第33話 遊佐紀リンは鈴虫を捜索する

 村人が退治を依頼した魔物はバジリスクじゃない!?


「わかったようじゃな。この森にはまだ魔物がおる。それも村人を食べていった恐ろしい魔物が」


 ナタリアちゃんがそう言って、猟師を見る。


「のう、老人。名はなんというのじゃ?」

「おぉ、ランプかと思ったらフェアリーだったのか! 初めてみたが実在したんだな。申し遅れたな。儂の名はリフェル」

「儂はナタリアじゃ。質問なのじゃが、この森に、恐ろしい鳴き声のする魔物が居るという話じゃが、知っておるか?」

「恐ろしい鳴き声の魔物か……どのような鳴き声だ?」


 私たちは顔を見合わせた。

 わからない。

 そこまで聞いていない。


「ううむ、心当たりがありすぎて、森をまわらないとわからんな」

「なら同行させてもらおう。病み上がりのところすまんな」

「本来であれば儂の仕事だ。礼を言いたいのはこっちの方だ」


 リフェルさんはそう言って、懐に隠していたらしい弓を取り出し、矢筒の中の矢を確認する。

 弓矢は問題なく使えるようだ。

 私も銃を使えるようにしておかないと。

 鉄の弾は一発しかないけれど、吸血の弾が少しある。

 洞窟を出て、森を歩く。

 林道と違って歩きにくい道なんだけど、私たちが泉から洞窟に来たときの道よりは歩きやすい。

 きっと、普段使っている獣道のようなものなのだろう。


「妙だな。普段使っている道なのだが、やけに荒れている。まるで何年も経っているような」


 あ、リフェルさん、まだ自分が鉄になっていた期間に気付いていないんだ。

 教えた方がいいよね?


「あの、リフェルさ――」

「これは厄介だな」


 私が声を掛けようとしたとき、リフェルさんが何かに気付いたようにその場に屈んだ。

 そこにあるのは……土の塊?


「鈴虫の糞だ」


 エミリさんとナタリアちゃんが嫌な顔をする。

 うん、私もイヤだ。

 いくら鈴虫の者と言われても糞を見せられるなんて。

 

「なんてものを見せるんですか!」

「違う違う、リン。私とナタリアは糞を見せられたことを嫌がっているんじゃなくて、鈴虫が嫌なんだ」

「ん? 儂は両方嫌じゃぞ?」


 え? なんで?

 鈴虫だよね?

 むしろ秋の風情があっていいじゃない?

 子どものころは原っぱで捕まえて虫かごで飼っていた気がする。

 虫かご……?

 あれ? この糞、虫かごより大きくない?

 この世界の鈴虫ってどれくらい大きいの?


「デスベルクリケット……通称鈴虫と呼ばれる魔物は非常に厄介な虫の魔物だ。戦いになると大声で鳴き仲間を呼び寄せる。そして群れになって襲い掛かって来る。大きさはリンの知っているものだとワイルドボアくらいだな」


 なにそれ?

 私の知ってる鈴虫じゃない!

 秋の風情とかそういうの全く感じないよ。

 地図を見ながら進む。


「あっちの方に敵の気配がします。大きな木があるところですね」

「大きな木――じゃあこっちだな」


 直接真っすぐは行けないらしく、リフェルさんの案内で遠回りして目的の場所に行く。

 リフェルさんの言う通りに進むと、だんだんと目的の場所に近付いてきた。

 そして、敵の気配もあちこちに増えている。

 うわぁ、これもしかして全部デスベルクリケット?

 こんなのが一カ所に集まったらどうなるんだろ?


 大きな木が見えてきた。

 その木の根元に、首のところに大きな鈴を持つ巨大コオロギがいた。

 って、デカ!

 ワイルドボアくらいって言っていたけれど、それより大きく見える。

 虫って大きくなるとあんなに気持ち悪いんだ……もう虫かごの中にいる鈴虫を見てもかわいいとか絶対に思えないよ。

 それに何かゴブリンっぽいものを食べてるっ!?


 そうか、森の入り口で出会ったゴブリンは、この鈴虫から逃げていたんだ。


「エミリ、どうする? 儂が魔法を使おうかのう?」

「いや、一匹一匹倒すのは面倒だ。鳴き声を出させて全部おびき寄せてから倒す」


 えぇぇぇぇえっ!?

 エミリさん、何言ってるの!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る