諦めも肝心
魔王の三文芝居に付き合わされたり、その裏でレオナが気絶していたりとありつつ、次の日がやってきた。
否。やってきてしまった。
結局俺は嫌々姫様の格好をさせられて、本当にこの祭りに参加してしまうこととなったのである。
あー、帰りたい。今すぐにでも帰ってこの服を脱ぎ捨てたい。
しかし、この服を作ってくれた人達に申し訳ないから着ざるを得ない。
魔王達の三文芝居を見せられたあと、ドレスをデザインしてくれた人達が見に来てくれたのだが、彼女達も鼻血を出して気絶してしまっていた。
曰く、“可愛すぎて無理”だとか。
限界オタクかお前らは。俺はそんなに可愛くねぇよ。
最近女の子扱いをされすぎて、真面目に同じ悩みを持つ先輩であるエルに相談しようか悩んでいるぐらいには、俺も困っていた。
おかしい。成長したノアくんはダークなイケメンだと言うのに。
早く大人になりたいものだ。そしたら、姫様扱いもされることは無いはずである。
「ノアくん可愛いよ。すごく似合ってるね」
そんなことを思っていると、当の本人がやってくる。
ナイスタイミングだ。俺と同じ悩みを持つ先輩にして性癖クラッシャーの異名を持つエルに、相談してみよう。
そうだできる雰囲気では無いけど、相談させてもらうぞ。まだ俺の出番は先だしな。
「エル。どうしたら女の子扱いされなくなる?」
「あー........ノアくんも男の子だもんね。やっぱり悩むよね」
「悩むというか“可愛い”と言われるよりも“かっこいい”って言われたい」
「わかるよ。凄くわかる。でもねノアくん。こうも考えられるんだよ“可愛いは正義”だって。僕は色々と魔王様やみんなに揉まれて、悟っちゃったんだ。“この武器を活かして、もう諦めよう”ってね。ノアくん。人は諦めも肝心だよ」
諭してくるな。しかも、死んだ目をしながら。
エル、もう開き直っちゃってるじゃん。むしろ、自分の武器を理解して存分に生かそうとしてるじゃん。
そういえば、今日の服装カワイイ系だな?もしかして、意外とノリノリだったりするのか?
「嫌じゃないの?」
「最初はちょっと嫌だったけど、もう慣れちゃった。大丈夫、ノアくんもいずれ慣れるよ。あ、でも、真面目に告白してくるような人にはハッキリと伝えた方がいいよ。僕はそれで一度問題になったから」
そういえば昔、エルにガチで惚れた男がストーカーまがいな事をしていたと言う設定があったような無かったような........
魔王国には優しくいい人達が多いが、国民全員がお釈迦様のように心が広く優しい訳では無い。
中には犯罪に手を染めるものだっているのだ。比較的治安が良いとされる日本にも、多くの犯罪者がいるように。
そんな犯罪者を捕まえるために、魔王国では第一魔王軍が警備及び市民のトラブル解決をやっていたりする。
第一魔王軍が国からほぼ出ずに国を守っているのは、魔王国の治安を守るためだ。
グリードお爺さんは、警察署長なのである。
まぁ、この国で犯罪が起きることは滅多にないんだけどね。大抵の人達は居場所を追われてやってきたこの世界に馴染めない人達。そんな人達の受け皿となっているこの国での居場所を無くしてしまえば、本当にひとりぼっちになってしまうから。
殴られる痛みを知る者は、相手を殴らないのだ。
中には例外も居るけども。
「でも、ノアくんには関係の無い話かもね。知ってる?ノアくんとレオナさんがデートしてから、ファン達はそれを見守るようにしているんだよ?なんなら、ノアくんを狙おうとしていた人達に圧力を掛けて断罪しているぐらいさ」
「何それ知らないんだけど」
サラッととんでもないことを言い放つエル。
ファンがいるのは知っている。なんならアランもファンクラブに入っているみたいだし、ニーナも入っているらしい。
どうせ何を言っても聞かないので無視しているが、頼むから騒ぎだけは起こさないで欲しいね。
で、そんなファン達が俺とレオナの関係を応援している?もしかして、レオナが外堀から埋めようとしてないか?
「ノアくんのファンの人達は、ノアくんに幸せになって欲しいみたいなんだよね。しかもお相手はあのレオナさん。となれば、応援するしかないじゃん!!って事で、みんな見守ってる。最近、街の中でレオナさんと歩いていると、暖かい視線を送られることとかないの?」
「めっちゃ感じるわ。一昨日とか、レオナ軍団長とお昼食べてたら視線しか感じなかった」
「あはは。確かにそうだったね。僕のその場に居たけど、みんな食べる手を止めてノアくんとレオナさんを見ていたよ。魔王軍はこういう話題になると、本当に面倒くさいからね。悪ノリには気をつけてね」
にっこりと笑いながら、俺の背中を優しく摩るエル。
えるぅ........お前、良い奴だな。
でも、俺は知っているぞ。最近女の子弄りが俺にシフトしてきたからって、自分の存在感を消してスケープゴートにしようとしていることを。
この腹黒かわい子ちゃんめ。性癖がねじ曲がったヤツらを押し付けて、責任を取らせてやろうか。
そんな目的があったとしても、エルは応援してくれているのだろう。その言葉に嘘はないように見えた。
「頑張ってねノアくん。応援してる」
「上手くいったら、今度はエルに全部押し付けるからね。一人だけで逃げようなんてダメだよ?」
「ナ、ナンノコトカナー。あ、出番だし行ってくる!!」
祭りの開会式では、特別審査員の名前が呼ばれているところであった。
名前を呼ばれたエルは、観客達の要望に答えて笑顔で手を振りながらステージへと上がっていく。
あぁ、後1人で俺も呼ばれる。結局エルのアドバイスは“諦めて今を楽しめ”だったし、何の解決にもならないよ!!
「ふふっ、ノアくん可愛いですよ」
「今の会話を聞いてそれを言うなんて、嫌味にしか聞こえないよエリス」
「いえいえ。本心ですよ。やっぱりノアくんは可愛いです。ちょっと“エリスお姉ちゃん”と呼んでみてください」
「エリスお姉ちゃん?」
「ゴフッ........可愛すぎる。あぁ、もう死んでもいいかも........」
エリスの要望通り“お姉ちゃん”と呼ぶと(全力で媚びる)、エリスは吐血しながら倒れ込む。
あのー、あなたの出番もうすぐなんですけど。
もうヤダこの魔王軍。頭のおかしいやつしかいないじゃん。
助けてシスターマリア。貴方が俺の身の回りにいる人の中で一番まともなんです。
「ノアくん、もう女の子として生きていきませんか?」
「嫌だよ。それ以上変なことを言うと、このまま蹴るよ」
「それはそれでご褒美........ごほん。ま、ノアくんが本気で嫌がっているなら魔王様もやらないでしょうし、なんやかんやノアくんも楽しんでいるのでしょう?なら、諦めましょう!!そして、今度私が持ってきた服も着てください!!」
「絶対に着ないからね。二度と女物の服は着ない!!」
俺がそう宣言するも、エリスは“持ってきますから!!”と言ってステージへ上がっていく。
あー、やだ。次は俺の番だよ。
ノリ悪くやるとせっかくの祭りが台無しになってしまうし、結局はノリノリで出ていかないといけない。
声のチューニングだけしておこう。できる限り清楚で女の子らしい声を作っておくのだ。
「あーあー。こういう時、成長していない体って便利だよな。声変わりが来てないから、女の子っぽい声を出すのも割と簡単だし」
『そして、特別ゲスト!!魔王国にやってきては、瞬く間にアイドルとして全魔王国民を魅了した我らが姫様!!今回は特別審査員として参加してくれるので、料理店の皆様は張り切ってノア姫に料理を献上しましょう!!』
紹介が酷すぎるぞ。俺は、そう思いながらステージへと上がっていくのだった。
なお、俺のドレス姿を見た人たちは熱狂失神の狂喜乱舞であり、15分ほど全く祭りが進まないのであった。
おい、“ノア姫様命”のうちわを作ってるヤツらは誰だよ。これじゃ、まじでアイドルじゃん。
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