第32話 遊佐紀リンは鉄化解除ポーションを使う
おじさんの前で低級鉄化解除ポーションを取り出す前に少し気になることがあった。
「そういえば、この鉄の像、服を着ているけれど噛まれた毒でなんで服まで鉄になるんでしょう? そりゃ、お爺さんの裸を見ないで済んだのは助かりますけど」
「つまらぬことを気にするな、リンは」
「だって、気になるじゃない」
人間が鉄に変わるっていうだけでも不思議なのに、服まで鉄に変わるのってどうしてなんだろ?
「そのあたりは今一つ解明されていないが、動物性の服を着ているとそれも身体の一部とみなされ、一緒に石になるらしい。逆に麻や綿といった植物性の服や金属の鎧などを着ていた場合、そこは石化の対象外となるそうだ。ほら、この爺さんの服のここを見ろ。外套として羽織っているのは獣の皮なので石化しているが、内側に着ている服は綿だからそのままだ」
あ、本当だ。気付かなかったよ。
改めて低級鉄化解除ポーションを取り出す。
瓶の蓋を開け、そして私は固まった。
「リン、今度はどうしたのじゃ?」
「……どうしよう、ナタリアちゃん。私、とんでもないことに気付いちゃった」
私は絶望し、彼女を見た。
「鉄になってるなら、薬を飲ませることができないじゃん!」
ナタリアちゃんがズッコケた。
空を飛んでるのにこけるって器用だな。
「リン、石化解除ポーションはかけるだけで効果が出る。その薬も同じだろう」
「あ、そうだったんですね」
でも振りかけるだけで効果があるって、どういう仕組みなんだろ?
とりあえず、瓶の蓋を開けてお爺さんの頭から薬を注いでいく。
薬がキラキラ輝きながら、吸い込まれていった。
待つ。
待つ。
待つ。
何も起きない。
待つ。
待つ。
待つ。
何も起きない。
「失敗……でしょうか?」
「そうだろうな」
もう一回だ。
低級鉄化解除ポーションを取り出す。
これが最後の一本だ。
手に汗が出てきた。
「これで失敗したら……ナタリアちゃん、代わって!」
「嫌じゃ! 責任重大過ぎる!」
「じゃあ、エミリさん!」
「安心しろ、リン」
エミリさんが私の肩に手を置いた。
「失敗しても、また薬を作ってくればいいだけのことだ。リンならきっと可能だろう」
「それ、慰めになってませんよ!」
そう叫んだとき、手の平にかいた汗のせいで滑ってしまい、瓶がするっと落ちた。
「「「あ」」」
割れる音とともに液体が――
「わぁぁぁあ!」
「大変じゃ」
「待て、慌てるな! 鉄の像を地面にこすりつけるんだ! まだ間に合う!」
私とエミリさんは鉄の像を倒して地面に零れた鉄化解除にこすりつけた。
こんなんで効果があるとは思えない。
ごめんなさい、狩人のお爺さん!
そう諦めかけたとき――
お爺さんの身体の表面が徐々に鉄から人のものに変わっていく。
よかった、成功した。
私はその場に座り込んだ。
「む、儂はいったい?」
「大丈夫か、爺さん。あんたはバジリスクの毒でこのゴブリンたちのように鉄の像になっていたんだ」
「なんと? すると、あんたらが助けてくれたのか?」
「助けたのはそこに座りこんでるリンだ」
「そうか……世話になった。大した礼はできんが、帰ったら今朝獲れたウサギの肉がある。是非持っていってくれ」
お爺さんがそう言うけれど、長い間鉄になっていたから、もうウサギの肉腐ってるんじゃないかなぁ。
私はそんな想像をし、乾いた笑みを浮かべた。
でも、これで一件落着だね。
よかったよかった。
「リン、全てやり切ったという顔をしておるが、まだ解決していないのじゃ」
「え? でも、お爺さんは助かったし、バジリスクは死んでいたわけだし、解決じゃないの?」
「あのバジリスクは肉が腐るほど長い間ここに放置されていたわけじゃろ? それに、ここにいたのはお爺さん一人じゃ」
「うん、そうだね」
「村人から聞いた話を思い出してみるのじゃ」
え?
ええと――
『誰が作ったのか知らないけれど、綺麗な鉄の像だったそうだ。それを教えてくれたおっさんも何年も見てないな』
おっさんっていうのはこのお爺さんのことだよね?
って、何年も?
うわぁ、ウサギ肉は絶対に腐ってるよ。
掃除とか大変かも。
でも、このことじゃないんだよね。
『鉄のフクロウの場所? ああ、北の森のことだな。あそこにはあんまり行かない方がいいぞ。最近、何人も行方不明になってる』
『森の方から恐ろしい魔物の鳴き声が聞こえるそうなんだ。いつか村に来るんじゃないかって不安で夜も眠れないよ』
最近何人も行方不明になっている。
森の方から恐ろしい魔物の鳴き声が聞こえてくる。
何人も?
お爺さん一人じゃない!
それってつまり――
村人が退治を依頼した魔物はバジリスクじゃない!?
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