悪魔王ソロモン


 大地は揺れ、邪悪なる気配をヒシヒシと肌身に感じながら俺達は隠し通路出ていく。


 最早この先に起こることを止めることなど不可能。ならば、先に準備をしておかなければならない。


 確か、封印が解かれてすぐには復活はしなかったはずであり、8分程の猶予がゲームの中ではあったはず。


 その間にアランは城を出て、不気味な気配と相対したのだ。


 人は目を覚ましてもすぐには動けない。脳が覚める時間が必要となる。


 長い間封印されていた悪魔の王ソロモンもそこは同じであり、目が覚めてからすぐに動くことは無いというのは良心と言えるだろう。


 ある種のご都合主義だな。城をぶっ壊された時にアランとその仲間たちがいると、死ぬ可能性もあるから逃げる時間を与えている。


 この世界の主人公はアラン。こいつが世界の中心なのだ。


「何が起きているんだ........?」

「リバース王国の城の下にある、悪魔の封印が解かれたんだよ。急いで反乱軍と魔王軍のみんなを引かせて。下手に戦おうとすると、多くに被害が出る。出来れば、五分以内に」

「........ノアがそこまで真剣な顔をして話すということは、本当にヤバいやつが出てきそうだな。確かに城の下から邪悪な気配を感じる。ミャル!!」

「はいにゃ!!お呼びですかにゃ?!」

「今すぐに魔王軍を街の外に撤退させろ!!反乱軍の者たちもできる限り逃がすんだ!!五分以内に逃がせ!!」

「了解しましたにゃ!!総員!!撤退!!できる限りの人々を救いながら、街の外へ撤退!!急げ!!五分以内にだ!!」


 隠し通路から出ていた俺たちは、ミャルたちと合流した後指示を出す。


 残り時間はあと五分ほど。それまでに魔王軍の撤退は間に合うだろう。


 街全体を覆う邪悪な気配を感じ、流石の市民や反乱軍もやばいと感じるはず。


 できる限り逃げてくれよ。最初の一撃がどこに飛んでくるのか分からないからな。


 悪魔の王ソロモンの登場ムービーで、ソロモンはかなり大きな一撃を放って街の半分を消し飛ばすシーンが用意されている。


 街の外に出れば問題ないだろうが、この5分間で逃げられる人の数なは限りがある。


 多分それなりに多くの犠牲者が出てしまうだろう。止める術は、俺も知らない。


「俺達も一旦街から離れるぞ。俺は外から援護する」

「分かった。ノアの言うことに従うよ」

「........ふむ。流石にこれほどの邪悪なる気配を感じると、人々も素直に指示に従うのだな。走れない老人は担ぎ上げ、子供達もまとめて運ぶ。時間が無いと言うのはみな分かっているのだろう」


 この街はかなり広い。が、鍛え上げられた魔王軍の者達はあっという間に街の中を走り回って人々を助けながら撤退をした。


 街の中に反乱軍の中にはまだ街の中に残っている人も多いだろうが、それでもかなりの人が避難できたはず。


 これで被害が少なくなればいいのだが........


 そう思っていると、地面の揺れがさらに大きくなる。


 来る。DLCのラスボスにして、マジでキモイ戦法を取ってくる陰キャ悪魔ことソロモンの復活だ。


 ドゴォォォォォン!!と、空気が揺れるほどの崩壊音が聞こえると共に現れたのは、体長が何十mもあるバカでかい悪魔。


 その姿は城壁の向こう側にいる俺達からも見え、九つの目がこちらを覗く。


 見た目は棒ロボットアニメに出てくる使徒の中で斬撃のムチを使うやつにそっくりであり、ムチの代わりに手が生えていることぐらいしか違う点がない。


 あとは色か。あれは白色がベースだったが、こちらは禍々しい邪悪な黒色が全身を覆っている。


「な、なんだあれは........」

「悪魔の王ソロモン。リバース王国に封印されていた、最終兵器だよ」


 街の外に退避していた人たちもその化け物の姿を見て本能的にやばいと感じたのか、さらに遠くへ逃げようとする。


 正しい判断だ。今からこの街の半分は吹っ飛ばされる。


「キィェェェェェェェェェ!!」


 キーンと鼓膜を刺激する甲高い悲鳴をあげたソロモンは、膨大な魔力を一点に集め始める。


 やがてその魔力は光り輝き、一筋の光となって街へと降り注いだ。


 ピュン!!ドゴォォォォォン!!


 たった一撃。5本のレーザーが降り注いだだけで、リバース王国の王都の半分が吹き飛ぶ。


 吹き飛ばされそうになるほどの爆風と、耳を塞いでも貫通してくるほどの爆発音。


 俺も吹き飛ばされそうになり、アランにしがみついた。


「あっぶね」

「大丈夫ノア?」

「問題ない。それよりも、あの化け物をどうしかしないと戦争が終わらないぞ」

「........気配がさらに増えた。似たような気配だと言うのを見るに、恐らく配下か?」

「悪魔の王ソロモンと72の眷属。眷属を全て倒してからじゃないと、あの化け物は倒せない。厄介極まりない化け物だね。レオナ軍団長、アラン、俺は一旦離れる。遠くから援護するから、好きに暴れて。気をつけるべき攻撃は、今の一つだけ。それと、眷属達の特徴として、人の血をすすると回復するから注意してね」


 悪魔の王ソロモンはギミックボスにしてクソ陰キャゴミカスボス。


 とにかく回復力が高くて毎ターン回復系魔法を使う上に、まずは周囲の眷属を倒してから出ないと攻撃がまともに入らないとか言うクソ仕様。


 しかも、眷属にまでダメージドレインのパッシブが付いており、相手を攻撃した分だけHPが回復してしまうのである。


 これが本当に厄介で、タンク系の味方を入れると悪魔達に回復薬として使われるのだ。


 初見でタンクナシ編成をする、尖りまくった馬鹿がいるわけないだろいい加減にしろ。


 そんなわけで、この悪魔の王ソロモンは完全初見殺しのボスだったりする。


 攻略法が分かっても普通に面倒だし、魔王がメインストーリーのラスボスとして素晴らしかった(それでも理不尽)だけにこいつへのヘイトは高かったよなぁ........俺も嫌いだったもん。


 なお、どこぞのノア殺しの中ボスとは違って、一応単騎攻略は可能である。


 毎ターン回復されるので滅茶苦茶時間がかかるが。


 ま、今回は火力面は問題ない。ぶっ壊れチート勇者と魔王軍の最強格がいる上に、第四魔王軍にも火力を出せる人達は多いから。


 大きな注意点は2つ。回復と大技。


 俺はその事を2人に伝え、後方支援に回ることにする。


 眷属悪魔の攻撃1つですら死ぬからね。紙耐久は未だ健在なのである。


「分かった。全部蹴散らしてきてあげる。あれを倒せば........あれを殺せば戦争が終わるんだね?」

「いいだろう。周囲の避難も粗方終わっているだろうし、街の被害は気にせずに暴れてやる」

「その2つの注意点さえ守れば、第四魔王軍の人達も戦えると思うよ。もう一度言うけど、先に眷属から倒してね」

「わかってる。それじゃ行ってくるよ」

「ノア、お前も気をつけるんだぞ」

「もちろん」


 俺達は別れると、アランとレオナは街へと戻り、俺は最初に待機していた山へと向かう。


 ラスボスとしては相応しいが、この世界はゲームではなく現実。


 出てこないのであれば、それに越したことはなく、王を処刑してハッピーエンドで良かったというのに。


「現実は面倒事が次から次へとやってきて困るな。あぁ、たまにはこの苦労を魔王にも味わって欲しいものだ。今からでも来てくれよ。そしたら、あっという間に終わりそうなのに」


 俺はそう呟きながら、空を飛ぶ鳥たちと視界共有をして剣を街全体に降らせる。


 これでレオナのフィールドは完成。あとは、タイミングを見ながらスケルトンやスライムを召喚してサポートするとしよう。


 俺の場所がバレることは無いだろうし、魔王軍のみんなが死なないようにする為に全力を尽くすのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る