鉄のフクロウ

第27話 遊佐紀リンはイタリアの夢を見る

 これまでと違って足取りが軽い。

 レベルアップのお陰で体力が上昇したのもあるけれど、これから行くのが観光地だからかもしれない。

 自ずと鼻歌まで出てくる気分だ。


「リンは機嫌が良さそうじゃな」


 ナタリアちゃんがエミリさんの鞄の中から顔を出して言う。

 さっきトイレ休憩に自宅に戻ったとき、彼女は目を覚ましていて結果、一緒に行くことになった。元々世界を放浪していたフェアリーなので、旅を拒む理由はないらしい。


「まぁね、何しろ観光地だからね。憧れてたんだよね、海外旅行での観光地――イタリア旅行とかしたかったな」


 両親が死んで、叔父夫婦は放任主義だから、旅行なんてものは学校の修学旅行と林間学校くらいしか縁がなかった。

 当然、海外旅行なんて夢のまた夢。


「そのイタリアというのはどのような観光名所があるのだ?」

「えっとですね、小さな泉があって、そこにお金を投げ込んだり」

「泉にお金を? 変わった風習だな」

「そのお金を拾えばいいのじゃな?」

「そんなことしないよ。あとは嘘吐きが手を入れると手首を噛み切っちゃう石像の口の中に手を入れたり」

「度胸試しか……それとも審判の一種か?」

「儂は正直者だから噛み切られる心配はないのじゃ……が、さすがに手を入れるには勇気がいる」

「斜めに傾いている塔を登ったり」

「傾いている塔……それは崩れないのか?」

「そんな場所、お金を貰っても登りたくないのじゃ」

「あ、あとはコロッセオっていう闘技場にいったり」

「剣闘士同士の殺し合いを見るのか……」

「罪人の処刑が行われる場所でもあるのじゃが……儂もあんまり見たくはないのじゃ」


 あれー?

 なんだろう、イタリアの有名な観光名所を上げたつもりなのに、二人からの評判はいまいちな気がする。

 全部テレビで見て、一度行ってみたいなって思ったところばかりなのに。


「むぅ、じゃあナタリアちゃんがこれまで見た観光名所を教えてよ」

「儂の? そうじゃの、儂は人の住んでる町にはあんまり近づけないから変わった場所になるが、太陽が昇って空三十分の間だけ七色の花を咲かせる花畑でいろんな味の蜜を吸ったり、森の奥で五千年生きた老木のエントから昔話を聞いたり、一番驚いたのはドラゴンの墓所じゃな。人が近付けぬ瘴気に満ちた山の頂で十頭を超えるドラゴンが石の死体となってそれでもなお立ち続けている光景は圧巻じゃった」


 なにそれ⁉

 異世界の観光名所レベルが高すぎる。

 さすが世界中を旅したナタリアちゃんだよ。

 私もそんな場所に行きたい。


「ナタリアちゃん、この辺りにもそんな場所あるの?」

「ううん、いまのところ見てないかのぉ?」 

「エミリさん! 鉄のフクロウ以外に綺麗な場所とかこの辺りにないですか?」

「あまりそういうのは考えたことがなくてな。最近だと、リンと一緒に星を見たとき、改めて綺麗だと思ったほどじゃ」


 確かにあのとき見た星空は、これまで見た星空よりもはるかに綺麗だった。

 でも、そうじゃないんだよ。

 やっぱり観光地に行きたいんだよ。

 こうなったら、何が何でも鉄のフクロウを見て感動しないといけない。




 目的の村に辿りついて、鉄のフクロウについて聞きこみを開始。

 直ぐに鉄のフクロウがある場所がわかった。


「鉄のフクロウの場所? ああ、北の森のことだな。あそこにはあんまり行かない方がいいぞ。最近、何人も行方不明になってる」

「誰が作ったのか知らないけれど、綺麗な鉄の像だったそうだ。それを教えてくれたおっさんも何年も見てないな」

「森の方から恐ろしい魔物の鳴き声が聞こえるそうなんだ。いつか村に来るんじゃないかって不安で夜も眠れないよ」


 聞いてもいないのに魔物の話まで入ってきた。

 命あっての物種っていうからね。

 じゃあ、エミリさん、次の町に行きましょう。


「リン、魔物退治の依頼を引き受けてきた。報酬は微々たるものだが、皆、魔物が居て不安がっているようだからな」


 はい、そうですよね、わかっていました。

 困っている人がいたら放っておけない。

 さすが勇者様だ。


「ナタリアちゃんはどうする? 一緒に家に――」

「儂も魔法でサポートするのじゃ! なにより、鉄のフクロウを儂も見たい。リンはどうする?」

「ああ、うん。私も行くよ」


 一人で帰っても落ち着かないし、森の中なら薬の素材とかもあるかもしれないからね。


「嬢ちゃん、森に行くのなら、これを持っておいき」

「お花?」


 話を聞いていたらしいお婆ちゃんが黄色い菊のような花を私にくれた。


「虫よけの花だな。持っていると虫が近付きにくくなる」


 へぇ、虫よけスプレーみたいなものかな?

 ……ん? だったら、開発を使って――あ、やっぱり!


「おばあちゃん! このお花、まだあるなら売ってくれない? できるだけいっぱい!」

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