お料理グランプリ


 ガルエルとエリスを処し、しっかりと反省させた(多分またやる)日から数日後。


 俺は魔王軍の仕事をこなしつつリバース王国の感じを続けていた。


 反乱の準備は着々と進んでおり、もう少しすれば民衆が王に向けて剣を抜く。


 そして、魔王国としてその反乱に乗じて恩を押し付けて平和的な世界を築きたい。


 という訳で、エリスが公爵家へと出向いている。これが上手く行けば、戦争は終わりハッピーエンドが迎えられるだろう。


「お、おはよう姫様。姫様がこうして街を掃除してくれているのを見ると、朝が来たと思うようになっちまったよ」

「おはようおっちゃん。俺ももう習慣化して毎朝掃除しないと気がすまなくなっちゃったよ。こうして毎日おっちゃんと話すこともね」

「ガハハハハ!!そいつは良かった。アランもニーナ嬢ちゃんも一緒に3人でこの道を歩いている姿を見るのが日課なんだ。今後も頑張ってくれよ」


 ハッピーエンドへと向かい始めていたとしても、今日やるべきことは変わらない。


 相も変わらず乱数な女神様に微笑んで貰えるように、俺は街の掃除をしながら様々な人達との交流を深めていた。


 今や俺達は有名人。俺のことを知らない国民はいないし、親しみを持ってその名前を呼んでくれる。


 残念ながら“姫様”としか呼ばれないけど、まぁもう慣れた。


 何度注意しても聞く耳を持たない彼らに、俺が姫様でないことを伝えるのは不可能。


 最近では俺が掃除している姿を見たいのか、多くの人が大通りで待ち構えているんだから救いようがない。


 そこで手を振ったりしてしまう俺も俺なんだけどね。なんだろう。魔王軍でファンサービスをし過ぎた為か、自然と声に反応して手を振ってしまう。


 最初は姫様と呼ばれることすら嫌がっていたのに、今ではすんなりと受け入れてしまっている自分が怖いよ。


 人の慣れとは恐ろしいものである。


「僕は死ぬまでノアと一緒だよ。もちろん、ニーナもね」

「ん。にぃにと一緒。アランにぃはどうでもいいけど」

「ニーナ、本気で泣くよ?僕、結構ニーナに甘いんだけど........頭撫でさせてよ」

「やだ。アランにぃ、好きじゃない」

「ゴフッ........」


 妹分に“好きじゃない”と言われ、精神的ダメージを受けるアラン。


 大丈夫だよアラン。ニーナは口ではそう言っているが、なんやかんやアランのことも好きだし。


 嫌いなら3人で一緒に寝ないし、そもそも口すら聞かないんだぞ。更に言えば、アランの誕生日の時に抱きついてあげたりはしないのだ。


 頭だけは絶対に撫でさせてあげないけれども。


 ツンデレ妹なのだ。俺にはベタベタとしてくるが、アランにはツンデレ。


 さすがはニーナ。人によって妹の使い分けができている。


「ガハハハハ!!仲が良さそうで何よりだな!!ほら、今日の分だ。いつも街を綺麗にしてくれてありがとな」

「こちらこそ、いつもタダで串焼きをくれてありがとね。これを食べると元気が湧くよ」

「ハッハッハ!!そうか?それは良かった。これからも来てくれよ」

「もちろん」


 ニーナに弄ばれるアランを見て、ケラケラと笑うおっちゃん。やはり、おっちゃんは良い奴だ。


 この串焼きだってタダじゃない。自分の利益を損なってでも、俺たちに優しくしてくれるんだしな。


 おっちゃんだけでなく、他の人たちも優しいし、やはり魔王国は居心地がとてもいい。


「色々な串焼きを食べてきたけど、やっぱりおっちゃんの作ってくれる串焼きがいちばん美味いな」

「そうだね。結構色んな料理店を回ってるけど、串焼きだけは1番かも」

「他の料理だとどこが一番美味いんだろうな?シチューは思い出補正も入ってるから、一つしかないんだが........」

「ほうほうほう!!面白いことを話しておるな!!」


 そんなことをアランと話しながら街の掃除をしていると、後ろから嫌な声が聞こえてくる。


 うわぁ、振り返りたくねぇ。絶対変な企画を考えて持ってきたよこの人。


 俺は無視して行こうかとも思ったが、どうせ無視しても強引に話を聞かせてくる。


 こういう時は大人しく話を聞いてやる方が、最終的に面倒事が少ないと言うことを俺は知っていた。


 振り返れば、凹凸もない胸を張る可哀想な魔王がドヤ顔で立っている。


 俺はあからさまに嫌そうな顔をしながら、魔王に話しかけた。


「おはよう。じゃ、俺達はこれで........」

「待たぬか。せっかく姫の考えている事を実現させてやろうと言うのに、話すら来なぬとは妾、悲しさのあまり泣いてしまうぞ?」

「泣いてどうぞ。じゃ、俺達は仕事があるんで」

「酷い!!相変わらず妾の扱いが酷い!!レオナめ。一体部下にどんな教育をしておるのだ!!」


 魔王は“うえーん”と棒読みの泣き真似を少しだけすると、スっと正気に戻って真面目モードに入る。


 この悪ノリの時と真面目な時の差が激しすぎて風邪をひきそうだよ。


 もう少しそな振れ幅を落としてくれ。


「真面目な話をするとな、1週間後に“お料理グランプリ”を開催する予定なのじゃ」

「お料理グランプリ?」

「そうじゃ。魔王国にある全ての料理店が魔王城に集まって自慢の一品を提供し、投票によって栄光を掴み取るのじゃ。料理店の活性化と、祭りによって経済を回す目的でやっておるの」


 お料理グランプリか。サブストーリーにそんな話は無かったし、俺の知らない完全新規のイベントだな。


 しかも、この言い方からして今思いついたとかそういう訳では無い。


 あんなにワチャワチャ色々な事をやったというのに、まだイベントがあるのかよ。


「四年一度開かれる祭りでの。今年は丁度その年なのじゃ。本来であればま冬場にやるのじゃが、今年は特例で早めることにしての」

「なんで?」

「未だ戦争状態とは言えど、魔王国はサンシタ王国とカマセ帝国に勝利した。それを祝うついでに、冬場に行うとちょいと面倒なこのイベントを早めにしてしまうという訳じゃ。ちなみに、既に全店舗に話は通してあるの」


 こういう時だけは本当に有能になるよなこの魔王は。


 それにしてもお料理グランプリか。ちょっと楽しそうかも。


 前世で一度B1グランプリが地元にやってきて参加したことがあるが、結構楽しかった思い出がある。


 要はそれと同じ感じなのだろう。


 多分、サブストーリーの企画だけしてボツになったとかそんな感じかな?この世界は死に設定とかが生きている節があるし。


「いいじゃん。楽しそうだよノア」

「そうだな。結構楽しそうかも。惜しいものも沢山食べられそうだし、ボーナスと優勝賞金の使い道が決まったな」

「賭けで勝ったお金、ようやく使えそう」

「くははははははっ!!楽しみにしておくがよい。で、毎回このグランプリには幹部賞や魔王賞というものがあっての。幹部達や妾が気に入った料理を表彰する機会があるのじゃ」

「へぇ、それはみんな気合いが入るだろうね。選ばれた店舗には人が来るだろうし」

「うむ。で、今年は特別枠として姫にも参加してもらうつもりじゃ」

「え?俺?」


 俺、審査員をやれって事?嫌だよ。絶対目立つじゃん。


「何せ姫は今や魔王国のアイドルじゃ。ニーナは魔王軍のアイドルじゃが、魔王国となるとお主しかおらぬ。というわけで、当日は料理が死ぬほど運ばれてくるぞ!!あ、後本当に姫様の格好をさせるからよろしく!!」

「は?」

「ちなみに拒否権はないのでの!!魔王命令じゃ!!」


 何言ってんだこのロリババァは。


 審査員は百歩譲ってまだいいとしても、俺にドレスを着せて着飾ろうとしているだと。


 おいちょっとそのムカつくツラ貸せよ。ぶん殴ってやる。


 いや、俺じゃ力がないから、アランに殴らせよう。勇者が魔王を討伐する時が来たのだ。


「アラン、この魔王様をぶん殴ってくれ」

「分かった!!」

「ちょ、ちょっと待てアラン!!お主もノアの姫様姿が見たいじゃろ?!フリフリの可愛いドレスを着させるぞ?!」

「見たい!!でも、ノアの言葉が絶対!!」

「これだから姫に洗脳された勇者は!!えぇい。かかって来い!!妾が相手してやろう!!」


 結局、俺の意見は通らずに本当にドレスを着させられて姫様の格好をすることになるのだが、うん。まぁ、もう諦めたよ。

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