第22話 遊佐紀リンは銃刀法違反を恐れる

 飛んでくるストーンゴーレムの破片を前に、私は咄嗟に顔を伏せて蹲った。

 しかし、その後来るはずの衝撃に襲われることはなかった。

 もしかして、運よく飛んできた破片が私を避けて飛んでいったのだろうか?


「ジナボ!」


 イチボさんの声が聞こえた。

 恐る恐る顔を上げると、私を庇うようにジナボさんが立っていた。


「大丈夫ですか、聖女様」

「ジナボさんっ!」

「よかった……」


 ジナボさんが倒れる。

 彼の背には岩の破片が突き刺さっていた。

 私を庇って――そうだ、薬!

 ここで治療すると岩とか体内に入っちゃうかもしれない。


「ジナボさん、我慢してね!」


 私はそう言って背中に刺さった大きな岩の破片を抜き、呻き声を上げるジナボさんにハイポーションを飲ませる。

 もう喋る力もなさそうだが、なんとか飲んでくれた。

 怪我が治ったジナボさんは、静かに眠っているようだ。

 

 エミリさんは苦戦している。

 倒そうと思えば倒せる。

 でも、中にいる妖精を庇うと一気に倒すこともできない。

 助けたいって言ったのは私なのに、私は薬しか用意できない役立たずで……薬?


 そうだ、薬でフェアリーイーターを倒すことってできないかな?

 催眠薬を使えば……違う――これだ!


「エミリさん! この薬をフェアリーイーターに飲ませてください!」


 私はそう言って、その薬をエミリさんに投げた。

 エミリさんはそれを受け取ると、


「これを飲ませればいいんだな!」


 深く聞かずに私のことを信じてくれた。

 左手で薬瓶を持って右手の剣で飛んでくる水の刃を斬りながら、フェアリーイーターに向かっていく。

 今度はストーンゴーレムが生み出されたが、彼女はすれ違いざまにそのストーンゴーレムの右前足を叩き斬り手に取ると、接近したフェアリーイータオの口の中にそのストーンゴーレムの岩を突き立て、さらに剣で長い舌を突き刺した。

 フェアリーイーガーは自分の舌を自ら切り落とし、再生するが、その間にエミリさんが薬瓶の蓋を開けて、それを口の中に入れた。

 直後、フェアリーイーターが苦しみ始め、ストーンゴーレムが崩れ落ちてただの土塊に変わった。


「リン、あの薬は何なんだ? まさか毒か?」

「毒……といえば毒ですね。あれは催吐薬――胃の内容物とか全部ぶちまけちゃう薬です」


 苦しむフェアリーイーターの口から唾液や粘液とともに、羽の生えた小さな女の子が出てくる。

 その直後、棍棒がフェアリーイーターに振り下ろされた。

 イチボさんが叩き潰したのだ。


「ジナボの仇だ」


 いやいや、ジナボさん死んでないから。


「リン、この子の治療を頼む」


 エミリさんがフェアリーを運んでくる。

 外傷はない。

 とりあえず、ポーションを飲ませればいいのかな?

 でも、人間より遥かに小さい人形サイズの女の子にこのポーションを飲ませれば溺れたりしないかな?

 開発欄にフェアリー用ポーションってのが追加されている。

 あ、フェアリーイーターを倒したときにフェアリーハニーって素材がいっぱいあって、それを使って作れるみたい。

 三十秒でできるみたいなので、作ってみる。

 できたのは、人間用のものより遥かに小さいポーションだった。

 指先でつまむように瓶の蓋を開け、妖精の少女に飲ませる。

 これで、たぶん大丈夫……かな?

 持ってきていたタオルで彼女についた粘液などを拭ってあげる。


 緑色の髪のかわいい妖精さんだな。

 

「なぁ、聖女様。突然宝箱が現れたんだが、これは何かわかるか?」


 イチボさんが突然現れていた宝箱に気付いた。

 ツバスチャンが言っていた宝箱だ。

 金色宝箱が一個と銀色宝箱が二個、茶色宝箱が二個ある。


「あ、それはダンジョン攻略のご褒美――」

「聖女に与えられた女神からの加護だ」


 私の言葉を遮るようにエミリさんが言った。

 え? エミリさん?


「そうだろ?」

「は、はい」


 ゲームシステムの能力は女神アイリス様から貰ったものだから、そのゲームシステムにより手に入る宝箱は女神様からの加護……ってことになるのかな?


「そうか。ならこれは聖女様のだな」

「そう……ですね」


 どうせジナボさんが目を覚ますまでは動けないので、その間に宝箱を開けよう。

 私は美味しいものは最後に食べる質なので、茶色宝箱から開ける。

 最初に入っていたのはお金、次に入っていたのは鉄の塊だった。

 お金はともかく、鉄の塊って……開発で使えるかな?

 銀色の宝箱を開ける。

 樽?

 うーん、中身は空っぽだ。

 とりあえず保存。

 鶏?

 動物も入ってるの?

 宝箱から出てきた鶏が逃げ出したが慌てて捕まえる。

 あ、道具欄に収納できた。

 ビックリした。


「なんか凄いものが出てくるな。いまのは神鳥か? ただの鶏に見えたが」

「アイリス様に聞いてください。私にはわかりませんよ」


 最後に金色宝箱。

 これは本?

 道具欄に入れると【技術書(手加減)】とあった。

 そして、もう一つは――え?


「なんだ、それは」

「杖……にしては小さいな」


 エミリさんもイチボさんもわからないみたいだが、私はその形に心当たりがある。

 それは拳銃だった。


「エミリさん、銃刀法違反って知ってます?」


 この世界には銃刀法違反は存在しないらしい。

 それが存在するなら、エミリさんの剣も違反だった。

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