か、可愛い
俺の姿に倒れる人が続出し、祭りの始まりが15分ほど遅くなってしまったりとありながらも、ついに始まったお料理グランプリ。
本来であれは自分の気になる料理を屋台まで買いに行って食べるのだが、特別審査員である俺はステージ上にある席に座らされて運ばれてくる料理を食べるだけであった。
「当店一番人気の料理です。オークの肉を煮込み、最大限まで柔らかくし味が染み込むように作られております」
俺の目の前に運ばれてきたのは、一切れのお肉。
俺達は全種類の料理を食べて審査しなければならないので、好きな料理を好きなだけ食べるということは出来ない。
態々買うために並ぶ必要が無い代わりに、食べられる量は少ない。審査員とは難しいものだ。
俺や魔王軍幹部の者達は、早速一番人気のメニューであるオーク肉の煮込みを食べる。
んー、美味い。口の中に入れた瞬間にとろけるお肉と、肉に合わせて作られたであろうソースが抜群に合っている。
しかも、備え付けの野菜も一緒に食べれば様々な食感を楽しめるし、個人的にはかなり好きな部類だな。
俺はそう思いながら、手元に用意されている用紙にオーク肉の煮込みの欄に丸を付けておく。
他の料理も食べて記憶に残っていたら、選ぶのもありだな。
「それにしても、観客が多すぎやしないか?こんなに人に見られながら食べるなんて、さすがに恥ずかしいんだけど」
「今回はかなり多いですね。何せ、ノアくんが出ていますから。皆さん、料理を食べるよりも、ノアくんが見たいのですよ」
「いや、祭りの趣旨。料理店にお金を落とさせて経済を回したいんじゃないの?」
「かなりの人が集まっていますから、そこら辺は大丈夫ですよ」
ステージ上で料理を食べるのはまだいいのだが、流石にこれ程までに観客が多いと食べるのも恥ずかしくなってくる。
少なく見積っても数百人。下手をすれば1000人近くの観客に見つめられながら料理を食べ続けるのだから、恥ずかしくなるのも仕方がない。
しかも、格好が格好だ。体のラインがくっきり見える上に、太ももが見えて下半身がスースーするドレスを着させられているから尚更に。
まだ猫さんパーカーを着ていた方が落ち着くぞ。スカートなんて二度と履かねぇ。
「あ、ノアくん後ろの方でノアくんのファンの方が大きく手を振っていますよ。しかも、あちらでは“ノア姫様命”と書かれたハチマキをつけている上に、旗まで用意されています」
「ホントやめてよ。恥ずかしすぎる。今すぐにでも着替えたい........」
「ふふっ、手を振ってみてあげたらどうですか?きっと皆さん喜びますよ。ほら、これも魔王軍の仕事だと思って」
女装アイドルをやらさせるのが魔王軍の仕事なのであれば、俺は今すぐにでも魔王軍を辞めるぞコノヤロー。
しかし、ノリが悪すぎると折角のイベントが台無しになってしまう。
俺にドレスを着せたことは許せないが、このイベントはカマセ帝国とサンシタ王国に勝利したことを記念している節もあるのだ。
経済を活性化させる為だったり、多くの目的がある中での祭りなのだから俺も頑張ってその期待には答えてやらなければならない。
俺は、静かに笑うと後ろの方で手を振ってくれていたファン(女性)に手を振り返してやる。
すると、“キャァァァァァァァァ!!”と言う黄色い歓声と“ウヲォォォォォォォ!!”と言う野太い歓声が入り交じり、ステージが大きく揺れた。
うわぁ........気持ち悪いとか通り越して怖いわ。こんな女装男子の何がいいのだろうか?
アイドルやっていた人って、こんな気持ちだったのかな。すげぇよ。日本のアイドルの人たち。こんなヤベー奴らに囲まれながら、歌って踊ってたんだろ?
「大人気ですね。もうノアくん1人でいいんじゃないですか?」
「1人にしないで。心細すぎて死んぢゃう」
「可愛い........じゃなくて、ノアくんも弱音を吐く時はあるのですね」
「四万の軍勢を相手にしていた時より正直怖いよ。今日ほど魔王様を恨んだ日は無いね」
「後でシバキますか?私も手伝ってあげますよ」
俺はこの日、アイドルの苦労を知った。
世界で活躍するアイドルの皆々様方。貴方達は本当に凄いです。
一般人には無理だよ。俺は、こういうステージに立てるような人じゃないって事がよくわかった。
まだ戦場の方がマシだな。
俺はそう思いながら、次々に運ばれてくる料理を食べては、その味を楽しむのであった。
【ノア姫様応援隊】
ノアに性癖を破壊されたファン達が集まる応援隊。本編では名前すら出てこない存在だが、魔王国内でかなりの勢力を誇っている。
以前はエルがこのポジションにいたが、どこぞの勇者と部下のことが好きすぎるどこぞの幹部がエルのファンを洗脳しノアのファンに変えてしまった。
今ではノアとレオナの恋路を見守る厄介オタク。百合の花の間に挟まろうとする不届き者には、洗脳という名の制裁が待っている。
魔王国のアイドルにして、絶対的な姫であるノアを応援するファンはかなり多い。
見た目は少年でもあり少女。着飾れば傾国の美女にも成り代わるその姿に魅了される人々は多く、老若男女問わずノアのことを応援する人は多い。
老人達は孫を見るような目で、若いもの達は憧れる存在としてノアの事を見ていた。
そして、今回は特別審査員としてステージ上で料理を食べる姿を見ることが出来る。
しかも、ドレスを来て出てきたともなればファン達は大歓喜し、ノアの行動全てを脳裏に焼きつける勢いでその姿を眺めていた。
「ん、美味しい........」
((((((か、可愛い........))))))
ノアの口に合う料理が出てきたのか、小さくポツリと呟きながら美味しそうに料理を食べるノア。
その姿を見た観客達は、全員心の中で“可愛い”とつぶやく。
少年が女装した姿をしているからなんだと言うのか。可愛いは正義。そこに性別など関係ない。
例え少年だっとしても、可愛ければ問題なし。魔王国の国民たちはそこら辺がしっかりと分かっていた。
「はぁぁぁぁぁ........ノア姫様可愛すぎる。毎日大通りのごみ拾いをしてくれている時からずっとみていたけど、今日の姫様は本当に可愛い。そして美しすぎる!!こんな姫様の可愛さが全世界に知れ渡れば、魔王国は全世界の敵になってしまうわ」
「全くだ。そうえば、ノア姫様の銅像が作られるって話だぜ。この前職人達が死ぬ気でノア姫様の銅像を作り始めてた。だけど、銅像じゃその可愛さの一端すら写し出せないのは残念だよな」
「それは仕方がないよ。姫様が可愛すぎるのが悪い。あぁ、どうしよう。私、姫様を守るためだけに魔王軍に入ろうかなー。姫様のためならこの命、惜しくない」
「って言うか、姫様があまりにも美味そうに食うから俺も食いたくなってきたぞ。誰か金を渡すから買ってきてくれないかな」
「自分で行ってきてよ。私達は、姫様のお姿をこの目に脳裏に焼き付けるのに忙しい」
「そうです。自分で言ってきてください。私達は姫様の可愛らしい姿を目に焼き付けておくので。あ、もし買いに行くなら私の分もお願いね」
「ふざけんじゃねぇぞ。俺だって見ていたいわ」
こうして、誰が料理を買いに行くのかを決めようとしているあいだも、彼女たちはノアから目を離さない。
そして、偶に“ファンサービスしなきゃ”と思い出して手を振るノアに向かって歓声........もとい、奇声を上げながらはしゃぐのであった。
その翌日は、ノアが美味しそうに食べていた料理を食べたいが為に多くの人が外食をしたんだとか........
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