第26話 遊佐紀リンは観光を希望する
一度村に戻って、私たちは出発することにした。
「ありがとうございました、これは約束の礼金です」
「お世話になりました。これは麦酒です。今度皆さんでお飲みください」
村長さんはお金の入っているらしい革袋を私に差し出してくれたので、私はそれを受け取って中身を見ずに収納した。
そして、できたばかりの麦酒――日本のビールとは違って、エールっていうビールらしいんだけど違いはわからない――がいっぱいはいった
そんなものがあるのならさっきまでの宴会の時に出せよって思われるかもしれないけれど、この後二次会とかもあるみたいだし、別にいいよね。
「そのような貴重なものを――よろしいのですか?」
「はい。自家製なので味の保証はできませんが」
「なんと聖女様がお作りになった麦酒ですか。それは御利益がありそうな」
言ってから思ったけれど……この世界って酒税法とかないよね?
今度から自家製って言うのはやめようかな。
作ったのはツバスチャンだから私が作ってるわけじゃないし。
「戦乙女様もありがとうございました」
「気にするな。いい修行になった」
「それで、妖精様は?」
「ああ、魔力枯渇だったみたいだ。もう危険はない。本来なら皆に礼を言いたかっただろうが、すまん。いまは休ませてやってくれ」
エミリさんはそう言うけれど、ナタリアちゃんってかなり自由人っぽいからなぁ。
寝て起きたら、私たちに助けられたことすら忘れている気がする。
そうじゃなかったら話もそこそこに会ったばかりの人の家で爆睡しないと思う。
そして、改めて出発した。
「面白い村でしたね。次期村長選びを利用してお祭りなんて」
「だな。まぁ、代表選びなんてものはそのくらいの方がいいのかもしれない。向きになり過ぎると内部分裂を引き起こすからな。特に貴族の家の跡取りともなると、それはもう大変だ」
「やけに言葉に重みがありますけど、もしかしてエミリさんって貴族の出身なんですか?」
「そんなわけないだろ!」
エミリさんが即座に否定する。
うん、そんなわけないよね。
貴族のお嬢様って雰囲気じゃないし。
「ところで、リンは新しい武器を手に入れたんだな?」
「はい。聖銃っていう武器です。まぁ、弾が少ないので今はあんまり使えませんけどね。鉄の塊とかがあればいいんですけど」
さっきの村では鉄といったら鍋とか包丁とか農具しかなかった。
私のためなら喜んで渡すって言ってくれたけれど、どれも日常的に使っているものっぽいのでそんなものを受け取れなかった。
「鉄の塊か……そういえば、この先の村の近くに鉄のフクロウがあるという話を聞いたな」
「鉄のフクロウ? なんですか? それ」
「私も詳しくは知らないが、森の泉の周りに、鉄のフクロウの置物が大量に置かれているらしい」
「え!? それって観光名所ですか?」
そういえば私、異世界に来たのに観光とか全然していなかった。
イノシシとかカエルなんかよりも、そういう名所を見たい!
「そうだな。どうせその村にはいくつもりだったし、村人に聞いて泉を見に行ってもいいかもしれないな」
「はい! 是非!」
初めての異世界観光!
ちょっと楽しみだな。
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