第30話 遊佐紀リンは石化に恐怖する

「まさか――生きた人間が鉄にされたっ!?」


 私が驚き、そんなことあるのって顔をしているけれど、何故かエミリさんとナタリアちゃんは冷静だ。


「もしかして私、見当違いのこと言いました?」

「いや、考えているんだ。相手を石に変える魔物だったら私もいくつか知っている。たとえばメデューサ」

「メデューサはゴブリンなんて集める趣味はないのじゃ。こやつらがここに集められているのは餌にするためじゃろう?」

「だな。メデューサはゴブリンは食べない。だとすると、コカトリスも違うな。あれも草食の魔物だ。この辺りにいる魔物で考えられるとしたら、あとはバジリスクだな」


 メデューサは知っている。

 たしか、髪の毛が蛇の女性で、見た相手を石にするんだよね?

 鏡を使えば石化を返せるかもしれない。

 でも、コカトリス・・――リスの魔物? バジリス・・ク……こっちもリスが入ってる。


「あの、そのバジリスクってどんな魔物なんですか?」

「バジリスクはトカゲの魔物だな。猛毒の息を吐き、噛んだ相手を石にする力もある」


 リスは関係なかった。

 猛毒の息、噛んだ相手を石って、片一方だけでも脅威なのに両方なんて恐ろしい。

 いない? ここにいないよね?

 地図を確認して周囲に他の魔物が居ないのを確認して、少しほっとした。

 それにしてもトカゲか。

 そういえば、道具欄にトカゲ肉があった。


「前のダンジョンでもエミリさん、トカゲの魔物倒してませんでした?」

「ああ、あれはリザードマンだな。二足歩行のトカゲの戦士だ」


 リザードマン……トカゲ男。

 二本足で歩くトカゲって、もはや恐竜じゃないかな?


「でも、バジリスクはなんで相手を石にするんですか? 強い毒を持ってるなら、それで殺せば石にする必要ないんじゃないですか?」

「保存のためじゃと言われている。普通に肉として保存すると腐ってしまうが、石にしたらその心配はないからの」


 エミリさんに尋ねると、ナタリアちゃんが代わりに教えてくれた。


「え? 石にしてるのに食べれるの?」

「バジリスクは石化毒を中和する液体も同時に持っているそうじゃ。食べるときは牙からその分泌物を流して石化を解除し、食べるという」

「へぇ……でも、これ、石じゃなくて鉄ですよね?」

「それなのじゃ……新種のバジリスクと考えるべきじゃろうか?」

「だとしたら厄介だな」


 うん、石より鉄の方が強そうだもんね。

 確かに厄介だと思う。


「リン、もう一度確認するが、この辺りに魔物の気配は他にないのか? 鉄の像以外に」

「はい、さっきも見ましたがありません。ゴブリンとお爺さんだけです」

「そうか……それで、リンの持っている薬の中に、石化解除ポーションはあるか?」

「作った薬の中にはないですね」


 さすがにそんな特徴のある名前の薬があったら覚えている。

 開発欄の開発可能な薬の中にも存在しない。

 日本での薬を考えようにも、そんな病気聞いたことがない。

 筋肉が骨に変わっていく病気は聞いたことがあるけれど、それとは違うよね?

 たぶん、そのバジリスクの石化を中和する液体ってのがあったら作れると思うんだけど。

 私がそう説明すると、そのバジリスクを探すことになった。


「あの……こんなこと聞くのはなんなんですけど、石に変わった人って生きてるんですか?」


 脳に酸素がいかなくて死んじゃう気がするんだけど。


「あれは仮死状態らしい。数カ月の間石化しているだけだと死んだりはしないそうだ。もっとも、事前にバジリスクの猛毒の息を浴びて死体を石化させられているのだとしたらそうではないが、リンの地図っていうのは死んだら反応しないんだろ?」

「あ、そうだった」


 魔物も死んだら反応しなくなる。

 地図に表示されているってことは生きているってことか。

 自分の能力なのにすっかり忘れていた。


「じゃあ頑張ってバジリスクを探しましょう」

「待つのじゃ……奥に何か見えるぞ?」

「え? でもこの先は行き止まりで誰もいない」

「来るのじゃ!」


 ナタリアちゃんが奥に飛んで行く。


「待って! ナタリアちゃんがいないと暗くて何も見えないから置いていかないで」


 地図の画面も微かに光ってるけど、スマホの画面だけで部屋全体を照らすことはできないのと同じで、地図の画面だけだと何も見えないのと同じだ。

 見失わないように追いかける。


「これは……探す手間が省けたというべきか」

「ヤハリか」

「これって……もしかしてバジリスクですか?」


 大きなトカゲが洞窟の奥で死んでいた。

 全長三メートルくらいはある。


「バジリスクだな。だが、かなり小さい」

「え? これで小さいんですかっ!?」

「ああ、通常の三分の一ほどだ。だが、子どもではなく成体のようだし、恐らくこの種の特徴なのだろう。そして、死因は餓死だな」


 その痩せた身体を見て、エミリさんはそう断言した。


「餓死? でも食べるもの……って言ったらいいのかはわかりませんが、あんなにいっぱいあるじゃないですか」


 ゴブリンも狩人さんも食べるために巣穴に持ち帰ってきたんだよね?

 なのに餓死するってどういうこと?

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