉が開いている。
「む、スライムがいる……のぉ?」
スライム舎の中に一匹スライムがいた。
だが、ナタリアちゃんが不思議そうに言うのはわかる。
暗くてわからないけれど、なんか半透明っぽくない。
それに、スライムにしてはでかすぎる。
ていうか?
「のぉ? あれはハリボテじゃないか?」
ナタリアちゃんがズバリ言った!
うん、あれってハリボテだよね?
でも、あそこから赤い反応があるんだよね?
他の赤は薄い赤なのに、ハリボテは黒っぽい赤。
これまでの経験から、薄い赤は弱い敵、黒っぽい赤は強い敵なんだよ。
ってことは、あれもスライムなのかな?
気になるけれど、勝手に入ったらダメだよね。
「近くで見てみるかの」
ってナタリアちゃんが身体に光を纏ってスライム舎の中に入っていく。
勝手に入ったら――
「来たぞ! 確保ぉぉぉぉぉおっ!」
その掛け声とともに、やっぱりハリボテだった巨大スライムの中から男の人が、さらに周囲から男の人が飛び出してナタリアちゃんを捕まえようとして――ナタリアちゃんが閃光弾のように思いっきり光った結果、
「「「「目が、目がぁぁぁぁ」」」」
突然のその光に村人たちが目を押さえて転げまわった。
目薬ってどのくらい作ってたかなぁ?
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