第18話 遊佐紀リンは選別のダンジョンに潜る(その1)
送還チケットを使うと、私たちは一瞬で昨日いた村の村長宅に戻って来られた。
時間までまだ余裕があるけれど、村人の多くが既に広場に集まっていた。
「聖女様! 頑張ってください!」
「戦乙女様! どうかご武運を!」
村人たちは応援だけでついてこないんですね。
一緒に行くのはエミリさんを除けば村長さんとイチボさん、ジナボさんだけか。
まぁ、村の仕事もあるだろうし、全員揃って留守にしたら盗賊に襲われたら大変なのはわかるけれど、大事な村長を決めるのに見送りだけって本当にそれでいいの?
文句を言いたいよ。
「聖女様、戦乙女様、こちらがダンジョンの入り口になります」
ダンジョンの入り口は、なんか地下街の入り口みたいな階段だった。
階段を下りたら地下鉄の駅とかあったりしないかな?
階段を下りていく。
地下鉄の券売機もなければ、ショッピング街も無かった。
あるのはT字路だけだ。
「ここは選別のダンジョンと呼ばれるダンジョンです。左右、どちらに進んでも最下層のボス部屋に辿り着きます。先にそのボス部屋に辿り着いた方を次期村長と致します」
村長さんはそう言ったあと、イチボさんとジナボさんを見て尋ねる。
「双方ともそれでよいな」
二人とも無言で頷いた。
まぁ、私はどっちが勝っても、ダンジョンにある薬の素材が手に入ったらいいんだけどね。
出発前に、エミリさんにこっそり耳打ちをする。
「エミリさん、ダンジョンに潜る前にこれを食べてください」
「これは?」
「太陽のクッキーっていうお菓子です。えっと、エミリさんが得られる経験値が多くなるので――」
「ああ、その分リンが強くなるというわけだな。頂こう」
エミリさんはぱくっと、橙色の丸いクッキーを食べた。
「……うまいな」
「オレンジ味ですね」
私も食べる。
これ、エミリさんの取得経験値が二倍になって私のところに入ってきて、そこで二倍になったら四倍になるんだよね?
イチボさんのことを信用していないわけじゃないけれど、ダンジョンの中で自分の身は自分で守れるくらい強くなりたい。
強くならなくてもいいから早く帰りたいっ!
戦い怖い! 魔物怖い! ダンジョン怖い!
「聖女様、危ないですから前に出ないでくれよ!」
そう言ってイチボさんが迫って来る大型犬サイズの蝙蝠を棍棒でぶん殴っていく。
って、大型犬サイズの蝙蝠って何っ!?
なんでそんな大きさで空を飛べるの。
イノシシとかオオカミとかならどんなに大きくても納得できるけど、これ、明らかに物理法則無視してるよね⁉
あぁ、なんか道具欄に蝙蝠の羽とか吸血の牙とかがたまっていく。
イチボさんに寄生しているわけではないけれど、一緒に戦っていることになっているのでアイテムが溜まっていくらしい。
あ、レベル上がった。
って、レベルが上がってもどうでもいいよ。
考えてみれば、私が
だから、レベルが上がっても魔物は怖いよ!
えっと、蝙蝠の羽と吸血の牙は薬には……うん、ならないよね。
なんか、吸血の魔弾とかよくわからないものしかならない。
「敵はあらかた片付けた。次に行こう」
「は……はい」
「ははは、聖女様は戦いが怖いようだな」
私は苦笑して頷いた。
嘘をついても仕方がない。
今の私を見て、戦いが好きだと思うことはないだろう。
「俺は戦いが好きだ。俺が戦えば、魔物を倒せば村人を守ることができる。だから戦いは怖い。戦いで死ねば誰も守れなくなる」
「え? イチボさんも怖いんですか?」
「そりゃそうだろ。戦いに身をやつす人間ってのは、たいていは恐怖をどうにかして誤魔化して生きている。誤魔化す方法は、慣れとか、使命感とかいろいろあるがな」
そうか……そうだよね。
じゃあ、誤魔化し方がわからない私は大人しく震えていよう!
「分かれ道だな」
「あ、こっちは行き止まりですのでこっちですね」
「凄いな……何故わかるんだ? このダンジョンは変幻迷宮って言われていて入るたびに構造が変わるんだが」
地図のお陰です。
ダンジョンの中だと狭い範囲しかわからないけれど、どっちに行けばいいかとか、近くにいる敵の位置とかわかる。
戦いでは役立たずだけど、サポートは任せて!
後ろで震えてるだけじゃないからね。
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