運命の審判
ゲームではかなり苦戦するはずの眷属悪魔。
しかし、この世界はゲームではなく、必ずしも四人パーティーだけで挑む必要は無い。
何故か戦闘に入ると全く動かなくなるギャラリー達とは違って、彼らも戦ってくれるのだ。
多少は苦戦するかと思われた眷属悪魔との戦いは、あっという間に終わりを迎えて遂に本丸が動き出す。
「キィェェェェェェェ!!」
甲高い鳴き声と共に、動き始めた悪魔の王ソロモンは九つある目で第四魔王軍を見つめた。
そして、その巨大な体を動かして攻撃しようと試みるが、それを俺が許すはずもない。
「ぐっさぐっさザクザクランランラン♪」
「キェェェェェ?!」
街から離れた山の中で、1人剣雨の歌を歌いながらとてつもない数の剣を空から降らせる。
ダメージはほぼゼロに等しいが、それでも注意を引くことが出来れば問題なし。
俺はさらにスケルトンを大量に召喚すると、スケルトンの山を築き上げてソロモンを妨害する。
ソロモンは確実に嫌そうな顔をしながら、そのスケルトンの山を吹き飛ばした。
ウザイだろう?ウザさに関してはノアが最高峰なんだよ。スライムも食らってベチャベチャになっとけ。
というわけでスライムの雨を展開。スライムは少しでもダメージを与えようと、ソロモンの頭の上に乗ってポヨポヨと跳ねる。
なんか、お父さんのお腹の上で跳ねる子供みたいだな。いや、それだとお父さん死んじゃうけども。
「これは........ノア?凄まじい攻撃だね」
「迂闊に手を出せんな。私達はそこら辺に落ちている剣でも投げて攻撃するか」
「おぇ........調子に乗りすぎた。魔力がもう無い。魔力回復ポーション飲みすぎて気持ちわりぃ........」
「お前は毎回考え無しで魔法を撃つにゃ!!馬鹿なのか?馬鹿にゃのか?!」
俺の攻撃を眺めていたアラン達だが、ここでようやく我に返ったのか攻撃を再開。
とは言っても、俺の弾幕に巻き込まれる可能性を考えて、遠くから剣を投げるだけである。
よしよし。手数は俺の方が圧倒的に多いな。
この悪魔の王ソロモンは、攻撃回数が最も多かったものを優先的に攻撃するようにシステムが組まれている。
これがゲームだとかなり厄介で、タンクに攻撃を集めさせたいのにメインダメージを出してくれるキャラに攻撃が飛んできてしまうのだ。
タンク役は基本的に攻撃よりも補助系の魔法や武技を使用することが多いが、ヘイトを取るためにダメージ効率の悪い通常攻撃をしなければならない。
そういう点でも、かなり厄介なボスだったな。と言うか、ラスボスは割といやらしい戦い方をしてくることの方が多かったかも。
この世界の法則から逃れられないこの悪魔は、間違いなく俺を狙ってくるだろう。
だが、ここで距離を取ったことが生きる。
できる限り距離を取った事で、俺への攻撃手段がたった一つしかないのだ。
「はっ!!レーザービームはまだクールタイム中だろ?!打てるもんなら打ってみろよ!!」
「キェェェェェェ!!」
ずっと上から降り続ける剣の雨とスライムの雨。そして、常に目の前に現れて邪魔をし続けるスケルトン。
自分でやっておいてなんだが、俺がソロモンならブチ切れてなりふり構わず突進するね。
それか、レーザービームが打てるようになるまで耐えて絶対に一撃で殺しに行く。
勝率40%の運ゲーを強制的にやらされるとかいう、クソみたいな賭けに出るしかない。
あれ?もしかしてノアがヘルオブエデンの中で最も凶悪なキャラなのでは?
ネタキャラとは言われ続けているが、メインストーリーを単騎攻略できるだけの実力があるんだし、何よりうぜぇ。
俺は対人戦で使われると滅茶苦茶嫌われるキャラだよな。友達無くしそう。
そんなことを思いながらも、とにかくソロモンへと攻撃を仕掛けまくる。
ヘイトは絶対に俺に向くように調整しながら、ゆっくりと近づいてくるソロモンの邪魔をし続ける。
完全に俺のペースにハマったソロモンは、全く動けずにいた。
とにかくスケルトンが邪魔なのだろう。そして、踏み潰してもなぎ倒しても出てくるスケルトンを何度も何度も壊すが、壊した瞬間目の前に現れるのだから。
「キィェェェェェェェ!!」
暫く攻撃を続けまくっていると、遂に2回目のレーザービームの準備に入る。
運ゲーの時間が来たな。ここで死んだら、俺はそれまで。
この世界の女神に、この世界の乱数に愛されていなかったこととなる。
全力バフをかけた状態で、俺の回避率は65%。しかし、全く信用はできない。
某ポケットのモンスターも75%の技ほど外すからな。まじで、チャンピオン戦でストーンエッジを2連チャンで外した時はゲーム機をぶん投げようかと思ったものである。
まだ一撃必殺の方が信じられるよ。いや、まじで。
俺はそう思いながら、山を駆け下りる。
あのレーザービームはほぼ必中の為、多分避けるのは無理だろうが万が一のために走って逃げておくのだ。
助かる確率は少しでもあげておいた方がいい。
キィィンと、黄色の魔力が集まっていくのが見える。
レオナやアランも気づいたのだろう。あのレーザーは自分達ではなく俺を狙っていると。
全力で止めにかかる姿が見えるが、残念ながらこの攻撃はキャンセルできない。
「来いよ。運ゲーの時間だ」
「キィェェェェェェェ!!」
放たれる光線。光線は、山の中を走り回る俺を的確に捉え、山ごと俺を吹き飛ばそうとしてくる。
頼むぞ俺のスキルよ。折角ここまで来たんだから、エンディングまで見させてくれ。
世界がゆっくり見える。何もかもがスローモーションに映り、丸でコマ送りしているかのような感覚に陥る。
レーザービームを避けるのは不可能。だって山そのものを吹き飛ばすぐらいの大きさがあるから。
こっからどうやって助かる?
転ぶ?くしゃみをする?天から隕石が降ってきてこのレーザービームを止めてくれる?
いや、どれも多分無理。
あ、やばいかも。人は死ぬ前に走馬灯を見るという。
あれは、絶体絶命的な状態からどうやって助かろうか過去の経験を高速で思い出しているから見ると言われているのだ。
そして俺は今、その走馬灯を見ている。
この世界のスキルは、現実になるべく沿った形で実装されている。
物理的に避けるのが不可能な攻撃はもしかしたら避けるのは無理と設定されていたのかもしれない。もしくは、単純に運に見放されたか。
迫り来る死。
徐々に光が迫り、目を開けるのも難しくなってくる。
死が近づいて来ている。
まぁ、俺が死んだとしてもおそらくソロモンは倒せるだろう。魔王軍の勝利は既に決まっており、犠牲者の中に俺の名前が乗るだけだ。
もっとアランと遊ぶんだったな。レオナをもう一回デートに誘うべきだった。
ニーナにはもう少しマシな本を読ませてやるべきだったし、あの腐れ魔王は殴っておきたかったよ。
「あとは頼んだ。悪くない人生だったな」
俺はこれ以上避けるのは無理だと悟ると、静かに目を閉じて──────
「くははははははっ!!魔王国の姫を傷付けようとするとは、行儀の悪い悪魔じゃのぉ!!妾が直々に裁いてやろうか?この原初の魔王がのぉ!!」
────目を開くと、そこには我らが魔王がいた。
攻撃と俺の間に腕を組んで仁王立ちした魔王が、ケラケラと笑う。
「普段は戦場へと出ぬが、お主ほどの力を持った化け物が出てくるのであれば、妾が参戦してもよかろう!!ノアよ。少し頭を下げておれ」
俺は慌てて魔王に言われた通り頭を下げると、魔王は拳を握ってレーザービームに向かってパンチを繰り出す。
レーザービームは魔王の拳に当たると分散し、山の周囲を削ってどこかへと消えていく。
「くははははははっ!!久々に本気で拳を奮ったが、中々に痛いのぉ!!ノアよ
「........ハハハ。運はいい方なんでね」
「くははははははっ!!そうか!!」
なるほど。こうやって助かるわけか。
心臓に悪すぎるぜクソッタレ。
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