第8話 遊佐紀リンは水を撒く

 水道の蛇口にホースを繋ぎ、外に水を出した。

 エミリさんから連絡を受けた村人たちは、各々容器を持ってきて水をその容器の中に入れては畑に水を撒いていく。

 私も手伝った。


「奇跡だ! 聖女様の奇跡の水だ」

「ありがたや、ありがたや」

「こんな貴重な水、本当に畑に使っていいのか?」


 どんどん使ってください。

 無限に出てきますので。


「あれ? エミリさん、どうしたんですか?」

「川の上流にいる魔物というのが気になってな。リンのお陰で水の心配はなくなったが、川の役割は何も飲み水だけではない。毒があるとなればそこに住む魚や水を飲みにくる野生の動物たちにも影響が出る」

「そうですね……」

「ああ、少し退治して来ようと思う。リンは家で待っていてくれ」

「せめて今日は休んでからにしたらどうですか?」


 エミリさんだって疲れているはずだ。


「いや、大丈夫だ。そう遠くないそうだし、いまから行けば明日の朝には帰れる」

「……わかりました。無事に帰ってきてくださいね」


 私が行っても足手まといになるだけだ。

 結局、エミリさんを見送るしかできないんだよね。

 エミリさんが頑張っている間、私も畑に水を撒くの頑張ろう。

 そして、水を撒いていると、コンシェルジュさんが声を掛けてきた。


「リンお嬢様、少々よろしいでしょうか?」

「なに、コンシェルジュさん。名前ならもうちょっと待ってね」

「いえ、お嬢様の成長のことです。ステータス画面はご覧になりましたか?」


 ステータス?

 確か、アイリス様から聞いた話だと、自分の能力を数値化して見る画面のことだ。

 そういえばまだ見ていなかった。

 なんとなく、通知表みたいだったんだよね。


「御覧になってください」

「うん、わかった」


 メニュー画面からステータスを確認する。


―――――――――――――――――――――

名前:リン

種族:ヒューム

職業:無し

レベル:6

体力15/15

魔力5/5


攻撃:12

防御:12

魔攻:10

魔防:10

俊敏:12

運:50


装備:無し

特殊能力:特殊聖剣召喚 共通言語 寄生Ⅰ 開発

生産能力:天の恵みⅠ

称号:コンシェルジュの加護(成長率上昇)

―――――――――――――――――――――


 へぇ、こんな風になってるんだ。

 ステータス画面は別のページもあるらしい。

 次のページを見る。


「特殊聖剣召喚?」


 このゲームシステムの元になっているのって《聖剣の蒼い海》ってゲームだったはずだから、それに関わる能力だろうか?


「剣を呼び出す能力です。本来でしたら、聖剣は最初は木の剣から始まり、素材とレベルを上げて別の武器に進化させていく必要があるのですが、お嬢様は特別で、開発能力で生み出した剣を自由に取り出すことができる能力となっています」

「そうなんだ。じゃあ、天の恵みっていうのは?」

「その説明をする前に、次の画面を見てください」


 次?

 あ、ステータス画面っていくつもの画面にわかれてるんだ。


―――――――――――――――――――――

・生産技能

農業:5

・戦闘技能

剣術:4

・その他技能

寄生:1

―――――――――――――――――――――

 技能っていうのが見える。

 農業の技能に数字があるのは、水をあげたから?

 でも、剣術は?

 私、こっちに来てから剣なんて触ったこともないけれど。


「寄生の能力でしょう。エミーリア様に寄生なさっているのでしょう?」

「あ、そっか」


 エミリさんが得た剣術の技能経験値を私が貰っているのか。


「お嬢様は農業技能がレベル5になったことで、天の恵みⅠの能力が使えるようになりました。これを使えば、畑の作物の成長速度と作物の品質を上げることができます」

「そうなんだ」


 畑を見る。

 いま、水を撒いているとはいえ、これまで水が与えられなかったせいか、生えている苗は萎れている。

 私は農業については見識の浅い方だけれども、しかしこのままだとまともな作物が育たないだろうというのは見るだけでわかる。

 保存食ももうなくなった。

 狼とイノシシの肉はエミリさんのだし、エミリさんが村人たちに渡すって言っても、それだけの量では足りない。

 そもそも、肉だけの食事なんて栄養が偏る。

 炭水化物抜きダイエットじゃないんだから。


「どうやって使うの?」

「地面に手をかざし、天の恵みを使うと念じてください。それだけでこの辺り一帯の畑に効果が出ます」

「こう?」


 地面に手をかざして、念じてみた。

 実感はわからない。

 畑が光ったり、身体から力が抜け落ちたり、そういったわかりやすい現象は起きなかった。


「はい、それで構いません」


 これで本当に大丈夫なのだろうか?

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