反乱の狼煙を上げよ‼︎
レジスト公爵家と魔王国が手を結んでから一ヶ月後。春陽気も徐々になくなり、温かさよりも暑さを感じ始める頃。
俺達はリバース王国の王都の近くの山にいた。
現在リバース王国内はかなりの混乱状態が続いており、街の外に目を向けられるほどの余力が残っていない。
そのため、転移魔法を使ってこの地へとやってきた俺達が見つかるなんて言うこともないのだ。
ガバガバ警備、助かるね。
そして、今日、反乱の狼煙が上がる。
この日の為に色々と準備はしてきたが、ぶっちゃけレオナやアランがいる時点でそこまで困ることは無いだろう。
懸念点が一つだけあるが、これに関しては俺がどうこうできる問題では無いしもしかしたら何も起こらずに終わるので何も言わなかった。
下手に報告して混乱を生んでしまう方が面倒だし、最悪の場合は魔王を呼べば終わるしな。
計画のすり合わせやその他の事務などは俺が手伝えることも無く、完全に蚊帳の外であった。
一介の兵士にしか過ぎない俺が、態々でしゃばることも無いので俺達は作戦内容を聞いてその通りに動くだけである。
計画としては、反乱軍の中に魔王軍が紛れ込んで助太刀すると言った感じ。
反乱軍の人達は最初こそ不安そうな顔をしていたが、陽キャ集団である魔王軍が話に聞くような奴らではないとわかるとかなり砕けた態度をとるようになっていた。
ブロンズは何故か3人ぐらいの女性からモテていたし、ようやく春が来たと泣いていたな。
尚、第二魔王軍は国境に展開しているリバース王国軍の相手をすることとなっている。
第四魔王軍は内部からの攻撃、第二魔王軍は外からの攻撃で挟み撃ちの形を取るのだ。
「いよいよだねノア」
「あぁ。あのクソッタレのリバース王国の貴族共と王族を倒すいい機会だ。俺達の強さを見せつけてやろうぜ」
「もちろん。とは言っても、あまり派手にはできないだろうけどね。街の中には罪のない人達も多くいるんだし」
「彼らは巻き込めないからな。先ずは避難誘導からやってくれなんて、呑気な魔王様だ事。魔王様らしいと言えばらしいけどもね」
今回相手にするのは、リバース王国では無い。
リバース王国に蔓延る自らの利益しか考えない王族貴族のクソ共が相手であって、市民は関係がないのだ。
できる限り被害を防ぐために、反乱が始まったと同時に先ずは市民達の避難誘導をしなくてはならない。
実に面倒だなとは思うが、今後の関係やリバース王国内での魔王国への印象操作と言う部分があるのだろう。
和平を結んだあと、再び魔王討伐と言う流れを作らせないようにするために。
あのロリババァは、意外とこういうところはちゃっかりしている。
「合図は狼煙が上がってから。既に王都には多くの反乱軍が潜んでいると言う。警備があまりにもザルすぎるな。魔王国ならば、あっという間に捕まって終わりだと言うのに」
「今は自分の身を守ることの方が大切だからね。特に、王族貴族が全員集められている今は」
現在、リバース王国では全ての貴族達を集めて会議が執り行われている。
おそらくは、サンシタ王国とカマセ帝国が和平を結んだ情報が流れてきたため自分たちがどのような対応をするべきなのか話し合うのだろう。
しかし、あまりにも行動が遅すぎる。
魔王国は既に、奴らの喉元に死神の鎌を携えているのだ。
今さら笑顔で仲良くしましょうと擦り寄ってきたとしても、魔王国はこの鎌を引く気でいる。
真の平和を望むのであれば、腐った果実とその箱を捨てなければならない。箱の中に入った果実は全てだ。
ポル・ポトだって言っていたんだから間違いない。まぁ、ゴリゴリの独裁主義者の言葉を信じるのかと言われれば、否と答えるべきではあるが。
「ついでに、聖剣をがめったりできないかなぁ........」
「ん?何か言った?」
どうせならアランの装備をパクリたいな。ほら、アランは結局メイン武器が頑丈なタダの剣だし。
本当は朽ちた聖剣を持たせたかったのだが、魔王に言えるタイミングがなかった。
それに、あれは特殊な条件が必要で、それが達成されない限りはそこら辺の木の棒と変わりない。
幾らチート勇者と言えど、その条件を達成するのは今では難しいと判断したのでアランに装備させることは無かった。
「なんでもない。それよりも、そろそろ予定時刻だ。気を引き締めろよアラン。数分後に、この街は戦場になるんだからな」
「うん。もちろん。ノアを殺そうと画策した王族には、確実なる制裁を加えるよ。女子供なんて関係ない。徹底的に潰すんだ」
勇者のセリフとは思えないことを言うね。どっちが悪役だかわかんないや。
アラン、俺が命令したら世界征服とかしてくれそう。罪のない赤子だろうが、俺が一言“殺せ”と命じたら笑顔で殺しそうで怖い。
あれ?前にも思ったが、闇落ち回避できてなくね?
ま、いいか。原作とは違ってアランが楽しそうにしてくれているだけで、俺は嬉しいしな。
メインストーリーでは見られなかった少年のように、年相応に笑うアランが見られて俺は嬉しいよ。
「ん、始まった。行くぞ、ノア、アラン。計画通りに先ずは行く」
「了解。今日で全部を終わらせよう」
「行こうノア」
これが最後の戦争。
俺は、魔王軍の平和の為に森羅万象の杖を手に取り召喚魔法を行使した。
【ポル・ポト】
民主カンプチア首相・カンボジア共産党中央委員会書記長を務め、クメール・ルージュの精神的指導者であった。カンボジアの国内で組織的な迫害や大虐殺などを主導したことで知られる。有名な話だと、“眼鏡をかけているやつは頭がいいから死刑”と言って虐殺したりしている。
貴族達が集まる会議にて、レジスト公爵家当主イイヤツ・レジストは人生で最も緊張していた。
今から行うは王への反逆。国に属する貴族としてあるまじき行為ではあるが、今のリバース王国内の情勢ではそれ以外に手は無い。
「ハッハッハ。それは大変ですなぁ」
「全くですよ。これだから平民は頭が足りない。ゴミを我々が管理をしてやっているというのに、愚かしくも剣を抜こうとするのですから」
会議と言うには、あまりにも場違いすぎる室内。
豪華な食事が並べられ、そこに集まった貴族達は平民を“ゴミ”と言う。
吐き気を催す場所だ。しかし、この光景ももうじき見ないで済む。
レジストとしては、正直な話反乱などあまりしたくはない。が、国のことを、民のことを思うのであればそうせざるを得ない。
今のリバース王国では魔王国に勝てるはずもなく、頼みの綱であった勇者は今魔王国の勇者となってしまっているのだから。
これ以上の血を流すのは勘弁だ。レジストはそう思うと、静かに仲間達の元へと向かう。
数少ない理解者たちであり、リバース王国内ではかなりまともな部類の貴族たちの集まり。
大抵は男爵や子爵と言った弱い立場のものたちだが、それでもこの国と民を思ってリスクを飲んでくれたもの達だ。
「首尾は?」
「問題ありません。もう時期、この場に多くの騎士たちが集まります。騎士達も、最近の貴族たちの傲慢さに痺れを切らしていたようですね」
「当たり前だ。今の情勢でこんな光景を国民が見たら、怒り狂うに決まっている」
まだか、まだかと思っていると、バン!!と扉が開かれる。
貴族達は一斉にそちらへと視線を移し、その一瞬の空白を突いたレジストは反乱の狼煙を上げた。
隠し持っていた剣を抜き放ち、そして天へと剣を掲げる。
リバース王国の歴史を塗り替える時が来たのだ。今からこの国は、貴族によって支配される国から民意によって作られる国へと変わる。
「反乱の狼煙を上げよ!!我々に勝利を!!」
「「「「「「ウヲォォォォォォ!!」」」」」」
メインストーリーの中であれば、失敗に終わっていた反乱イベント。
しかし、今回は幾つものイレギュラーと共に始まり、そして終わりを迎える。
この反乱の行方がどうなるのか。それは、この世界の異物である者次第だ。
後書き。
アラン君。結局、闇落ちしてる。あれ?こいつ勇者だよな?
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