さらばだただの兵士よ


 隠し通路での戦いは、俺達魔王軍側が圧倒的に有利にことを運んでいた。


 王は所詮クソザコの存在であり、スケルトン一体すらろくに倒せない。


 いや、一応倒せるだけのステータスは存在しているのだが、生まれてこの方戦いを経験してこなかった豚がイノシシに変わることはできないのだ。


 その何の役にも立たない脂肪を使ってスケルトンに体当でもすれば簡単に倒せると言うのに、それすらもしない。それどころか、このバカは“自分を守れ”と文句を言う。


 典型的なクズ王だ。


 魔王が同じ立場に立たされれ、戦闘力を有していなかったとしても“頑張れ!!”と応援の言葉の一つや二つぐらいはかけてくれると言うのに。


 あの魔王は普段ハチャメチャばかりしているが、こういう時にはちゃんと欲しい言葉をかけてくれる。


 それすらもできない人の言葉を話すだけの豚は、王の椅子に座るにはふさわしく無さすぎた。


「ホイ、追加」

「は、早く我を守れ!!」

「ハッ........ゴフッ!!」

「学ばんのか?リバース王国の王よ。貴様が少しでも我慢をすれば、この兵士はもっと楽に戦えるというのに」

「黙れ穢れた血を持つ悪魔め!!貴様らと違って、我の体は神にも等しいのだ!!そんな我に傷一つでもつける訳には行かないのだ!!」

「........?何を言っているんだ?」

「気にしたら負けだよレオナ軍団長。おっと、アランそれは危ない」


 真面目に訳の分からないことを言う王に、レオナは首を傾げる。


 レオナに取って、王とは魔王である。


 そして、魔王は自らを神と騙る事は無い。むしろ、“神?そんなのゴミじゃゴミ”とか言うような人である。


 つくづく魔王とは正反対のブタだ。あの魔王にもイラッとする事はあるが、こっちの場合は想像を超えるアホさ加減に苛立ちすら通り越して呆れを覚える。


 俺は首を傾げるレオナに耳を傾けない方がいいと言いながら、ファイヤーボールを放ってアランのサポートをする。


 ダメだよ。俺の親友に魔法なんて撃たせるわけないだろ。


「チッ、あの召喚術士が厄介すぎる........!!」

「僕のお姫様は強いでしょ。守るつもりなのにいつも守られるから、勇者としての立場がないよね。もう僕がお姫様になった気分だよ」

「........??????ん?あの少年がお姫様........?」

「ん?そうだよ?」

「もしかして女性なのか?」

「いや、男の子だよ。男の子に見えないぐらい可愛いけど」

「え、じゃぁなんでお姫様なんだ?」

「だって可愛いじゃん。ドレス姿とかすごく可愛いんだよ?もう我慢できなくなるぐらいに可愛くて、頭がおかしくなりそうだった。副団長も見てみたくない?」

「........ちょっと気になる」


 おーい。さっきからちょくちょくシリアスな雰囲気ぶち壊しながら会話するのやめてくれない?


 副団長もなんで攻撃の手を止めて“ちょっと気になる”とか言ってんの?今戦闘中ですよ?


 馬鹿なの?アホなの?


 レオナと騎士団長は真面目に戦ってるのに、なんでこいつらは雑談ばかりしてるの。


「アラン、真面目にやれ。そんなんだと死ぬぞ」

「いやでも、ノア。この人たぶん堕とせるよ。ちょっと猫さんやってくれない?」

「バカかお前は。こんなところでやらねぇよ。真面目にやらないと一緒に寝ないからな」

「はい!!やります!!真面目にやります!!」

「うを?!」


 そう言いながら剣を再び構えて、副団長に切りかかるアラン。


 本当にアランは手のかかる奴だな。そんなんだから、ニーナに“好きじゃない”とか言われるんだぞ。


 俺はそう思いながら、とにかく王に向かって攻撃を続けながらレオナとアランの戦闘をサポートしていく。


 とは言っても、王への攻撃が基本的にサポートになるので割と楽な仕事だ。


 いやー、DLCのストーリーであんなに苦労した騎士団長をここまでボコボコにできると楽しいな。


 スキルで固定ダメージカットがある上に、機動力攻撃力共に高水準。しかも、広範囲攻撃と単体への高倍率攻撃まで持っていたあの騎士団長が、王一人加えるだけでここまで弱くなるんだから。


 忠誠心を逆手に取ると言う新たな攻略法を見つけてしまったな。DLCでは間違いなく使えない手法だし、この世界では二度と戦うことは無いだろうが。


「ゴフッ!!」


 王に攻撃を続けていると、またしても騎士団長がレオナに吹き飛ばされる。


 レオナの攻撃は幾らスキルがあろうとも、そう何度も耐えられる訳では無い。


 騎士団長は口から血を吐き出しながら、地面に膝を着いた。


「私に集中しないとは舐められたものだ。そんなに自分の主が大切か?これ程までに自分勝手で部下の気持ちすら考えない者が」

「ゴホッゴホッ........貴様らのような化け物に、王の偉大さは分かりませんよ」

「そのようだな。私にとっての王は魔王様ただ一人。それ以外の王に価値はない。さらばだ。よ。その忠誠心だけは、褒めてやる」


 レオナはそう言うと、跪いた騎士団長の首を跳ねる。


 おかしいな。まともにダメージを食らっていたとは言えど、この人DLCの中では最強格の中ボスで耐久力とか滅茶苦茶高かったはずなのにもうHPが全損してるんだけど。


 もしかして、レオナもそっち側チートか?原作ストーリーをぶっ壊してしまったが故に、強くなってしまったのか?


 その理論で言えば俺も強くならなければならないのだが、俺はこの世界の運営に愛されているのか未だに強化イベントがない。


 俺も強くしてよ神様!!俺も剣とか使ってかっこよく戦いたいよ!!


 毎日筋トレしているにも関わらず、何故か一向に力のステータスだけは上がらない俺。


 そんなんだから毎日戯れてくるニーナとアランに押し倒されるんだぞ。


「だ、団長........!!」

「あ、もう終わり?なら、僕らも終わらせようか。残念。ノアともっと一緒に戦えるかと思ったのに」


 この国で最強の騎士団長があっという間に殺され、副団長は驚愕する。


 そして、それを見ていたアランはつまらなさそうにそう言うと、一気にギアを上げて副団長の腹を蹴り上げた。


「ガッ........!!」

「ノアのかっこいい姿はあまり見られないから、ゆっくり戦ってたんだけどね。でも、これ以上は迷惑になりそうだ」


 こいつ、手加減してたのかよ。


 なら、アランのサポートには回らなくて良かったな。魔法の邪魔をしたり、スケルトンやスライムで邪魔をしなくても良かったぜ。


 と言うかアラン。お前、以前よりさらに強くなってない?レベル的にまだ副団長をボッコボコにできるとは思えないのに、なんか滅茶苦茶圧倒してるんだけど。


 これで聖剣を持ったらどうなってしまうんだ。


 俺はそう思いながらも、ひっそりと逃げようとする豚を杖で飛ばす。


 俺は弱いとは言えど、訓練もしてこなかった豚に負けるほど弱くない。それに、加減して殴るなら俺の方が向いている。


 全力で殴っても殆どダメージないですからね(泣)。


「ゴフッ!!」

「逃げようだなんて考えるなよ。お前は今から十字架に磔りつけられて、石を投げられるんだからな」

「本当に醜い豚だ。イタズラ好き魔王様の方がまだ可愛く見える」

「レオナ軍団長。さすがにこの豚と魔王様を比べるのは失礼だよ。魔王様は問題事あれどちゃんとした王様で、この豚は人の言葉を話すだけの家畜以下なんだから」

「ふふっ、口が悪いぞノア」


 散々胸糞悪いメインストーリーを作ってくれやがって、本当なら思いつく限りの拷問でもして殺してやりたい気分だ。


 だが、それでは今後リバース王国と魔王国との間に亀裂を生む可能性もある。


 俺は我慢しながら、アランが副団長を殺す姿を見届けるのであった。


 あ、結局副団長の名前を聞いてないや。まぁ、どうでもいいけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る