第29話 遊佐紀リンは鉄のフクロウを見つける
森の中を進む。
地図を見てるので魔物が近くにいないのはわかっているけれど、やっぱり怖い。
「リン、怖いか?」
「はい」
「そうか……気分転換になるかわからないが、あそこを見て見ろ」
エミリさんに言われて、彼女が指さした方を見る。
木の枝?
なんだろう、何もないようだけど。
「どこですか?」
「あの太い木の枝だ」
「太い木の? ってあ!」
木の枝に鳥が停まっている。
フクロウだ。
鉄のフクロウではなく、本物のフクロウだ。
小動物は地図には表示されないから、全然気付かなかった。
「ツバスチャンにそっくりじゃ」
「そんなこと……ぶっ、確かに」
色は全然違うけれど、フォルムがツバスチャンに見えてくる。
少なくともツバメよりは近い。
そういえば、ナタリアちゃん、最初ツバスチャンを見たとき、フクロウのお化けって勘違いしてたもんね。
うん、あれを見たら確かにツバメよりフクロウと勘違いしたのも頷ける。
「でも、あんなところにいて襲われないんですかね? 魔物もいるんでしょ?」
「ああ、いるにはいるが、襲われることはないだろうな。あのマージフクロウは非常に不味いフクロウとして有名なんだ。雑食のゴブリンですら見向きもしないと言われている。それにああ見えて、身体はとても小さいからな。それにああ見えて警戒心が強く、近付くと直ぐに逃げてしまう。魔物たちも狩人も敢えて捕まえようとはしないんだ」
「へぇ、そうなんですか」
自分の身体を不味くすることで身を守ってるんだ。
私も不味いって聞いたらわざわざ食べたいって思わない。
あ、でもペットとしてなら飼いたいかも。
餌となるネズミを捕まえるのは嫌だけど。
「少しは気がまぎれたみたいじゃな?」
「あっ!」
ナタリアちゃんに言われて、さっきまで怖がっていたことを思い出した。
私って自分で思っていたよりも単純な性格なんだな。
「はい、もう大丈夫みたいです」
「そうか、それはよかった」
「ん? この先から水の匂いがするのじゃ」
「この先に泉があるみたいですよ! そこですよね、鉄のフクロウがあるって場所! 行きましょう行きましょう!」
私は泉の方に早歩きで向かった。
「待て、リン。そんなに走ったら転ぶ――だから言ったのに」
転んだ。
木の根っこに躓いた。
足を擦りむいたのでポーションで回復した。
せっかく上がったテンションが駄々下がり――このままじゃ本物の鉄のフクロウを見ても――
「うわぁぁ、凄い! 凄いですよ、エミリさん! 思っていたより凄いです!」
テンション爆上がりした。
鉄のフクロウって聞いていたけれど、泉に、二、三体のフクロウの置物が置いてあるだけかと思ったら、泉のほとりに数十、ううん、百体くらい実物大の鉄像が置いてある。
随分と長い間置いてあるんだろう。
錆びてしまっているものもある。
「凄いですね」
「ああ。よく見ると一体一体微妙に違うな。鋳造品かと思ったがそうではないようだ」
「フクロウ以外はないのじゃな」
うん、フクロウ以外の鉄像は見つからない。
でも、私はそれでいいと思っている。
きっと、これの制作者はフクロウに対して強い愛情があるのだろう。
だから、フクロウ以外は作らないんだろう。
「ってあれ? エミリさん、あっちに誰かいるみたいです」
「魔物か?」
「魔物もいます……がそれ以外も」
地図で魔物を示すのは赤いマークだけれど、この先にいるのは白いマーク。
白いマークは村人とか大きな家畜のマークだった。
「行方不明の狩人じゃろうか?」
「事情があって動けなくなっているのかもしれない」
狩人さんが行方不明になったのは何週間も前だって話だけれど、雪山で遭難して一ヶ月くらい焼肉のたれだけで生き延びた事例を聞いたことがある。狩人さんだから森にも詳しいだろうし、採れる木の実や獲物だけで生き延びているのかもしれない。
助けに行こう。
私は森の奥に行く。
さっきまでの道と違い、歩きにくい。
直線距離だと五十メートルくらいなのに、随分と遠回りして地図が示す場所に向かった。
「この穴の中です。けど、敵の気配もします」
地図で見ると、穴の先は広い空間になっている。
「この穴……魔物の巣みたいだな。待て、松明を――」
「儂が魔法で照らすのじゃ」
ナタリアちゃんの身体が発光しだした。
これで点滅したらホタルみたいだ。
「ナタリア、その状態で攻撃魔法は使えるか?」
「余裕じゃ」
「だったらいざという時は援護を頼む。リンはあまり前に出るなよ」
「はい」
私たちは穴の中に入っていく。
うーん、ジメジメした穴だなぁ。
ダンジョンと違って自然の洞窟っぽい。
そして、穴の奥に進むと、地図にもあった広い空間に出た。
「これは――」
「鉄のフクロウも凄いけどこっちも凄いのじゃ」
「凄いです……けど」
広い空間にあったのはいろんな鉄の像だった。
フクロウの像はないけれど、ゴブリンや他の動物の像が置いてある。
だけれど、動いている生物の気配はない。
「リン、魔物はどこにいる? それに救助者はどこだ?」
「エミリさん、これなんです。地図で反応しているのはこのゴブリンとこの人なんです」
私はお爺さんの鉄の像を指差して言った。
どういうこと?
「まさか――生きた人間が鉄にされてるの!?」
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