第21話 遊佐紀リンはフェアリーイーターと対峙する

「急いでボス部屋に行きます! 誰かが魔物に捕まっているんです!」


 地図で敵を示す赤い点と、敵じゃない人、もしくは動物などを示す。

 小さな虫やリスのような小動物は表示されない

 さっき地図を見たら、ボスと重なるように白いマークがあった。


「待て、ボス部屋の扉は中で誰かが戦っていると手前の扉が閉まるはずだろ? 開いてたぞ! だから俺はまだお前たちが来ていないと確信したんだ」

「確かにその通りですが、中にいる人全員が戦えない状態――気絶したり眠ったり大怪我で動けなくなった場合は戦闘は終わったとみなし、扉が開くそうです」


 イチボさんの話をジナボさんが訂正する。

 つまり、中にいる誰かは、戦えない状態にある。


 ジナボさんの話が事実なら、中の人は危険な状態にあるってことじゃん。


「急ぎましょう! エミリさん!」

「ああ、行こう」


 私とエミリさんは中に入ろうとする。

 すると――


「待ってください! あなたたちが一緒に入ったら、僕たちの勝負はどうなるんですか!?」


 ジナボさんが待ったをかけた。

 いまはイチボさんとジナボさん、どちらが村長になるかの勝負の真っ最中。

 どっちも負けるつもりだったみたいだけど。


「危ない人がいるのに勝負どころじゃないでしょう!」

「リンの言う通りだ。村長は別の方法で決めてくれ」


 エミリさんはそう言って私と一緒にボス部屋に向かった。


 扉を潜ると、手前の扉がゆっくりと閉じていく。


「二人とも来たんですね」


 イチボさんとジナボさんも一緒に入ってきた。


「当然だ。聖女様と戦乙女様二人だけに戦わすことはできない」

「そういうことです。一応、僕も戦いの心得はありますからね」


 戦える人が三人もいるのなら心強い。

 ってあれ? みんな戦ってくれるのなら、私が中に入る必要なかったんじゃないかな?

 いやいや、中の人が怪我してるのなら治療できる人間が必要だもんね。


 そう思っていたらボス部屋が開いた。

 中にいたのは紫色の大きなカエルのような魔物だった。

 またカエルか――えっと、確かフェアリーイーターっていう名前の魔物だよね?

 エミリさんとイチボさんが私の前に出て剣を構える。


「リン、それで救助者はどこにいる?」


 エミリさんが尋ねた。

 どこにも見当たらない。

 でも、地図には確かに表示がある。

 その表示は――


「あのカエルと重なっています」

「重なって――まさか、呑み込まれているのか」


 ていうことは、中にいるのはフェアリー!?


「どうする、戦乙女様」

「足を切り裂いて動けなくし、腹を掻っ捌く。イチボ、剣の心得は?」

「木剣なら何度か」

「だったら、イチボは棍棒を持ったまま待機していてくれ。絶対にフェアリーイーターを殴るな! 中にいる者にダメージが行く」

「だったらどうすればいいんだ?」

「お前の出番が来るときがある。それを見定めろ!」


 そしてエミリさんはジナボさんにも指示を出す。

 

「ジナボはリンを守ってくれ」

「わかりました」


 ジナボさんが頷く。

 エミリさんが前に出た。


 フェアリーイーターは彼女に対し、まるでブーメランのような形の水を飛ばしてきた。

 あれってもしかして魔法っ!?

 エミリさんはその水を剣で切り裂き、さらに前に出た。


「水魔法……フェアリーイーターは体内に取り込んでいる妖精の魔法を使うことができると聞きます。やはり、妖精を体内に取り込んでいるようですね」

「なるほど――でも、エミリさんはそれをわかっていたみたいですね」


 エミリさんに動揺は見られない。

 最初から魔法の攻撃を想定した動きだ。

 今度はフェアリーイーターは緑色の液体を口から飛ばしてくるが、それを躱した彼女はフェアリーイーターと交差すると同時に、その右前足と右後ろ足を切り落としていた。

 バランスを崩して倒れるフェアリーイーター。


「さすが戦乙女様です。僕たちどころか、イチボ兄さんの出番すらありませんね」

「はい」


 なんだ、緊張していたけれど、簡単に勝負がついた。

 そう思ったときだった。

 フェアリーイーターの足が生え変わり、地面から岩のカエルが現れた。

 

「何なんですか、あれ!? 岩のカエル!?」

「ストーンゴーレムーー土魔法で作ったゴーレムです!」


 そんなのアリ!?

 岩のカエルはエミリさんではなくこっちに向かって来る。


「俺の出番だな!」


 イチボさんが棍棒を使って岩のカエルをぶん殴る。

 吹っ飛ばされた岩のカエルだけど、壁にぶつかっても再度こっちに向かって来る。


「ちっ、さすが頑丈だな!」

「ジナボさん、どうにかならないのですか!?」

「ストーンゴーレムを停めるには術者を倒すのが一番です」


 術者、つまりフェアリーイーターを?


「エミリさん、早く!」

「わかっている。しかし、回復力が高すぎて切っても切っても再生するんだ」


 エミリさんはそう言ってフェアリーイーターのお腹を切り裂いた。

 一瞬、その中に女の子の髪の毛のようなものが見えた。

 エミリさんは手を伸ばしてその髪を引っ張ろうとするが、すぐに腹の肉が修復してしまう。

 どうすれば――


「聖女様、避けろ!」


 イチボさんが叫んだ。

 直後、ストーンゴーレムが弾け、その破片が私に向かって飛んできた。

 えっ!? あんなの当たったら――

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