守っちゃったね?(暗黒笑)


 王族が逃げるための隠し通路に潜入した俺達は、急いでその通路を進んでいく。


 それなりに綺麗に舗装された通路を走っていくと、レオナが急に立ち止まって剣を投げた。


 通路はかなり暗く、先が見えないはずなのだが目のいいレオナには見えたのだろう。


 この先にいるであろう騎士団長と王の姿が。


 ガキン!!と剣が弾かれる音とが響き渡り、少しすると正面から白銀の甲冑を纏った中ボス最強が現れる。


 リバース王国の騎士団長にして、最強の中ボス。ブルーノ。そして、その後ろに控えるのが、この国の王であるアドルフ・リバースと副団長........えーと名前なんだっけ。


 副団長、マジで瞬殺されてキャラが薄すぎるから覚えてないんだよな。


 一瞬でボコられた上に、戦闘にすら入らないダイジェストで終わってたし。


 実はDLC編で1番かわいそうだったのは彼なのかもしれないと思いつつ、俺はアランを苦しめた元凶を睨みつける。


 ブクブクと太ったその豚のような体型と、国内が苦しんでいるというのに財を尽くす限りの姿。


 金銀財宝で着飾ったその全く似合わない光景は、見ていて反吐が出る。


 豚に真珠とはまさにこの事。ことわざ辞典にこの姿を掲載しても違和感が無さそうだ。


 魔王を少しは見習って欲しいね。あの人、自分の服装に興味が無いのか同じ服を何着も用意して着回しているんだぞ。


 しかも、服は超安物。市民が余裕で買える服だし、なんなら魔王のことが好きな子供達がその服を買って魔王ごっこをするぐらいだ。


 なお、何故かその魔王ごっこに本物の魔王が手下として頭を下げていたりする。


 無知な子供の遊びとは言えど、子供ってすごいね。魔王国じゃ無ければ打首待ったナシだ。


「見つけたぞ。諸悪の根源め」

「........確か、第四魔王軍の指揮官でしたかね?【無限剣聖】レオナ。それと、勇者様にいつぞやの少年ですか」

「この前の借りは変えさせてもらうよ。騎士団長ブルーノ。大人しくそこで首を差し出せば、そこの副団長共々楽に殺してやる。豚は屠殺場行きだがな」

「ま、魔人族のカス共が!!この我を誰だと心得る!!ブルーノ!!この無礼者共を殺せ!!」


 ギャーギャー喚くな豚野郎。


 俺はこの世界の中でお前がいちばん嫌いなんだよ。


 アランを闇堕ちさせた挙句、これほどにまで愉快で楽しい魔王国を消し去り、挙句の果てには何も悪くなった(ストーリー的には)聖女まで殺す。


 絶対悪とはあの豚のことを言う。必ず殺して、二度と同じような事を起こしてはならない。


 王の命令を受けたブルーノは静かに頭を下げると、腰に下げた剣を引き抜く。


「もちろんです。副団長、護衛は任せましたよ」

「ハッ」


 それと同時に、レオナも腰に下げた大量の剣をばら撒き、自分の領域を作り出した。


「あの豚はアランに任せる。ノア、私達のサポートを」

「了解。剣は雑に使い捨てていいよ。俺がレオナの剣になってあげる。アラン、行くぞ」

「僕の相手はあの副団長とかいう人だね。悪いけど、生かして帰さないから」


 騎士団長&副団長vs魔王軍幹部&勇者&理論上最強。


 かつてメインストーリーで見ることが出来なかった組み合わせが実現され、隠し通路の中には沈黙が流れる。


「........」

「........」


 お互いにお互いの動きを探っている。


 どう動くのか、何をしてくるのか分からないこの状況では先に動いた方が不利。ましてや、この狭い通路の中では巨大な技は使えない。


 通路を巻き込んで自分達も下手をすれば死んでしまうから。


 しかし、こういう時、空気の読めない豚が騒ぎ始める。


 睨み合いの均衡を破ったのは、人の言葉を話せるだけの豚畜生であった。


「えぇい!!何をしている!!さっさと蹴散らして我を安全なところにまで運ばんか!!」

「アレが王とは片腹痛いな。魔王様ならば沈黙を守ったというのに」

「それだけ無能なんだよあの王は。有能ならまず戦争なんてしない」


 騎士団長のケツを蹴り上げた豚によって、先手を取ったのは騎士団長である。


 剣を持って急接近してくるが、レオナがその程度でやられるわけも無い。


 ガキン!!と再び鈍い金属音が鳴り響く。


 それと同時に、アランは相手の退路を塞ぐために後ろへと回って副団長へと攻撃を仕掛けた。


「国を捨てた勇者が今更何の用ですか?」

「僕にも守るべきものはあるからね。僕の姫様は可愛いんだ。彼が望む未来を用意するのが、勇者ってものだろう?」

「........彼???ん?姫?」


 アラン。副団長が混乱してる。


 こんな時にギャグをやらなくていいから。訳が分からなくて副団長が混乱してるじゃん。


 姫様なのに“彼”なの?って。やめてよ。そもそも俺は姫様ですらないっての!!


 俺は心の中でアランにツッコミを入れながら召喚魔法を使って、退路を塞ぐ。


 これで足の遅い豚は逃げられない。


 俺は視界が取れるギリギリまで離れると、2人のサポートに徹した。


 本当はスライムを流し込んで溺死とかさせたかったのだが、王の処刑は民によって行われるものである。


 反乱軍としても王の処刑は絶対であり、それは民衆の前で行われなければ意味が無い。


 ノアの強みを行かせない戦いになってしまうが、魔王軍としての意向にそうしかないのは軍人として仕方がないことなのだ。


 でもさ、攻撃するなとは言われてないんだよね。


 生け捕りさえ出来ればそれでいいって話なんだから、殴っても問題ないんでしょう?


 俺は、今までの恨みを晴らすかのごとくにっこりと笑うと魔法を行使。


 狙いは騎士団長でも副団長でもなく、そこにいる豚だ。


 大丈夫大丈夫。多少焼け焦げても脂肪が燃えるだけで死にはしない。


 それに、護衛対象がいる上にそれが王ともなれば守らざるを得ないだろう?


 ほら、守ってみろよ。そこの豚に守る価値があるならなぁ!!


「ファイヤーボール」

「ッチ!!」


 俺がファイヤーボールを豚に向かって打つと、騎士団長が素早く反応して王を守る。


 へぇ?守ったね?守っちゃったね?


 つまり、あの豚は人質になるということだ。しかも、傷一つつけてはならない大事な大事な人質。


 やっべ。楽しくなってきた。


 殺さない程度に攻撃を仕掛け続ければ、こいつらはそちらに意識を割く必要が出てくる。


 そして、意識を割いた状態でウチのチート勇者と最強コミュ障軍団長を相手にできるとでも?


「明確な隙ができたな」

「グッ........!!」


 レオナの剣をまともにくらい、吹き飛ばされる騎士団長。


 あの鎧硬すぎるだろ。普通に斬られるかと思ったら、打撃に変わりやがった。


「卑怯だぞ........」

「卑怯だァ?弱いやつから叩くのは戦術の基本だろうに。そこにいるお荷物を狙うことが卑怯だと言うなら、今までお前らがやってきたこと全てが卑怯になるぜ?」

「我々は正義の元に戦っている。蛮族の貴様らとは違うのだ」

「あっそう。なら俺達も正義のために戦わせてもらうわ。自己中心的な正義の元にね」


 俺はそう言うと、スケルトンを召喚。


 ほらほら、守らないと豚王が殴られちゃうよー?


 とにかく王様第一の騎士団長は、レオナの猛攻の中でスケルトンを何とか吹き飛ばす。


 しかし、その瞬間に隙ができて確実にダメージを食らう。


 いいねいいね。戦えないお荷物を持たせることで相手を封殺する。


 対人戦ゲームでは相手が嫌がることをやれと言うし、これが最適解だな。ほら、スケルトンを追加しますよー。


「あはは!!頑張って守ってみろよ!!その豚にどれほどの価値があるのかは知らないがなぁ!!」

「ふふっ、楽しそうだ。私もなんだか楽しくなってきたな」

「ノアかっこいい........こういうノアもいいよね」


 ほらほら、どうしたブルーノ。早くレオナを倒さないと、大事な王様が傷つくぜ?




 後書き。

 ちゃんと性格が悪いノア君。対人戦の基本だよね‼︎

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