魔王国の選択


 魔王国で開かれたお料理グランプリは無事に終え、再び人々が日常に戻る。


 10店舗の料理店が何らかの賞を受賞し、今頃その料理店は大盛況な事だろう。


 もちろん、賞を得られなかった店舗にも多くの客は入っている。特に、今回特別ゲストで呼んだノアこと姫様が美味しそうに食べていた事が宣伝となり、しばらくの間は魔王国で外食ブームが起きそうであった。


 そんな平和な日常が続く中、魔王は幹部たちを集めると先日レオナによって潰されてしまった会議を再び開く。


 ノアによって情報収集されたリバース王国の動き。それに対して魔王国はどのように動くのかを話し合うのだ。


 前回の会議では、レオナがノアをデートに誘うためにどうしたらいいのかという話になってしまい全く話し合いが出来ていない。


 しかし、魔王は別に反省などしていなかった。寧ろ、レオナとノアの仲が更に深まってくれたことに感動すら覚えている。


「........と、言うわけで妾達がどう動くのかを決めたいと思う。今の内容が分からなかった者は手を挙げよ」


 今回は真面目に魔王の話をみんなが聞いているので、誰も手をあげない。


 魔王は静かに頷くと、自分の考えを先に述べた。


「妾としては、この反乱に乗じて軍を動かすべきだと思っておる。レジスト公爵家に恩を売りつけ、確実な勝利を齎した後に和平条約を結べれば万々歳じゃの。そうすれば、この10年という長い時間の戦争も終わる」

「賛成ですね。そろそろ魔王国も戦争経済から抜け出した方がいいかと。どうせまたいつの日か戦争は起きますし、暫くは平和のままでいいですよ」


 魔王の言葉に最初に反応したのは、第一魔王軍軍団長グリードであった。


 彼は魔王と共に長い時の中を過ごしてきただけあって、今後も魔王国が存在している限り戦争は続くとわかっている。しかし、仮初の平和とは言えどその平和をもたらすことには大いに賛成しているのである。


 またいつの日か、何らかの理由で戦争は起きるだろう。しかし、それは今の戦争を終わらせない理由にはならない。


「賛成だな。そろそろ終わらせてもいいんじゃないか?しかも、今こそ絶好のチャンスだろこれ。ノアはすげぇな。これだけの情報をひとりで集めるなんて、エリスの立場が危うくなるぜ?」

「ぶっちゃけ、私じゃなくてノアくんに第六魔王軍を任せてもいい気がしてます。もうノアくんが軍団長でいいんじゃないですかね?」

「ノアは私の部下だ。それは私が許さん 」

「レオナさん。あまり束縛が強いとノアくんに嫌われますよ?いつの日か、ノアくんもレオナさんの下から抜ける日が来るかもしれないというのに........」

「うっ........」


 ノアが部下である事にこだわるレオナと、感情を表に出すようになったレオナを見て嬉しいものの少し不安なエリス。


 しゅんとしてしまうレオナは、その場にいた全員が“可愛い”と思うほどであった。


 が、ノアは意外とそこら辺は気にしないタイプである。推しのためなら四六時中監視されていようが、異性との食事を禁止されようが難なく受け入れてしまうのだ。


 でなければ、別の面で堕ちてしまっている勇者の親友なんてやっていられない。


 ノアは仏よりも心が広かった。


「レオナが意外と面倒な女だと言うのは分かったが、お主らの意見はどうじゃ?」

「賛成です。付け加えて言えば、アランくんを参加させることでこちらの正当性が上がるかと」

「賛成だ。ノアが世話になったという騎士団長を潰すいい機会」

「ふむ。確かにアランを旗印にするのは悪くないかもしれんの。間違ってもリバース王国にくれてやる気などないがの」


 アランはリバース王国の勇者。そして、国民はそれを知っている。


 アランが先頭に立てば、大義はこちらにあると思われることだろう。正義があれば、あとは楽だ。勝ったあとの交渉もやりやすくなる。


「エル、ガルエル。お主らは?」

「賛成。特に反対する理由がない。が、関係の無い人たちを巻き込むのはできる限り避けたいな」

「賛成です。アランくんを先頭に立たせ、なおかつ民衆に僕たちが正義であると分からせればあっという間に国はひっくり返ります。次いでに、民衆への不満を解消するために捉えた王族貴族は磔にして、石でも投げさせればそれだけで不満は解消されていくかと。あとは、レジスト公爵家に王を務めてもらうか、別の法律を制定して貴族制を終わらせるなんて方法もありますよ。戦勝した場合、条約に盛り込むことで実質的な属国にさせることも可能です」

「流石に腹黒いのぉ。そんな可愛い顔して、よくもまぁポンポンと提案が浮かぶものじゃ。これを見せられると、確かにノアやアランの方が可愛いの。主に内面が」

「そ、それほどでもないですよ魔王様」


 いや、今のは全く褒めてないんだが?


 魔王はそう思いつつも、全幹部が賛成したことを確認して作戦計画に入る。


 まずやるべき事はレジスト公爵家への接触と協力の打診。できる限りあちら側にメリットを提示し、協力的になってもらわなければ始まらない。


 やり方は色々とあるが、こういう時は魔王軍の中でも参謀と言われるエルの頭を使うべきだろう。


 彼は見た目こそ少女のように可愛らしいが、考えることはえげつなさすぎて魔王ですら時に引くこともあるのだ。


「エル。何名かの部下を連れて、レジスト公爵家へ交渉をして来るのじゃ。転移魔法部隊には話をつけておくのでの」

「分かりました。あ、アランくんを連れて行ってもいいですか?」

「ダメじゃ。混乱を産む可能性もある。あやつ、アホほど目立つから適当に歩くだけで正体がバレかねん。魔王国ではノアに隠れて薄れがちだが、あやつも相当イケメンじゃからの」


 魔王国にいると少し影が薄いが、アランは相当なイケメンにして完璧超人である。


 有象無象しか存在しないリバース王国に再び戻れば、嫌でも視線を浴びてしまうだろう。


 そして、人の口にとは立てられない。噂が広まれば、反乱の動きを察知される可能性もあった。


「確かにノアくんの可愛さに隠れがちですが、アランくんにも相当熱心なファンが着いていますからね。まぁ、大抵アランくんのファンの方々は、ノアくんのファンなんですけど」

「あぁ、この前アランのファンに対して、アランがノアの素晴らしさを説いていたな。最早あれは洗脳の域だろ。勇者がやっていい事じゃない」

「あー、そういえば妾も似たような光景を見たのー。アランは居らんかったが」


 流石に口には出さないが、その時のファンたちの会話はどちらがタチでどちらがネコなのかと言う腐りきった内容だったことを魔王は思い出す。


 魔王はそこまで頭が狂っている訳では無いので理解できなかったが、内容の意味は理解していた。


 実はこの国は既に終わっているのでは?魔王はそう思いつつも、行動に動かさない限りは人の思想は自由であるべきかと思い直して、首を横に振る。


 思うだけならば自由だ。でなければ、革命家のような思想に染っているニーナを放っておくわけも無い。


 先日、余程感銘を受けた本でもあったのか、四時間も共産主義と社会主義における国家の理想と現実について話され、魔王はかなりウンザリしていたりしたのだ。


 暴走したニーナは魔王の心すらへし折る。魔王は“もうニーナが魔王でいいんじゃないかな”とあの時は本気で思っていたものだ。


 というか、兄代わりであるノアとアランに苦情を言いたかったぐらいである。


 お前たちは妹分に一体どんな教育をしているのだ、と。


「では、任せたぞエルよ。妾達はエルの交渉が成功する前提で話を進めておくからの。失敗したら、お主もドレス着させるからよろしく」

「ふぇぇ?!それはないよ魔王様!!」


 最近、エルにこういう弄り方をしていなかったなと思った魔王は、笑いながらも最終局面についてどのように動くべきか考えるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る