第13話 遊佐紀リンは旅に出る

「リン――やはり聖女様なのか?」

「違います」


 私は即答した。


「私は異世界からやってきました。女神アイリス様の力を借りて」

「ということは、本物の勇者なのか?」

「エミリさんの言っている勇者とも違うと思います」


 私はみんなの想いを力にして、パワーアップ! なんてことはできない。

 むしろ皆の想いを無視して寄生パワーアップする人間だ。

 私はエミリさんに全てを話した。

 兄がこの世界に召喚されてしまったこと。

 その兄の最後の言葉により、アリシア様が私を気にかけてくれていたこと。

 そのアイリス様の力を使って異世界に来たこと。

 その時に貰った能力のこと。

 全てを話し終わったあと、すっかり冷めてしまったピーマンの肉詰めをフライパンで温め直し、再度皿に盛りつける。


「食べましょう」

「ああ……」


 会話はないけれど、一度温め直してもピーマンの肉詰めは美味しかった。

 昨日も思ったけれど、このイノシシの肉って、高級豚肉より美味しいんじゃないかな?


「まぁ、さっき話した通りなんで、私は勇者でも聖女でもなく、ヒモ? みたいなものなんですよね。勇者認定されて、魔王退治の旅なんてさせられたら困るんですよ」

「魔王退治? 魔王ならとっくの昔に勇者によって討伐されていないぞ?」

「え? そうなんですか? 第二、第三の魔王とかいないんですか? 第六天魔王とか」

「第六? いやいや、そんなに魔王がいてたまるか。魔王はいない」

「じゃあ、勇者なんて必要ないじゃないですか」


 私がそう言った直後、エミリさんがフォークを咥えた状態で口を閉じて固まった。


「あぁ、違います! エミリさんが必要ないってことじゃなくてですね――ええと、話しましたよね? 私の兄、この世界に召喚されたんです。勇者が必要ないのになんで兄は召喚されたんでしょう?」

「まぁ、勇者の力は強大だからな。別に魔王退治ではなくても使おうとするものはいるだろう。例えば、戦争とか」

「戦争……」

「ああ、この国、ガッハスボランはいま、各領主による覇権争いが続いている戦乱の世だ。勇者の力を必要とする領主も多いだろう」

「国って王様が支配しているものじゃないんですか?」

「かつてはそうだったが、いまの王制は形骸化されているだけで意味のないものに成り下がった」


 ふへぇ、群雄割拠って感じか。

 日本の戦国時代? それとも、三国志とかに近いのかな?


「じゃあ、ここも危ないんですか?」

「まぁ、ここは国境からも遠く離れた未開の地だ。ここにいる限り戦争に巻き込まれることはないだろう」

「そっか……」


 じゃあ、ここで大人しく――


「ところで、リンに相談なのだが――病に効く薬はあるだろうか?」

「どんな病気なんですか?」

「眠ったまま目を覚まさない病気だ。私の父はその病のせいで十年間、眠ったまま目を覚まさない。実は私がここに来たのも、本来は秘薬を求めてドルイドの集落に行った帰りなのだ。もっとも、結果は振るわなかったがな」


 十年っ!?

 それって植物状態……でも、この世界で十年もそんな状態で耐えられるの?

 医療技術もそれほど発展してないってアイリス様から聞いたのに。

 魔法?

 でも、そんな病気、いったい何が原因なのかわからない。

 少なくとも、風邪薬で治る者ではないと思う。


「コンシェルジュさん、どう思う?」

「情報が少なくてどのような病気かは特定できませんな。脳の病気か、呪いという線もあります――」

「それに、実はもう死んでいて魂が存在しないが、死霊術により肉体だけ生かされている……その可能性もある」


 呪いとか死霊術とかそこまでいったら医療の範疇超えてるよ。

 普通のポーションって脳に効果があるのかな?

 解呪ポーションはあるけれど、それを渡しても治るとは限らない。

 それに、薬草の種類がまだまだ少ない。

 もっといろんな薬草を揃えたら、もっと高性能の薬を作れるかもしれない。


「エミリさんのお父さんってどこにいるんですか?」

「王都だ」

「だったら、私も一緒に………………王都に行きます」


 少しの間――ここに私なりの精一杯の葛藤があったことを理解してほしい。

 魔物が怖いとか戦争に巻き込まれるのが怖いっていうのもあるけれど、この快適な家での生活を捨てるのが嫌だった。

 それでも私はエミリさんと一緒に行くことにした。


「だって、ここで薬を渡しても、それで治らなかったらもう一度エミリさんがここまで来てってなるんですよね? だったら私が一緒に行って薬を使った方が手っ取り早いですよ。エミリさんには命を助けてもらったんですからそのくらいはさせてください。それに、兄を探さないといけないので、ずっと引きこもっているわけにはいきませんものね」

「リン……感謝する。その代わり、旅の道中、いや、今後、リンを全力で守ろう」

「ありがとうございます。でも、そこまで気負わないでください。私のことはコンシェルジュさんが守ってくれますから」

「私は参りませんよ」


 はい?


「え? 来てくれないんですか!? あ、名前を決めてないことを拗ねてるんですか? じゃあ決めます! えっと――」


 ペンギンだからペンタゴン、ペンタン、ペンちゃん……って、違う違う、コンシェルジュさんはツバメだった。

 だったら、ツバ太郎?

 それじゃ某野球球団のマスコットキャラみたいだし。


「いえ、名前はもっと慎重に決めてください。そうではなく、私はコンシェルジュ。この家および村の中の総合案内人です。家を管理する私が旅に同行するわけにはいきません」


 しまった、考えてみればコンシェルジュさん、私と一緒に異世界に来たはずなのに、私を放っておいて家を作るような人だった。


「だったらここでお別れ?」

「いいえ――ここに二枚のチケットがあります」


 コンシェルジュさんはそう言って、赤いチケットと青いチケットを差し出す。


「この赤いチケットは帰還チケット。どこからでもこの家の中に戻って来られるチケットです。そして青いチケットは送還チケット。帰還チケットを使った場所に戻ることができるチケットになります。この二枚を使えば、いつでもお嬢様はこの家に戻って来ることができます」


 そう言って、コンシェルジュさんは赤と青、両方のチケットを束にして渡してくれた。

 つまり、今後トイレに行きたかったり、お風呂に入りたかったり、眠くなったらいつでもここに帰って来られるってことか。

 野宿しなくてっもいいんだ。


「ありがとう、コンシェルジュさん!」


 私は喜びのあまりコンシェルジュさんに抱き着いた。


「ってことなんで、エミリさん! 私はエミリさんに全力で守られるのでよろしくお願いします!」


 自分でも何故かわからないが、ドヤ顔でそう宣言したのだった。



――――――――――――――――――――

一章はこれで終わり、二章に続きます。

第九回カクヨムコンが始まりました。

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