第24話 遊佐紀リンは妖精に自己紹介する

「えっと、つまり二人が儂をフェアリーイーターから助けてくれたっていうことでよいかの? それはすまんことをした。てっきり妙な魔物に捕まったと思ったのじゃ」


 妖精さんが目を覚ましたので部屋に行くと、部屋は随分と荒れていた。

 壁紙が破れたり、焦げたり、凍り付いたりといろいろな状態になっている。家具類も色々と壊れている。

 ツバスチャンが恐ろしい魔物だと勘違いして所かまわず魔法を使ったらしい。


「構いませんよ。この程度であれば一時間もあれば補修できます」


 ツバスチャンは部屋を壊されても気にすることはないようだ。


「ただし、一つ訂正を要求致します、お客様。私はフクロウではなくツバメでございます」

「ツバメ? じゃが――」

「ツバメでございます。ツバメのコンシェルジュ、ツバスチャンでございます」

「……わかった、そなたはツバメじゃ」


 有無を言わせぬツバスチャンの言葉に、妖精さんは羽を閉じて言った。


「儂は蒼妖精族のナタリアじゃ」

「遊佐紀リンです」

「エミーリアだ。エミリと呼んでくれ」

「あ、私のことはリンでお願い、ナタリアちゃん……ナタリアさん?」

「どちらでも構わぬ。儂はもう17歳故、人間の年齢だと成人しておるが、妖精族の中では若輩者じゃからな」


 え? 同い年なんだ。

 見た目は子供のようにも見える――他人のことは言えない――けれど、喋り方は古風だからもっと年上かもしれないと思った。

 

「して、其方たちは人買いか? 儂は売られるのかの?」

「人買い? え? 売られるってどういうこと?」

「なんじゃ、違うのか? 奴隷として儂を物好きな金持ちに売るのではないのか?」


 奴隷っ!?

 奴隷って、リンカーン大統領によって解放されたあれ!?


「エミリさん、この国で奴隷がいる国なんですか?」

「ガッハスボランでは奴隷の売買は認められていない。亜人と呼ばれる妖精族もその例には漏れていない」


 エミリさんがそう言った。

 ですよね、奴隷なんてそんなのないですよね。


「が、あくまで国の法だからな。国より領主の方が権力を持つ土地ではその方も効力は失われている。実際、奴隷商がある土地も多い」


 ガーンっ!

 エミリさんが前述を翻す衝撃の事実を伝えた。

 なにそれ、国が法律でダメって決めたらダメじゃないの?

 って、法律で決めたことにみんな従ってるのなら、領主たちが好き勝手したりできないか。


「じゃあ、ナタリアちゃんは人買いから逃げてダンジョンに入って、フェアリーイーターに食べられちゃったの?」

「いや、儂は五歳の時に退屈な妖精の里に飽きて家出をして放浪していたんじゃ。それで美味しそうな香りがするからダンジョンの中に入っていったら、迂闊にも食べられてしもうた」


 死にかけたというのにあっけらかんとした口調でナタリアちゃんは言った。


「ということで、申し訳ないが花の蜜を分けてくれないかの? 砂糖水でも構わないが」

「そんなカブトムシみたいな食事でいいんだ。砂糖と水ならうちはうちは使い放題だからいくらでも食べれるよ」

「なんと⁉ そんな夢のような場所なのか!? もしや、儂はフェアリーイーターに食べられて死んでしまったのではあるまいなっ!?」


 話を聞いたツバスチャンが角砂糖の入った陶器の容器と水差し、そしてグラスをトレイに載せて持ってきた。

 手際――じゃなくて翼際がいい。

 トレイをサイドテーブルに置き、グラスに水を注ぐとストローを刺した。


「お客様、砂糖はいくついれましょうか?」

「本当に砂糖が使い放題なのか?」

「ええ、もちろんです。いくらでも補充できますので」

「じゃあ、いただきます!」


 そう言うと、ナタリアちゃんは角砂糖を手でつかんでかぶりついた。

 砂糖じゃなくて、砂糖そのものを食べている。

 サイドテーブルの上に立つと、ストローを持って水を飲む。

 角砂糖を四つ食べて水を二杯飲んだところで、


「ぷはぁ、美味しかった。じゃあ、寝る」


 と言って、客間のベッドの中央を陣取って眠ってしまった。

 妖精って砂糖だけ食べて栄養バランスとかいいのかな?


「随分と自由な妖精のようだな」

「そうですね」

「では、私は風呂に入って来るとしよう」


 エミリさんはそう言ってお風呂に向かう。

 あれ? 今朝も入ってたけど、もう入るの?

 まだお昼だけど……夜も入るよね?

 ……まぁいいか。

 私も用事があるし。


「そうだ、ツバスチャン。拳銃を手に入れたんだけど、使い方ってわかる?」

「お嬢様が使うのですか?」

「うん……いろいろと考えてね」


 本当は拳銃なんて使いたくない。

 だって、私がこの世界に来たきっかけ――宝石強盗が友達ミコのことを殺そうとしたときに使った武器が拳銃だったからだ。

 なのに私が拳銃を使って戦うなんて、皮肉以外のなにものでもない。

 でも、フェアリーイーターとの戦いの中で私はみんなに守ってもらってばかりだった。

 せめて、少しはみんなの手助けできるようになりたい。

 自分の身は自分で守れるようになりたい。

 剣とか槍とかで戦うのは怖いけれど、拳銃なら離れたところから戦えていいんじゃないかな?

 そう思ったのだ。


「なるほど――そういうことでしたら、地下に射撃訓練場がありますので」

「そんなのがあるんだ⁉」


 準備が良すぎるを通り越して、ちょっと怖いよ?

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