第23話 遊佐紀リンは妖精の看病を任せる

 銃なんてどうやって使えばいいかわからないよ。

 そもそも、弾がない。

 ……あ、そういえばさっき、吸血弾ってのを作っていたっけ?

 それを使えば――どうやって入れるの?

 銃の使い方なんてわからない。

 持っているだけでも怖いので、道具欄に入れておこう。

 これは素人が扱っていいものじゃない。

 あとでツバスチャンに聞こう。


「……終わったんですね」


 ジナボさんが目を覚ますなり、上半身をだけを起こしそう呟いた。

 現状の把握が早い。


「ああ、終わった」

「そうですか。では、村長はイチボ兄さんですね」

「なんでそうなるっ!」

「フェアリーイーターを見ればわかります。トドメを刺したのは兄さんの棍棒でしょ?」

「それは戦乙女様が追い詰めてくれていたからで」

「今回の勝負は誰がボスを倒すかのものです。途中経過なんて関係ありませんよ」


 そう言ってジナボさんは笑って続ける。


「安心してください。兄さんの苦手な管理仕事はこれまで通り手伝いますよ。」

「だったらお前が村長をしても同じじゃないか」

「同じじゃありません。僕が兄さんに村長になってもらいたいんです」


 ジナボさんが立ちあがって手を差し出す。

 イチボさんは深いため息をつき、


「仕方ないな……じゃあ、村長としてお前をこき使ってやるから覚悟しておけ」


 その手を取った。

 よかったよかった。

 隣でエミリさんも嬉しそうだ。


「よかったですね」

「ああ、本当によかった。禍根が残ることがあったら恨みとなり、私を呪ってしまうからな」

「あ……エミリさんはそっちの問題があるんでしたね」


 いくら解呪ポーションがあるといっても、呪いを受けるのは嫌だよね。

 勝負事の場合、どっちが勝っても、負けた方は多少なりとも恨みを持つだろうから、勝負事に巻き込まれる仕事はエミリさんにとっては辛いようだ。

 でも、断ったら断ったで多少は恨みを買うので辛いんだよね。


「それで、リン。妖精はまだ目を覚まさないのか?」

「はい。まだ眠っています」

「そうか……」


 とりあえず、ジナボさんが目を覚ましたので、私たちは地上に戻ることにした。

 フェアリーイーターの死体は私が貰う事になった。

 こんなの貰ってどうすればいいのかわからないけれど、道具欄に入れておけば嵩張ることはないのでありがたく保存する。

 見た目はカエルだけれど、ほんのり甘い香りがするんだよね。

 フェアリーハニーって呼ばれるのが原因らしい。

 カエルの消化液みたいなので食べる気にはならないけど。


 ところで、


【ダンジョンから脱出しますか?】


 宝箱から銃を取り出したときから、このメッセージが頭に過ぎってるんだけど、なんなんだろ?

 まぁ、帰る時間だし、「はい」でいいのかな?


 と思った直後だった。


「え?」

「「「「え?」」」」


 気付けば私たち四人(+妖精さん)はダンジョンの入り口にいた。

 階段に座って待っていた村長さんが口をあんぐりさせている。

 あ、イチボさんとジナボさんも同じ顔だ。

 やっぱり親子だなぁ。


「いったいどこから帰ってきた!?」

「聖女様、戦乙女様、これは一体?」

「何がおこったんだ?」


 えっと、どう説明すればいいの?

 脱出したいって思ったら帰って来れました、でいいのかな?

 助けてエミえもん!

 私の助けを求める視線に気付いたエミリさんは頷いて説明をする。


「聖女の奇跡だ」


 そんなんで納得できるかっ!


「「「なるほど」」」


 村長さんたちが腕を組んで頷く。

 納得できるんだっ!?


 

 その日の昼食もイチボさんが次期村長になることが決定し、また宴会になった。

 私とエミリさんはまたも聖女と戦乙女として神棚のお供え物状態になっている。

 意外だったのは、昨日まで言い争っていたイチボ派とジナボ派が楽しそうに話していることだ。

 昨日までの言い争いはなんだったのか?


「あれはうちの村の風習みたいなもんだ。村長を決めるときは必ず二等分に分かれるように派閥を作って言い争って、最後はダンジョンに行く」


 イチボさんが説明した。

 そうか、最初から楽しそうにしてたのか。


「え? じゃあ昨日の投票ってヤラセ⁉」

「予定調和ですよ」

「いえ、ヤラセでしょう」


 もしも村人の数が奇数だったら、村長の奥さんが投票に参加して、やっぱり半々になっていたんだろうな。

 もしくは、白票を混ぜるとか?

 どっちにしても、ヤラセだ。


「それで、村長さん。フェアリーは目を覚まさないのですか?」

「はい。家で休んでいますが、まだ眠ったままです。命に別状はないと思いますが、なにぶん妖精など子供の頃に私の祖父が見たと聞いたくらいで実際に見るのは初めてでして。専門家でもいればいいのですが」

「専門家――困ったときは――」

 ツバスチャンに頼むのが一番だ。



「これは魔力枯渇ですね。フェアリーイーターが無理に魔法を使ったのが原因でしょう」


 さすがツバスチャン!

 一発でフェアリーが目を覚まさない原因を言い当てた。


「じゃあ、魔力を回復する薬を飲ませてあげればいいのかな?」

「眠っているときに無理に薬を飲ませるのは危険を伴います。緊急時以外は必要ないでしょう。私が魔力を提供しましょう。そうすればすぐにでも目を覚ますと思います。お嬢様方はハーブティーと先ほど焼いたクッキーをお召し上がりになって、お待ちください」


 ツバスチャンがハーブティーを入れてくれた。

 じゃあ、待たせてもらおうかな?


「エミリさん、ごめんなさい。急いでいるのに」

「いや、私もフェアリーとはゆっくり話したことがなくてな。どんな話ができるか少し楽しみなのだ」

「そうなんですか。私も楽しみです」


 妖精なんて、絵本の世界の住人だもんね。

 異世界の魔物なんかより相手にしたい存在だ。

 いったいどんな声なんだろう?


「ギャァァァァっ! 青色フクロウのお化けっ!?」

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