動き始める最終局面


 リバース王国の反乱に、魔王国が参入することが決まった。


 エルとレジスト公爵家との交渉は上手くいき、魔王国軍も反乱軍に力を貸すことが決まったのである。


 レジスト公爵家としては、サッサと戦争を終わらせてしまうべきだと考えているのだろう。


 戦争は時として経済に活性化をもたらすが、今回の場合は悪影響しかない。国の状況を見て、戦争ができるわけでもなければ無理に戦争をすれば国民に苦難を強いることとなる。


 ちなみに、交渉の現場は俺も召喚したネズミ達を忍び込ませてしっかりとみていた。


 と言うか、魔王がひょっこりやってきて“リアルタイムで実況するのじゃ!!”とノリノリでやってきた。


 それでいいのか魔王。


 交渉がどのように行われるのか、どのように進むのか気になるのは分かるが、そんな“覗きしようぜ!!”みたいな軽いノリで来るものではない気がするんだけど........


 まぁ、魔王のことだからもう慣れたが。


 というわけで、俺はエルの言葉とレジスト公爵の言葉をそのまま魔王に伝えるという仕事をこっそりしていたりする。


 魔王はエルが上手くやってくれていると最初から分かっていたのか、なぜか途中から俺への演技指導へとシフトしていたが。


 真面目にやれよ。このおバカ。そんなんだから人望がないんだぞ。


 ゆかいで面白い代わりに、あまりにもウザイ。


 もしもこの魔王軍ルートがゲームに実装されていたら、間違いなく人気投票はレオナが一位を取るな。


 そんなこんなありながらも、反乱の準備が整うまではのんびりと待つ。


 毎日のようにゴミ拾いをし、毎日のように訓練に勤しむ俺は今日もレオナとアランと一緒にご飯を食べていた。


「ノア、アラン。第四魔王軍も反乱に加勢することとなった。準備しておくといい」

「ん?リバース王国担当は第二魔王軍じゃなかったの?」

「ガルエルさんが戦線維持をしているって聞いてるし、ガルエルさんが行くべきじゃないの?」

「もちろん、ガルエルも出る。が、反乱の旗印としてアランを使いたいらしい。アランも可愛い私の部下だからな。どうせなら第四魔王軍も参加させろと魔王様にゴネてきた」


 魔王軍の食堂で、もりもり昼食を食べる俺達。


 食べ盛りの俺とアランは、次から次へと料理を口に運びながら魔王相手にゴネるレオナを想像して少し笑う。


 多分、魔王は嬉しかっただろうな。あまり意見を言わないし、そもそもほとんど話さなかったレオナがここまで積極的に動くようになって。


 きっとゴネる姿が見たくて“いやーそれはちょっと”とか言っていたに違いない。


 魔王はそういう性格の悪いやつなのだ。


「サンシタ王国との国境線はどうするの?一応防衛用の軍はいるよね?」

「エルが率いる第五魔王軍が引き受けてくれる。スデニマケ王国は今内政に忙しく、国を建て直している最中だ。どうやら、王子が暗殺されたらしい。貴族達もこれを機にと自分達の利権を伸ばすためにこちらに目を向ける暇もない」

「身内同士で争うことが最も不利益に繋がるとなぜ分からないんだろうね。魔王国を見習えば、かなりの国力になると思うのに」

「人の欲はそれほどまでに深いということだよアラン。だからニーナが“富の再分配こそ正義”とか言い始めるんだから」

「あー、共産主義だったけ?僕もニーナに本を勧められて読んだけど、あれ、完全なる理想論だよね」


 俺もニーナに強く勧められて読んでみたが、アランの言う通り理想論でしなかった。


 と言うか、すげぇなアラン。一応お前まだ11歳だぞ?もうすぐ12歳を迎えるとは言えど、まだ年齢だけで言えば小学生だ。


 小学生があの小難しい本を読んで、内容を理解し“理想論”と言う判断を下せるとか天才かよ。


 俺が小六の頃は、某HA☆NA☆SE☆のカードゲームでとにかく攻撃力が高く強いカードを突っ込みまくって遊んでいたというのに。


 特殊召喚?墓地から釣り上げる?知らんね。滅びの爆裂疾風弾か、神を召喚するか、コイントス運ゲーで相手のターンスキップだけをしてたね。


 多分、当時の俺とアランで自由にデッキを組んだら、全敗する未来が見える。アランは意外と性格が悪いから、誘発ガン積みしてくるよ。


 と、そんな伝わる人にしか伝わらないカードゲームのことを考えていると、レオナが静かに微笑む。


 本当にレオナは表情豊かになった。俺はこんなレオナが見られてとても嬉しいよ。


「もうすぐ長きに渡る戦争も終わりを迎える。その時までちゃんと生き残れ。これは、軍団長としての命令だ」

「大丈夫、死ぬ気なんてサラサラないよ。少なくとも、レオナ軍団長やアランを残してはね」

「あはは。僕も死ぬ気は無いよ。死ぬ気でノアは守るけど。僕のお姫様を傷つける奴がいるなら、どんな手段を使ってでも殺すよ」


 怖っ。


 口調こそ変わっていないが、アランの周囲からドス黒いオーラが流れ出ているように見える。


 あれ?おかしいな。闇落ちさせないようにあれこれ頑張ったはずなのに、なんか闇落ちしてない?


 だって今一瞬目の奥にハイライトが無かったでしょ。借りにも勇者の職を持つ者がしていい顔じゃなかったよ。


 後、さりげなく姫様扱いするな。一緒に寝てやらないぞ。


「ふふっ、頼もしい限りだ。2人が世話になったという騎士団長は私が始末してやる。2人は、あの腐りきった国の王族貴族共を片付けてくれ」

「もちろん。二度と戦争をやろうなんて気にはさせないよ。俺はこの国が気に入ってるんだしね」

「僕も同じだよ。この国は守るよ」


 ........そう言えば、ポンコツだけど根は優しい空気の読めない聖女ちゃんこと王女殿下リーシャは王族だよな。


 殺すのか?いや、王族を殺すと決めたならば、彼女も殺さなくてはならない。


 彼女を生かして恨みを買い、第2のリバース王国を作られては堪らないからな。


 どの世界線でも殺される運命にあるリーシャ王女。助けてあげたい気持ちもほんの僅かにあるが、お前、ゲームの中で死ぬほど俺たちプレイヤーを苦しめてきたからな。


 お前のせいで何度コントローラーを投げたと思ってるんだ。


 だが、俺にも慈悲は残っている。確かにトラブルメーカーであったし、プレイヤーからは滅茶苦茶嫌われていた節もあるが、ストーリーだけで見れば優しい子であった。


 だから、せめて苦しませることなく天へと送ってあげるとしよう。もし、見かけたらその心臓を一撃で貫き、丁寧に埋葬して祈りを捧げるよ。


 後はどうでもいいかな。アランがメインストーリーから外れたおかげで、ハーレムパーティーに入るはずであった将来の大魔導師はそもそも影すら見えないし、アランの心の支えとなった酒カスギャンブルの元騎士はスラム街でただひたすらに怠惰な時を過ごしている。


 ほかはクズなので問題なし!!心が痛まないからやりやすくていいね!!


「エルベスは元気にしてるのかな?学園で僕のことを気にかけてくれていた人だったんだけど........」

「元気にしてるんじゃないか?少なくとも、話を聞く限りは悪いやつじゃなかったし。所でアラン。お前、あの国の王女殿下を覚えているか?」

「ん?そんな人いたっけ?」

「あ、いや、なんでもない。覚えてないならそれでいいよ」


 おかしいな。アランと学園の話をしていた時に、一度その名前を聞いたはずなんだけど。


 関わりがあまりにも薄すぎて、王女殿下の存在そのものを忘れてしまったみたいだ。


 実は一番可哀想なのは王女ちゃんじゃないのかこれ。どんなルートを辿っても待っている結末が他人の手による死しかない王女ちゃんに、俺は心の中で合掌をしておくのであった。


 来世では、王族なんかじゃなくて普通の家庭に生まれて静かに暮らしてくれ。




 後書き。

 一番可哀想なのは、間違いなく王女ちゃん。存在感もほぼなかった上に、救いもない。

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