第6話 遊佐紀リンはコンシェルジュと会う
初めて来た村で、何故かみんな私の名前を聞くと聖女扱いしてきた件について。
「リン、この村に来たことがあるのか?」
「いえ、初めてです。聖女ってなんですか!? 皆さん、なんで私のことを知っているんですか?」
「コンシェルジュ殿に教わったのです。これから訪れるリンという名の聖女様が救ってくださると」
私の質問に、村人たちは顔を見合わせたと思ったら、そう説明した。
っていま、コンシェルジュって言った!?
え? コンシェルジュさんが先回りしてこの村に来てるの?
「案内してください、コンシェルジュさんのところへ!」
「えぇ、こちらです」
私は村の人たちに案内されて、コンシェルジュさんがいる村の中央に向かった。
一体どんな人なのだろうか?
年齢は? イケおじとか老紳士とか落ち着いた感じの人もいいけれど、ここはあえて子どもコンシェルジュっていうのもいいよね?
村の中央には他にも人が集まっていて、そしてその中央で――
「わたくし、お嬢様がこの村に来るのを一日千秋の想いでお待ちしておりました。お会いできたこと、大変喜ばしく思います」
人間の言葉を話す執事服を着た三頭身くらいのペンギンが縄に縛られて焚き火の上に吊るされていた。
え? コンシェルジュさんがペンギンなの?
なんで火あぶり直前みたいになってるの?
あと火を付けたらペンギンの丸焼きの出来上がりだよ?
「皆の衆! 聖女様がいらっしゃった! コンシェルジュ殿の仰っていることは事実だった。急いで縄を解くのじゃ! 鳥の丸焼きは中止だ!」
お爺さんの命令で、村人たちが縄を解いた。
とりあえずペンギンが食べられそうになっていたことだけはわかった。
さっきまで食べられそうになっていたというのに、解放されたペンギンは余裕そうに、服についた埃を払い落とす。
「あの、事情を説明してくれない? なんで私が聖女っていうことになっているの?」
「もちろんです。私はリンお嬢様専属のコンシェルジュ。お客様を迎え、お客様の要望をすべて叶えるために行動するスペシャリストでございます。お嬢様を迎えるために、まずはお嬢様が安心して過ごせる住居が必要。そう思った私はこの村にお嬢様の家を建てていました」
家を建てるって、さすがはコンシェルジュさんだ。
できれば昨日、イノシシに襲われたときに助けて欲しかったけれど、でも家を作ってくれたというのは嬉しい。
「家を建て終わり、安心したところで、村の人間に捕まってしましまして。どうやら私のことを焼いて食べようとしていることがわかりました。そこで申したのです。『私はこれからこの地を訪れるリンという名の聖女様を迎える神鳥である。一日待って欲しい。そうすれば、皆に最高のご馳走を振舞おう』と――」
何、勝手な約束しているの、このペンギンは!
と叫びたいが、振り返ると村人たちが期待に満ちた眼差しでこっちを見ている。
「あ……ええと、水と食べ物……でよかったら皆さんでどうぞ」
私はそう言って道具欄からスナックバーと水の入った段ボール箱を取り出した。
私一人で数カ月は食べられる量があるんだけど、みんなで食べたら直ぐになくなりそうだ。
この村の食糧問題を解決しないと。
「とりあえず、お嬢様。家に案内します」
「あ、そうだった。家を建ててくれたんですよね?」
ファンタジー世界の家か。
どんなんだろ?
お菓子の家ってのはさすがに子どもっぽいけれど、七人の小人さんが建てたような煙突のある可愛い家かな?
それとも、ログハウスみたいな?
村の家は石造りの家が多いからそんな感じかな?
少しワクワクしながら家に向かう。
「こちらです」
「……え?」
そこにあったのは二階建ての普通の家。
普通っていうのは、日本においては普通のって意味で、明らかにこの村からしてみたら浮いている。
郵便受けもあり、丁寧なことに【遊佐紀】って表札まで用意している。
「ここに来てファンタジー感台無しだよ!」
「おや、お気に召しませんか?」
「お気に召す召さないの問題じゃなく――」
「では、この世界の基準に合わせましょうか? そうなると、自動湯沸かし機能付きのお風呂もウォシュレット付き水洗トイレも用意できなくなりますが――」
「わがまま言ってすみません。大変満足しています」
異世界ファンタジーのドキドキより、便利な現代日本の生活を捨てられませんでした。
エミリさんとコンシェルジュさんと家の中に入る。
玄関にはシューズボックスがあり、スリッパが並べてある。
日本風の家だ。
靴を脱いで中に入る。
「あ、エミリさん。ここから先は靴を脱いでスリッパに履き替えてください」
「あ……あぁ……」
2LDK、バス、トイレ、家具付きの一軒家だった。
ソファ、ベッド、電気照明や冷蔵庫、電子レンジ、ガスコンロ、その他食器や調理器具まで揃っている。
至れり尽くせりだけど――
「さすがに凄すぎない? 一日で作ったの?」
「これはお嬢様が持っているゲームシステムの能力の一つです。拠点の中に家やその他必要な設備を作る能力があるのです。本来ならば、拠点と設定するにはその土地の住民からの信頼が、さらに家を作るには拠点ポイントが必要なのですが、そこはこの私、コンシェルジュの力でどうとでもなります」
とペンギンさんは当たり前のように言った。
ゲームシステムってレベルを上げて強くなるだけじゃないんだ。
「ちなみに、拠点内では、料理に必要な調味料として、砂糖、塩、酢、醤油、味噌は好きに使用できます。必要とあればお申しつけください」
「うん……ところで、コンシェルジュさんの名前はなんていうの?」
「私には名前はございません。どうぞ好きに名前をお付けください」
「じゃあ、ペンギンコンシェルジュだから、ペンシェルジュってのは?」
私がそう名前を付けると、ペンギンコンシェルジュは突然頽れた。
「お嬢様……私はペンギンではありません……この服を見てわかりませんか?」
「服?」
執事服だよね?
確かに執事服を着ているペンギンって珍しい気がするけれど、でも、ペンギンって元々そんな感じの色だし似合ってると思う。
「これは燕尾服です。これでおわかりですね?」
「燕尾服……それって……え!?」
「そう、私はツバメです! ペンギンではありません」
「うそっ!?」
ペンギンコンシェルジュは、ツバメコンシェルジュだった。
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