禁忌解き放たれでは地獄を写す
DLC最強格の中ボスとまで言われたあの騎士団長が、間抜けな王の手によりボッコボコにされてあっという間に殺されてしまった。
原作ではできない倒し方だな。忠誠心を逆手に取って王を人質とするとは、ゲームの中ではできない倒し方である。
こんなところでもゲームとの違いが出てくるのか。俺はそんなことを思いながら、未だに生き延びようとする無様な豚を見下していた。
こんなのが王を務めるから、アランは闇堕ちしてしまったのだ。
ペンギンのぬいぐるみがどうしても欲しいと言って、俺とニーナを無理やり連れ出しぬいぐるみを買ってきたり、俺と一緒ではないと寝られないと言いながら可愛く泣くアランを壊した罪は大きい。
本当に少年のアランは可愛いんだぞ。ちょいちょい頭がおかしい部分もあるが、年相応に笑い、年相応にはしゃぐ。
そんなアランを見られなくしたこの豚は、今すぐにでもその首を切り飛ばしてやりたいぐらいだ。
出来れば俺の手で始末してやりたい気分だが、リバース王国の今後も考えて我慢した俺は偉いと思う。
「あとはこの豚を反乱軍につき出せば終わりか。呆気なかったな」
「だね。副団長もそんなに強くなったし、いちばん警戒していた騎士団長もノアのいやらしい攻撃で何もさせて貰えなかったし。これで一件落着だよ」
「だな。でもその前に回収しなきゃならんものがある。おい、豚野郎。【禁じられたペンダント】を出せ」
【禁じられたペンダント】
それは、アランが魔王国を滅ぼしリバース王国から追放されたあとに始まったストーリー“復讐編”にて、ラスボスを復活させるためのアイテムである。
この城の下に眠る禁忌悪魔“ソロモン”とその配下達がリバース王国の地下に封印されているらしく、その封印を解くアイテムがあるのだ。
多分、ラスボスを騎士団長とかにするとインパクトにかけるからと言うメタい理由で付け足された存在なんだろうな。
メインストーリーを進めていた時は一切そんな話は出てこなかったし、伏線も有志が探した限り見つからなかった。
メインストーリーがあまりにも胸糞悪すぎてプレイヤーの鬱憤が溜まってしまったがばかりに、DLCでそのストレスを精算するために後付けで作られたストーリーなので仕方が無いと言えば仕方が無い。
しかし、この世界にDLCは存在しない。
俺の持つ森羅万象の杖が魔王国の金庫に眠っていたところから考えるに、恐らくだがこの世界にもソロモンは眠っている。
俺がわざわざ着いてきたのは、この【禁じられたペンダント】を回収するためなのだ。
こいつを起動されると、かなり厄介なことになる。
封印したのになぜ鍵を残すのやら。いや、ストーリー的に仕方がないのかもしれないが、封印したのであれば殺せよ。殺せなければ、鍵なんて用意せずに復活した瞬間に死ぬような場所に置いとけよ。
態々、城の地下に運び込めるだけの余力があるんならよ。
火山の中にぶち込めば、復活したとしても死ぬというのに、封印したやつは馬鹿なのか?
「早く出せ。とぼけたって無駄だぞ。最悪身ぐるみを全部剥いででも回収させてもらう」
「ふは、フハハハハハ!!あのペンダントの存在を知っていながら、我を攻撃するとはいい度胸だなこの穢れた血を持つ愚民が。我の血がペンダントに着いたらどうする気だったのだ?」
「そうはならないように肉を燃やすか、殴るかの二択を取ってたんだろうが。血を出してもいいなら、剣も出してる」
封印の解除条件は王族血とその生命。そして、祈りの言葉だ。
だから血が出ない方法を選んで、ファイヤーボールで焼こうとしたしスケルトンで殴ろうとしていた。
どうせ騎士団長が守るとは分かっていたから、途中から加減もしなかったけどな。
「ふひ、フヒヒヒヒヒヒヒ!!頭のイカれた小僧だ。が、もう遅い。我は既にそのペンダントを持ってないのでな!!あれは呪物であり、血を捧げた王族の生命を吸い上げる。祈りの言葉と共にな!!」
「自分が助かりたいがために他のやつに渡したと?」
「フヒヒヒ!!そういう事だ小僧。今頃はリーシャがそのペンダントを首にかけている!!そして、あの娘は間違いなく血を流し、祈りの言葉を口にする!!反乱など考えるのでは無かったな!!」
クズが。自分の娘を生贄にするつもりだこの豚は。
DLCではアランが王の体に剣を突き刺し、最後の悪あがきとしてその血と生命を使ってソロモンを復活させていたが、今回は王女を使って悪魔を復活させる気だ。
どこまで腐っているのやら。ならば、今すぐにでも王女を探し出してペンダントを回収しなければならない。
そう思い、隠し通路から早く出ようと言おうとしたその時。
地面が大きく揺れ、ゴゴゴ........という音が聞こえ始める。
不味い。この音と揺れは復活の合図だ。最後の最後まで面倒事を引き起こしてくれるな。あの女は。
「........チッ、最後の最後で面倒事を引き起こしてくれる。性格が良くても、トラブルメーカーが過ぎるとプレイヤーから嫌われるとなぜ学ばないんだあの女は」
「フハハハハハ!!これで貴様らも終わりだ!!死ね!!このゴミ─────ゴホッ!!」
「黙れクズ。レオナ、アラン、この豚を連れて外に出よう。通路が崩れる」
俺はそう言うと、この反乱の戦いがまだ続くことに溜息を付くのであった。
【禁じられたペンダント】
かつてリバース王国の近くで暴れていた悪魔“ソロモン”とその配下達の封印の鍵となるアイテム。王族の血と生命、そして祈りの言葉によって封印が解かれる仕組みとなっており、常に王がその手に持っていたものである。
なお、ほぼ後付けの設定なのでツッコミどころが多い。封印した後に城の下に運び込むぐらいなら、海の中にでも沈めておけ。
時は少し遡り、レオナ達が騎士団長を処す少し前のこと。
何とか兵士たちの目から逃れていた王女リーシャだったが、彼女は兵士たちに見つかり逃げ惑っていた。
「待て!!」
「はぁはぁはぁ!!........あう!!」
箱庭の中で育てられたリーシャは、体力の限界を超えてもなお走り続ける。
しかし、人の体には限界があり、途中で足がもつれて転んでしまった。
勢いよく転んでしまったため、擦りむく手。
その掌からは、血が滴り落ちる。
「捕らえたぞ!!王女リーシャ!!」
「へ、兵士が王族に剣を向けても良いのですか?!」
「王とは国を守るための存在。それでありながら、民を苦しめる王は王にあらず!!責務を怠った王に、座る席などない」
「お、お父様は立派な王です!!少なくとも、私の前で良き王としてその席に座っておりました!!」
昔から王を見てきたリーシャにとって、王のあるべき姿と言うのは父である。
ある種の洗脳教育を受けてきた彼女に、その価値観を崩せという方が無理な話だ。
彼女も、この国の王の被害者なのである。
が、兵士達からすればそんなことはどうでもいい話であり、むしろ、苛立ちを大きくさせる要因でしかない。
積もりに積もった苛立ちは、例え国政に関係のなかった少女だとしても向けられてしまうものなのである。
王族なのだから。
「このガキが........!!立て!!今すぐに民衆の前に立たせて、その首を切ってやる!!」
「ちょ、やめてください!!」
揉み合いになる兵士とリーシャ。そして、その揉み合いの最中で手のひら血がペンダンへと飛び散ってしまう。
「だ、誰か助けてください!!」
そして、助けの言葉を口にする。
血と祈り。首から下げられたペンダントは2つの条件を満たした時点で、生命を吸い取る。
「あ........」
急激に力が抜け落ちていくリーシャ。対して、封印は緩くなり禁じられた扉は開かれる。
ゴゴゴゴゴ........
禁忌解き放たれては地獄を写す。
DLC“勇者の復讐編”のラスボス。悪魔の化身ソロモンが再びこの世界に姿を表そうとしていた。
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