第19話 遊佐紀リンはキノコと戦う
これまで現れた敵はイノシシ、オオカミ、カエル、クマ、コウモリと、大きさとかを除けばそれほどおかしな生物はいなかった。
まぁ、コウモリは物理法則完全に無視して飛んでたけど。
でも、今回の魔物はこれまでとは違う。
「なにあれ? 青いキノコが歩いてるっ!?」
足の生えたキノコが歩いているのだ。
「ブルーキノボウだな。キノボウの亜種だ」
「キノボウってのがそもそも初耳なんですけど」
「気を付けてくれ。あの胞子を吸えば眠ってしまうからな」
へぇ、眠ってしまうんだ
睡眠導入薬を作るにはよさそうだな。
「寝ちゃうだけなら安全ですね」
「他の魔物と一緒にいなかったら。眠ったところで他の魔物を呼ばれたら目を覚ます前に死ぬぞ」
「ひぃっ」
それは怖い。
えっと、眠らないには――あった!
「目覚めのポーション! 眠気を覚ますだけでなく、数時間眠れなくなる薬です! イチボさんも一本どうぞ」
「それはいいな。ありがたくもらうよ、聖女様」
薬を飲んだイチボさんはブルーキノボウを倒す。
私も薬を飲んだ。
動物は殺せないけれど、キノコくらいなら倒せるかな?
食材と同じだし――
「キノコソテーにして食べてやろう!」
ブルーキノボウに向かっていく私、迎え撃つブルーキノボウ。
一対一の正々堂々な戦い。
ブルーキノボウの攻撃方法は見たところ体当たりのみ。
大丈夫、キノコの体当たりなんかじゃ私はたぶん死なない。
「やっぱりムリーーー」
私はブルーキノボウに背を向けて、
「助けて! エミリさん!」
「ふん!」
イチボさんが棍棒でブルーキノボウを叩き潰した。
「一緒にいる俺より戦乙女の名を呼ぶのか」
「すみません、つい癖で――」
これって、かなりイチボさんに失礼なことだよね。
だが、イチボさんは苦笑するだけで私を責めたりはしなかった。
「聖女様、少し休憩しよう」
「え? でも急がないと」
「いいんだ」
そう言って、イチボさんは座った。
私も座る。
ブルーイチボウは薬の材料になるから私が貰ってもいいらしい。
道具欄に収納する。
やっぱり睡眠薬が作れるらしい。
あ、道具欄にトカゲ肉とかトカゲの尻尾とか追加されている。
エミリさんも頑張っているみたいだ。
休憩していていいのかな?
「さっき、聖女様が戦乙女様の名前を呼んだときに思い出したんだ。ジナボも昔は弱虫でな。怖いことがあったらいつも泣きながら俺の名前を呼ぶんだ」
「子どもの頃ってそんなものですよね。私も小さいときはお兄ちゃ――兄を呼んでいましたよ」
「おや、聖女様にも兄がいるのか?」
「いまはどこにいるかわからないんですけど……」
お兄ちゃんはどうなんだろ?
私と違ってゲーム感覚で魔物バンバン倒してるのかな?
「……あの? イチボさん、そろそろ行かなくてもいいんですか?」
「ああ。戦乙女様がいくら強いといっても、ここまで道に迷わずに一本道だったからな。時間差を考えるともう少しゆっくりしないと」
「え? イチボさん、それって――」
イチボさんは二っと笑って言う。
「ああ、俺は村長になる気なんてない。俺は戦いに生きる戦士、常に死と隣り合わせだ。村長は村を纏める代表。村長がそんな危険な橋を渡ることはできない。そういうのはジナボに任せる」
「じゃあ、勝負なんてしなくてもいいんじゃないですか?」
「そうはいかん。俺を支持してくれてる連中が納得しない。しっかり勝負し、功績を残し、皆に認められる必要がある」
つまり、イチボさんは最初から負けるつもりだったんだ。
一緒に来る人を他の強い人じゃなく私を選んだのも、聖女の奇跡とかじゃなくて、イチボさんを支持してくれる人に手を抜いているところを見せられないからだ。
「聖女様には世話になっておきながら、このようなことに巻き込んでしまって住まないと思っている」
「いいですよ。薬の材料が手に入るんですから」
それに、ダンジョンのボスとか戦うのは怖いからちょうどいい。
エミリさんならきっとうまいことやってくれるだろう。
じゃあ、私たちはここでのんびりとしていますか。
うさぎとカメのうさぎの如く。
遊佐紀ってウサギに似てるからちょうどいいよね
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます